「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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空想作家と専属イラストレーター&猫7匹の 愛妻家の食卓
『ボタン工場のカムイ』第9話~最終話
〔よし、出発だ!〕
ヒチベイさんはそう言うとフタをくわえ、岸からボクたちを流れのある中ほどに誘導した。
「わっ!」
その川の流れは思ったよりもっと速かった。
「すごいね、サンタ君・・・」
〈そうだな、この流れもすごいけどヒチベイさんもすごいよな・・・〉
後ろを見ると、のんびりヒチベイという名前がウソのように見事に泳ぎ、船をコントロールしてくれていた。
「うん、ヒチベイさんカッコイイ・・・」
ヒチベイさんの勇姿にボクたちの不安は吹っ飛び、しばらく川を覗き込んだり、川原の景色を見たりして初めての光景に見とれていた。
「川はだんだん広くなっていくんだね・・・」
〈うん、海が楽しみだな・・・〉
「うん・・・」
〈ほらっ、川や景色もいいけど空を見てみろよ、今日は雲がキレイだぜ・・・〉
「ホント・・・綺麗・・・」
ボクは工場の中にいたので空は遠くにある窓ごしでしか見たことがなかった。
ボクたちは寝転んでしばらく空を見ていた。
「世の中って不思議なものばかりだね」
〈あぁ、だから生きてるだけで楽しいのさ・・・〉
「そうだね・・・」
揺れる船、綺麗な空・・・ボクたちはあまりの気持ち良さに眠ってしまった・・・
「・・・う~ん・・・えっ?サンタ君!」
〈・・・ん?どうした・・・〉
「ここは海?」
〈いや、違う・・・波がないもの〉
「まだ川かぁ・・・」
〈でも、ずいぶん広くなったな〉
「うん・・・あれ?少しずつ岸に近づいてるよ」
〈本当だ・・・〉
船はゆっくり前に進みながら岸に近づき、岸に止まった。
〔ワシが行けるのもここまでだ〕
ヒチベイさんはそう言うと、船を岸に上げた。
「えっ?」
〔ワシにとって塩水は恐ろしい水なんじゃよ〕
「塩水?」
〔そうじゃ、海の水と川の水は違うんじゃよ〕
「・・・」
〈そうですか・・・仕方ないカムイ!ここからは歩いて行こう〉
「うん、ヒチベイさんありがとうございました!」
〔いいんじゃよ、ワシがそうしたかったんじゃから、こんなに何かに必死になることはまず、無いからのう・・・〕
「ヒチベイさんはまた泳いで帰るんですか?」
〔そりゃ無理じゃ、この流れを逆に上っていくのは・・・ぼちぼち歩いて帰るとするよ〕
「歩いて!」
〈歩いて?〉
〔あぁ、10日もかければ帰れるじゃろう〕
「10日も?・・・」
〔な~に、ワシには一瞬じゃよ、それよりお前達こそ頑張るんじゃぞ、この世で1番小さな冒険者たちよ、友よ・・・〕
「はい!」
〈はい!〉
〔じゃあ元気でな〕
「さようならヒチベイさん!ホントにありがとうございました・・・」
〈さようなら、このご恩は忘れません!〉
そうして、ヒチベイさんは本当にのんびり、ゆっくりと行ってしまった。
〈よし!おいらたちも出発だ!〉
「うん!」
つづく。
第10話・『海』
テケ・テケ・テケ・テケテ・・・
シュタ・タ・タ・タ・タ・・・
ボクたちは海に向かって走った。
〈ん?この匂い・・・〉
クンクン・・・
「何の匂いだろう」
クンクン・・・
〈もしかしたら海の匂いかもしれないな〉
「海に匂いがあるの?」
〈分からないけど、そんな気がする・・・〉
「海の匂いかぁ・・・」
〈よし、もう少し頑張って走ろう〉
「うん!」
そうして、しばらく走ると、またサンタ君が足を止めた。
「どうしたの?」
〈聞こえないか、この音・・・〉
ザーー・・・ザーー・・・
「聞こえる・・・これってもして波の音?」
〈そうに違いない!きっと、この茂みを越えると海だ・・・〉
そして、ボクたちはドキドキしながら茂みを越えた・・・
「・・・」
〈・・・〉
サンタ君の言ったとおり海が見えた。
その壮大な光景にしばらく声も出せずに固まっていた・・・
「・・・これが海・・・何て大きいんだろう・・・これが全部水だなんて・・・」
〈いくつもの大きな川の水がここに全部集まっているんだものな・・・〉
「近くまで行ってみようよ!」
〈そうだな、行こう!〉
ボクたちは海辺に向かった。
「わぁ、真っ白な砂」
〈うまく歩けないな・・・〉
ザブーン・・・ザブーン・・・
〈おぉ!〉
「すごーい!」
まるで立ちはだかる大きな壁のような波が次々と押し寄せては帰っていく・・・
「ホントに海って凄いね・・・」
〈そりゃ1番小さなおいらたちがこの世で1番大きなものを目の前にしてるんだ・・・〉
「うん・・・」
〈ありがとうな、カムイ〉
「どうしてサンタ君がボクに?ボクがお礼を言わなきゃいけない方なのに、本当にありがとう」
サンタ君にはありがとうの言葉だけでは足りないくらいだった・・・
〈いや、本当においらは感謝してるんだ、カムイに出会わなかったらおいらはまだあの町で退屈な暮らしをしていたさ・・・ずっと何かやりたかったんだ!でも、その勇気がなかったんだ〉
「サンタ君だけでもボクだけでもここまで来れなかった。そうでしょ?」
〈そうだな・・・コロッケさんやヒチベイさんにも世話になったしな〉
「うん、友達っていいね・・・」
〈そうだな・・・〉
しばらくボクたちは海を眺めていた。すると、
〈あそこに家が見えるぞ、もしかしてカムイが探している工場長さんの家じゃないか?〉
と、サンタ君が家をみつけた。
「あっ、ホントだ!」
〈行ってみるか?〉
「うん!」
と、走りだそうとした時!・・・
つづく。
第11話・『絶体絶命』
〈待て!カムイ!・・・・・・そんなぁ・・・〉
サンタ君が驚いた先を見ると、それはあの恐ろしい猫だった。
しかも、ボクたちに向かって歩いて来ている・・・
「ど、どうしよう・・・」
〈この足場じゃとうてい逃げられない・・・〉
「分かった、サンタ君だけでも逃げて!ボクがおとりになるよ!」
〈バカ!今さらそんなことできるか、お前をおとりにするなんて・・・〉
「でも、このままじゃ2匹とも・・・」
〈もう、何をしても遅いみたいだ・・・〉
猫はボクたちに走り向かってきた。
〈くそっ、ここまで来たのに・・・〉
「サンタ君、恐いよ・・・」
絶体絶命!
しかし、その猫は襲いかからずにボクたちの目の前で止まった。
そして、1番恐れていた相手、恐ろしいハンターはボクたちに顔を近づけた。
〔わぁーなんて可愛いの!君たちは何?その首から下げている物は?なんてキレイなの・・・この辺りじゃ見かけない動物ね、もしかして海から来たの?〕
「え?・・・」
〈え?・・・〉
ボクたちはポカーンとした。
〔あら、言葉が通じないのかしら?〕
「ボ、ボクたちを食べないの?・・・」
〔何だ話せるんじゃない、食べるわけないじゃない、こんな可愛い子たちを、それに私は魚しか食べないのよ〕
「・・・本当に?」
〈本当に?・・・〉
〔でも、何でだろう?・・・君たちを見てると、何だかツメがムズムズするわ〕
「!」 〈!〉
〔冗談よ、それより君たちはどこから来たの?〕
幸い、この猫は少し変わっていた
「遠い町から川を下って・・・」
〔うそぉ!凄いわね。でも、どうして?〕
ボクはまた、これまでのことを全部話した。
〔なるほどね、君たちは正解よ、私に付いてらっしゃい!〕
言うことを聞くしかない・・・
「はい・・・」
〈はい・・・〉
砂浜を歩いている間、猫はずっと話しをしていた。
〔私はベティ、君たちの名前は?〕
「カムイです」
〈サンタです〉
〔あら、姿とは違ってカッコイイ名前ね、ところで私を見た時どうしてあんなに驚いていたの?私ってそんなに恐い顔してるのかしら?・・・ねぇ?〕
〈・・・〉
「そ、そんなことはありません!べティさんが真っ白であまりにキレイだったから、それで・・・」
〔まぁ、嬉しい!私も君たちとお友達になれるかしら?〕
「はい、もちろんです。これをもらってください」
〈・・・〉
ボクは最後のボタンをベティさんにわたした。
〔キレイ・・・貝殻ね?私にぴったりだわ、ありがとう〕
そして、しばらくすると、べティさんが海辺の家を指して言った。
〔おじさんはとっても優しくて、私に時々食べ物をわけてくれるのよ、知り合いなのよ〕
「工場長さん・・・」
すると、サンタ君が小さな声でつぶやくように言った。
〈カムイ、ここでお別れだ・・・〉
つづく。
最終話・『奇跡』
ボクは突然のサンタ君の言葉に唖然とした。
「お別れ?何言ってるの?最後まで付いてきてよ、工場長さんを紹介したいんだ」
〈それは無理だって、きっとおいらは嫌われる・・・それにおいらの目的はただあの町を出たかっただけだから、海が見てみたかっただけだから・・・〉
「そんなことないよ・・・嫌だよ・・・」
〈・・・〉
〔行ってみましょうよ、別れはそれからだって遅くないでしょ?〕
ベティさんも一緒に引き止めてくれた。
「そうだよ、まだいいでしょ?」
〈・・・うん、分かったよ〉
「やったー!」
〔じゃあ行きましょ〕
そして、とうとうボクたちは家に着いた。
「ドキドキする・・・」
〈おいらだって・・・〉
〔私が呼んであげるわ〕
ニャーオ・ニャーオ・・・
べティさんは家の玄関の前で大きな声を上げた。すると・・・
ガチャ!
ドアが開き、出てきたのは工場長さんだった・・・
〔おや、べティじゃないか・・・ん?その貝殻のボタンは・・・なぜ?〕
ニャーー
「工場長さん!ボクだよ!」
ボクは前に出た。
〔カムイ?カムイなのか?ど、どうしてここに・・・そのネズミは?そのネズミも私のボタンを・・・〕
言葉が通じないのが悔しいけど、ボクは身振りで喜びを伝えようとした。
テケ・テケ・テケ・テケ・・・
〔何だか今日はおかしなことばかりだ・・・とにかくみんなお入り〕
工場長のおじさんはボクに手をさし出し、ボクは手に乗った。
恋しかった優しい手の温もり・・・
〔もしかして、私を訪ねてくれたのかい?あそこからだったら大変だったろうに・・・あのネズミは友達だね〕
工場長さんはしゃがんでサンタ君に言った。
〔君がここまで連れて来てくれたのかい?本当にありがとう・・・〕
〈・・・〉
サンタ君は工場長を不思議そうにキョトンと見上げていた。
〔良かったらこれからカムイと一緒にここに住まないかい?私は一人で寂しくてね〕
〈えっ!〉
「サンタ君!そうしようよ!」
〈ずっと、お前と居られるのか?もう独りじゃなくていいのか?〉
「うん」
そして、工場長さんは話を続けた?
〔ベティもどうだい?にぎやかなほうがいい〕
それにはボクたちもビックリだった。
〔・・・まぁ、いいわよ〕
ベティさんの返事にもビックリした。
〔カムイ、まだ驚くことがあるんだぞ〕
「えっ!まだ?」
〔実はついさっきイヌが迷い込んだんだ、それもカメを背負って・・・そのイヌとカメも私のボタンを付けていたからビックリしたよ、それもカムイの友達なのかい?〕
「えっ!」
〈えっ!〉
すると、奥の部屋からコロッケさんがヒチベイさんを乗せて出てきた。
「ど、どうして??・・・」
ボクは夢だと思った。
〈コロッケさん?どうしてここに?・・・〉
〔実は私のご主人様は年寄りで一人身でな、急に老人ホームという施設に暮らすことになったんだ、そして、仕方なく私を誰かに渡そうとしたんだが、私はそれが嫌でな、飛び出したんだ〕
〈・・・だけど、どうしてヒチベイさんと、ここに?〉
〔君たちがあれからどうなったか気になって、川原を歩いていたんだ、そしたら見覚えのあるボタンを下げたカメに出会ったんだよ〕
そして、ヒチベイさんが言った。
〔不思議じゃのう、このボタンの力かのう〕
ボクたちはそろってボタンを眺めた。
そして、工場長さんが言った。
〔やっぱり知り合いだったのか、よし、これからはみんな一緒に楽しく暮らそう〕
と・・・
こうしてボクたちは工場長さんの思いがこもったボタンに導かれ、
この海の見える緑の屋根の家にみんなで住むことになった・・・
おしまい。
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