空想作家と専属イラストレーター&猫7匹の                 愛妻家の食卓

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『願い石』・第11話~最終話




〈ありがとうな、涼〉

「ううん・・・またチャーリーに会えて良かったよ・・・やっぱり夢はいいね」

〈そやな・・・今までの借りはきっちり返すで、もう誰にも辛い思いはさせへん!〉

今は根拠も分からないチャーリーの自信が僕を勇気付けた。

「チャーリーは変わらないね、いつも前向きでうらやましいよ」

〈涼だって変わってへんよ、まぁ・・・見た目は随分変わったけどな〉

「随分?そりゃそうだよ、体だけは成長してるからね」

〈いい男になったな〉

「そう?自分では情けなくて仕方ないんだけど・・・」

〈・・・そうや!また約束しよう!これからは自信を持って何事も自分から進んでやるって約束してくれ、そうすればわしが幸せな日々を保証したる!〉

「チャーリーが僕の幸せを?僕は夢も見れないし、チャーリーだって消えちゃうんでしょ?」

〈あぁ、でも約束してくれ・・・それでわしも安心して消えられる〉

この時、やっぱりチャーリーも消えるのが怖いんだなと感じた。

「・・・勝手なんだから・・・でもいいよ、約束する」

〈ありがとうな〉

「チャーリーは友達以上だからね」

〈そうやな、わしも涼のことそう思ってる〉

「ありがとう・・・また寂しくなるけど頑張るよ」

〈大丈夫や、最後はハッピーエンドや・・・〉


これが昨日の夢。本当の最後の夢だった。そうして今日、僕はこの道で石を蹴っている。

コロン・コロコロコロ・・・

町並みは随分変わった。一軒家は少なくマンションやアパートばかり。

あの犬のコロの家も無くなって今はマンションになっている。

ただ、道は変わらない・・・

そして、町と同じように人も変わった。子供たちは木陰で携帯ゲーム、大人たちは誰もが他人で自分が生きることで精一杯・・・

当然、こうやって石を蹴っている僕は変わり者と思われているだろう・・・

コロン・コロコロコロ・・・

あの時、何日もかかった道のりも凄く短く感じた。

コロン・コロコロコロ・・・

あっという間に苦労したあの道を横切る金網の水路・・・

コロン・コロコロコロ。

「今は狭く感じるな・・・」

僕が余裕だと思って石を蹴ろうとすると、

ニャーオ

「わっ!・・・」

いつの間にか僕のすぐ後ろに猫が居た。

「びっくりするじゃないか!」

と、振り向くと・・・!

ニャーオ

「えっ?」

その猫は小さいけど、チャーリーに瓜二つだった・・・

ニャーオ

そして、猫は僕の蹴っていた石をくわえて金網の水路を飛び越えた。

「これも夢?・・・チャーリーなの?」

猫は僕の言うことなどお構いなしに石を置いてトコトコと歩き出した。

「待って!」

石にも眼をくれず、僕が追いかけると、猫は逃げるようにスピードを上げた。

「待ってよ!」

僕はその瞬間、運命が逃げると思ってあせった。

「チャーリー!」

僕が大声を出すと猫は一瞬振り向いたけど止まってはくれず、角を曲がってしまった。

そして、僕もあきらめず追いかけて角を曲がった・・・

ゴツンッ!

「痛っ!」〔痛っ!〕

曲がった先で僕は人とぶつかってしまった。

「す、すみません・・・大丈夫ですか?」

〔はい・・・〕

運悪く、ぶつかった相手は女の人だった。僕も痛かったけど相手はしゃがみ込んで頭を抱えている・・・僕は青ざめた。

「本当に大丈夫ですか?」

〔大丈夫です。こちらこそすみませんでした・・・夢中で猫を追いかけていて・・・〕

「えっ?猫・・・僕も猫を追いかけて・・・」

〔えっ!〕

女の人は顔を上げ、僕の顔を見て驚いた。そして、信じられない言葉を言った・・・

〔私が追いかけていた猫はチャーリーって猫なんです〕

「まさか・・・」

僕はわけが分からなかったけど、相手はそうじゃなかった。

〔涼兄ちゃん?〕

「えっ!・・・どうして僕の名前を?」

〔本当に涼兄ちゃんなのね?・・・やっと、やっと会えた・・・〕

そう言うと女の人は僕に抱きついて子供のように泣き出した。

「ちょ、ちょっと待ってください!・・・」

はっとした瞬間、やっとその女の人が誰か分かった。

「もしかして、かおりちゃん?・・・」

〔うん、そうだよ〕

「とにかく、ほらっ、泣かないで顔を上げて」

〔だって・・・ずっと会いたかったんだもん〕

かおりちゃんは僕の胸に顔をうずめたまましばらく泣いた。突然で戸惑ってはいたけど、ただ泣き止むのを待った・・・

〔ごめんね・・・〕

顔を上げたかおりちゃんは面影は残っていたけど女の子では無く、女の人だった。





『願い石~夢猫チャーリーの贈り物・第12話』


「・・・何から話せばいいのかなぁ・・・元気だった?」

色々な思いが多すぎて言葉がみつからなかった。

〔うん、涼兄ちゃんは?〕

「まぁまぁかな・・・」

〔私ね、涼兄ちゃんに会えるかもしれないって今まで何度もここに来たんだよ〕

「でも、あの後すぐお母さんと一緒に田舎に戻ったんじゃなかったの?」

〔うん、でも何度も足を運んだよ、涼兄ちゃんに会いたくて・・・一人で一日中ここに立ってた事もあった〕

「そっか・・・僕は年に2回ぐらいしか来てなかったから・・・ごめんね・・・かおりちゃんも辛かったんだね」

〔うん・・・でも涼兄ちゃんもきっと同じ思いで過ごしてきたんだよね・・・〕

消えることの無い辛い思いを抱えてきた事の辛さが痛いほどよく分かった。と、同時にまた突然、持病の胸の痛みが僕を襲った・・・

「うっ・・・」

〔大丈夫?涼兄ちゃん・・・病気なの?〕

「ごめん・・・大丈夫だよ、すぐ治まるから」

僕は呼吸を整えた。

〔もしかして、昔の事が関係してるの?〕

「カツが亡くなったあの日、胸が張り裂けそうになった。それからずっと時々・・・」

〔ずっと?・・・涼兄ちゃんがそこまで苦しんでたなんて・・・〕

彼女はまた涙をこぼした。

「消せないし、消したくないから仕方ないんだ、大丈夫だよ」

〔ごめんなさい・・・〕

「どうして、かおりちゃんが謝るのさ、さっきも言ったけど想いは一緒なんだから・・・そういえばチャーリー?僕も追いかけてたんだけど?」

〔うん、確かに私も追いかけて・・・どうなってるのかな?〕

「幻?」

〔同時に?〕

「そんなことないよ、あんなはっきりしてたのに・・・夢で何か言ってなかった?今、かおりちゃんの夢の中に居るんでしょ?」

〔うん・・・でも、昨日お別れを言ったの・・・でも、ここに来たら今度こそ涼兄ちゃんと会えるって言ったから、それで頭いっぱいになって・・・後は何も考えられなくて〕

「かおりちゃんにも別れを?・・・この世界にチャーリーが来たってこと?」

〔そうならいいのになぁ・・・どこに行ったのかな?・・・もう会えないのかなぁ〕

「まったく、いつも勝手なんだから・・・チャーリー!居たら出てきて!」

僕は辺りかまわず叫んだ。

〔・・・〕

僕らは辺りを見渡した。

ニャーオ・・・

〔チャーリー?・・・〕

ニャーオ・・・

「どこ?」

近づく声を必死に探した。

ニャーオ

〔あっ!チャーリー!〕

「チャーリー?」

チャーリーは塀の上を歩いて近づいてきた。そして、

ウニャッ!

僕たちの目の前に降り立った。

「まったく人騒がせなんだから」

〔会えた・・・〕

チャーリーは喉を鳴らして僕とかおりちゃんの足元に体をすり寄せた。

「チャーリーなんだろ?ちゃんと説明しろよ!」

だけど、チャーリーはただ足元に絡むばかり・・・

「もしかしてチャーリーに似ているだけでチャーリーじゃない?」

〔そんなことないよ、小さいけど・・・間違いなくチャーリーだと思う〕

「そうだよね、こんな偶然あるはずないよね」

〔うん、チャーリーだよ〕

そう言うと、かおりちゃんはチャーリーに手を伸ばした。

〔現実でチャーリーに触れられるなんて・・・〕

チャーリーは喉をいっそうゴロゴロと鳴らした。

〔あなたってつくづく不思議な猫ね、昨日までは夢の中に居たのに・・・〕

「ホントにどうなってるんだろう?」

僕もしゃがんでチャーリーを撫ぜた。チャーリーはよほど気持ちよかったのかその場でお腹を見せて寝転んだ。

その可愛さに僕たちもしばらく一緒になってチャーリーを撫ぜていた。

〔もうチャーリーはこの世界の猫になったのかな〕

「うん、たぶん・・・」

〔今はただの野良猫ってとこだよね?〕

「そうだね」

〔じゃあ、私が飼っていいよね?〕

「えっ、本気?」

〔うん、だってずっと一緒に居た友達だもん〕

ウニャ!

「そっか、チャーリーも喜んでるみたいだし、それがいいね」

〔うん!今日から家族よ、チャーリー〕

ニャーオ

「でも、田舎まで大変じゃない?」

〔あっ、舞い上がって言い忘れてた・・・私ね、この町に先週引越ししてきたの〕

「えっ!ホントに?」

〔うん〕

「じゃあ、ここから近いの?」

〔前と一緒よ〕

「あの家に?」

〔うん、ホントにごめんなさい・・・〕

「そんなのいいよ、僕だって聞きたいこととか沢山で何から話したらいいか分からないんだから」

〔そうよね、あれから1度も会ってなかったんだから・・・涼兄ちゃんの一番聞きたいことって、やっぱり和義の願い事でしょ?〕

「そうだね、ずっと気になっているよ」

〔やっぱり、チャーリーは何も言わなかったのね〕

「かおりちゃんは知ってるの?」

〔ううん、はっきりは言ってくれなかった・・・ただ・・・〕

「ただ、何?」


つづく。







『願い石~夢猫チャーリーの贈り物・最終話』


〔夢の中で映像を見せてくれたの〕

「どんな?」

〔和義と・・・私と私の家族と涼兄ちゃん、そしてチャーリーとで1つのテーブルを囲んでみんな幸せそうに笑ってた・・・そんな映像を見たの〕

「それがカツの願い事?・・・それはチャーリーが言ったように無茶な話だよ」

〔そうよね・・・でも、夢の中でチャーリーは無理なこともあるけど努力するって、涼兄ちゃんの苦しみを無駄にはしないって言ってくれたわ〕

そう言ってかおりちゃんはチャーリーを抱き上げた。

「そう言ったって・・・」

ずっと気にしていたカツの願い事があまりにも非現実的だったことが僕にはショックだった。

〔チャーリーが言った涼兄ちゃんの苦しみって何?ずっとチャーリーはそれを気にしていたわ〕

「かおりちゃんには言っても信じてもらえるかな?」

〔うん〕

「僕はカツの願い事を叶えられるようにチャーリーに力を渡したんだ、僕の夢を」

〔夢?〕

「うん、僕の一生分の夢・・・だから僕は眠っても夢は見ないんだ」

〔和義のためにそんなことを?・・・私は夢の中が唯一の逃げ場所だったから・・・辛かったでしょ?〕

「うん・・・だからこそカツの願い事をずっと今でも願ってるんだ・・・」

〔願い事、無理かなぁ?・・・もちろん和義は現実には居ないけど・・・でも、今日、涼兄ちゃんに会ったし、チャーリーは現実に私の胸に居るよ、涼兄ちゃんは今日の事どう思う?〕

「今日の事?・・・チャーリーは偶然のような運命だって・・・ハッピーエンドになるって・・・だから僕はここに来たんだ」

〔私もよ・・・涼兄ちゃん、もう少しこの偶然に身を任せてみない?〕

「そうだね、これ以上何があるのか分からないけど・・・」

僕はこの偶然に賭けてみようと思った。

〔ねぇ、涼兄ちゃん、これから家に来ない?きっとお母さんも喜ぶし、和義も・・・〕

全て受け止める・・・僕はそう思っていた。

「うん、喜んで」

そうして僕らはあの家へと向かった・・・

「変わってないね・・・うっ!」

何かあるごとに胸が痛む。

〔大丈夫?〕

「うん、大丈夫だよ」

〔じゃあ入って〕

「うん・・・」

〔ただいま!〕

ウニャ!

家に入るなりチャーリーはかおりちゃんから飛び降り、家の奥に走っていった。

〈きゃっ!何?この猫!〉

悲鳴が聞こえた。きっと、おばさんだ・・・

〔ごめん、お母さん!その猫は大丈夫、今日から私が飼うの〕

〈飼う?和義の部屋に行ったわよ!〉

〔いいの、それより来て、お客さんが居るから〕

〈お客さん?・・・〉

少し歳をとったおばさんが顔を見せた。

「お久しぶりです」

〈どうも・・・どちら様でした?〉

〔お母さん、涼兄ちゃんだよ!〕

〈うそ?・・・涼君なの?〉

「はい」

おばさんは本当に信じられないという顔をしていた。

〈かおり、どういうこと?〉

〔近所で偶然に会ったの、それで話が盛り上がって・・・お母さんも喜ぶかなと思って来てもらったの〕

〈そりゃ嬉しいわよ・・・立派になって・・・元気だった?〉

「はい、おばさんも元気そうで」

〔お母さん、話は中で〕

〈そうね、涼君上がって〉

「はい」

僕はかおりちゃんについて家の中に入った。

ここも時間が止まっていたようだ、みんな変わりない・・・

〈ここに座って、紅茶でいい?〉

〔それよりお母さん、まずは和義に会いたいんじゃない?〕

「はい、先に会っていいですか?」

〈そうよね、かおり、部屋に案内してあげて〉

そうして、かおりちゃんに案内してもらって僕は初めてカツの部屋に入った・・・

「・・・」

物が少なく、本の多いい子供部屋だった。

〔あっ!チャーリー!〕

チャーリーは勉強机の上に座っていた。

〔そこに写真が飾ってあるの・・・チャーリー、涼兄ちゃんと変わってあげて〕

ニャーオ・・・

チャーリーが少し体をよけると、そこにはにこやかに笑うカツの写真が飾ってあった。

「カツ・・・」

動悸?・・・胸がまたギュッとなったけど、それはいつもと違った・・・何だか胸から痛みが抜けていくような感じで、すぐに治まってすっきりした。

「・・・やあカツ・・・誰だかわかるかい?・・・涼お兄ちゃんだよ・・・変わっただろ?でも心は変わってないよ・・・今でもあのまま時間が止まってるんだ・・・」

僕はかおりちゃんが居るのも忘れて無意識に涙が流れた。

「会いたかったよ・・・ずっと会いたかった・・・ごめんな・・・あれからみんなが口をそろえて忘れろって、兄ちゃんは会いたかったのに・・・ごめんな」

ずっと言いたかったことだった。

「やっぱり答えてはくれないんだな・・・でも感じる、ここに・・・胸に・・・」

僕はしばらく時間を忘れて語りかけた・・・そしてそれと同時に体が軽くなっていく気がした・・・

「かおりちゃん、チャーリーありがとう・・・」

〔ううん、お礼を言うのは私たちの方、きっと和義も喜んでいるわ・・・涼兄ちゃん、この少しの時間で目が変わったね、何て言うか・・・すっきりした感じ〕

「目が変わった?」

〔うん、私があこがれた目に戻った〕

ニャーオ

「気が楽になったからかな・・・」

それからまた話し込んでいると、おばさんがやってきた。

〈かおり、涼君、少しお茶でも飲まない?〉

〔もうこんな時間・・・涼兄ちゃん一息入れよ〕

「そうだね」

〈涼君だったら、いつまで居てもいつ来てもいいんだから。ねっ、かおり?〉

〔う、うん・・・〕

〈そうだ涼君、もうこんな時間だし晩ご飯も食べて行かない?おばさんも沢山話したいし、かおりもそうだと思うわよ〉

「・・・いいんですか?」

〈かおり、いいわよね〉

〔うん〕

「じゃあ、お言葉に甘えてゆっくりさせていただきます」


毎日、何事も無く、平凡な日々を過ごしていた僕には急展開だったけど、ここまで来たら全てに身を任せようと思った。

決して色あせない記憶とチャーリーが起こした奇跡、カツを感じながらカツの家族とカツの家で過ごす時間が夢を見れなくても夢心地だった。

そうして、僕は自然とここに通うようになり、それが僕の治療になったのか定かではないけど胸の痛みもなくなった・・・

そして、僕はこの歳になって、かおりちゃんに初恋をした。

僕らは恋に落ちた・・・

時は今までが嘘みたいに和やかに流れた。

そして僕はかおりちゃんと結ばれて、カツの本当の兄になり、家族となった・・・



チャーリー

今はもう答えてはくれないけど、これがカツの望んだ願いだったのかな?

ありがとうチャーリー・・・

ありがとうカツ・・・

僕は今、幸せだよ・・・

おわり。





エピローグ


しばらくして近所の子供がこんな歌を歌いながら石を蹴って歩いていた。

〔コロ~ン・コロ~ン・願い石~♪コロ~ン・コロ~ン幸せ運ぶよコロ~ン♪・・・〕

僕が声をかけて話を聞くと、夢の中で小さな男の子がそうやって歌いながら現れると答えた。

そして、僕の娘の夢の中にも・・・

どうやらこの物語はこれから始まるのかもしれない・・・

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