剣士汁でまくりやねん。

剣士汁でまくりやねん。

<3.仲間>


その出来事があってから、私は一段と狩りに身が入るようになった。
アークと名乗った男は、私がやっとの思いで倒したモンスターを一撃で倒した。

強かった。

何度もあの時の光景が頭に浮かぶ。

負けたくなかった。
強くなったら、アークにまた会える気がした。

私は何かにとりつかれたように、ただひたすらにモンスターを倒し続け、経験値
を稼いだ。

今日も、擦り傷と泥まみれになってしまった。

夜も深まり、もうそろそろ帰ろうと思った時

「あ!ダメ~!!」

少女の声が聞こえた。
あたりをキョロキョロすると、手に槍を持った小さなモンスターが私に突進してくるのが見えた。
私は身の危険を感じ、そのモンスターを斬り捨てた。

モンスターは、
「わおーん」
と言い、その場に倒れた。

草むらから、少女が飛び出した。

「ああああああ!!!!」

少女は絶叫すると、たった今私が倒したモンスターに駆け寄った。

「わ、私の毛まみれちゃんがあ!!!!」

モンスター、毛まみれちゃんは、すでに息絶えていた。
少女はその場にへなへなと座り込むと、毛まみれちゃんに抱きついた。

「あ、あの...」

私は少女に声をかけた。

少女は泣きながら顔をあげると、

「これ、私のペットだったの。」

と言った。

少女は、調教師だった。
調教師とは、モンスターを説得後、自分の仲間にし、調教してより強いペット
に育てあげる。そして、そのペットにモンスターを倒させ、生計をたてている人
の職業の事だ。

「それは、知らなかったとはいえ悪い事をしたわね・・・」

私は少女に謝った。

「仕方ないわ。
この子が襲ったんだもの。」

普通、調教されたモンスターは人は襲わない。

「ちゃんと育てれなかった私が悪いの。」

少女は毛まみれちゃんに、ごめんねと言うと立ち上がった。


「私はユナ。見ての通り、調教師よ。」

少女は自己紹介すると、深くかぶっていたフードを取ってみせた。

「わ、私はアヤカ。剣士よ。」

少女の顔は、たった今まで泣いていた事を忘れたかのようにパァっと輝いた。

「アヤカ!よろしくね!」

ユナは私に抱きついた。
少女の体が私に密着する。無防備な、愛らしい女の子だった。

なんだか、くすぐったい。
今まで、誰かに抱きつかれた事なんて、あんまりなかったもの。

ユナは、
「あたしとアヤカが出会えたのも何かの縁!
ねね、今日はもう遅いし、家に来ない?」

と言い、強引に私の腕を引っ張った。

「え」

急な展開に私は少し戸惑った。

「皆いい人だから、きっと、アヤカの事を歓迎するよ♪
メンバー募集してるし♪」

皆...?
メンバー?

私はよく、意味がわからなかった。

「とにかく来て!」

ユナは私の腕に絡み付く。

まぁ、家に帰っても、特にやる事もないし...
私は少し考えた後、ユナについていく事に決めた。

「わ~い!こっちよ♪着いてきて!」

ユナは私の腕を引っ張りながら、町の方へ向かった。




「ここが、あたしの家よ!」

連れて行かれたのは、ホールだった。

「お城みたい」
私は呟いた。

ホールの床はタイルでできており、真ん中には女の姿をした石像がある。
奥の方には、見事な鳥の形をした石像もあった。

「すごい・・・!」
私は圧倒された。

見れば、図書館や雑貨屋、会議室と思われる机とイスが沢山並ぶ部屋や、個人の部屋もある。

町に、こんな場所があったなんて。

「アヤカ!こっちに来て!ギルマスがいるの!」

私は訳も解らず、ユナに連れられていった。

よく見ると、奥の方に人影が見える。
どんどん、その影に近づいていく。
やがて、顔がハッキリする。

ユナはその人の前で歩みを止めた。

「この人が、ギルマスのクロノスよ。」

紹介された男は、
「こんばんは、クロノスでーす。」
と挨拶した。

「えっと、私はアヤカです。」
少し遅れて、オドオドしながら話す。

「ギルド入会希望者か?」
クロノスは私の隣にいるユナに問う。

「えっと、そう!
そうよね!!アヤカ!」

ユナは楽しそうにそう言った。

「ギルド?」

私は困惑した表情で、ユナを見た。

クロノスはユナをチラッと見ると、ため息をついた。

「また、ユナが勝手に引っ張ってきたんだろ」
ユナはエヘヘと言い、舌を出した。



「というわけで」

クロノスは、会議室で一通りの説明を終えた後、私に向き直った。

「ギルド、ジェネシスでは、メンバーを募集している。
アヤカも加入しないか?」

クロノスはそう言い、契約書を差し出した。
ギルドとは、簡単に言うと同じ目的を持った冒険家の集まりの事だ。
この世界には、既に数多くのギルドが存在し、他のギルドと戦い、
最も強いギルドを決める戦いーギルドバトルがなんと言っても盛り上がる。

「うちのギルドは、人がただでさえ足りないのに、まとまりもないの~。
だからギルドバトルではいつも負けちゃって。」

ユナが横から口を挟んだ。

「強くなりたいなら、一人で狩りをするよりも、俺達と手を組んでやらないか?」


ツヨクナリタイナラ


この言葉が決定的だった。
私は契約書にサインをし、ギルドに加入することを決めた。

「よろしくお願いします」

ユナがわぁっと喜ぶ。
サインし終えたのを確認し、クロノスが渡したいものがあると言い、席を外した。

なんだろう?

しばらくして、クロノスが戻ってきた。

「アヤカ、手出して。」

私は言われた通り、手を差し出した。

「これが、ギルドの紋章だ、なくすなよ」

手の中を見ると、羽の絵が刻まれたブローチが転がっていた。


これ...!


たしか、アークもブローチをつけていなかったか。
記憶を探る。

アークは確か、天使の絵が刻まれた....

私はクロノスに聞いた。

「この絵は羽だけど、天使の絵がついたブローチはどこのギルドなの??」

クロノスとユナは顔を見合わせた。
クロノスは険しい表情で、こう答えた。

「天使のブローチがついたギルドの名はエンジェル。
俺達の敵だ。」

クロノスはそう言い捨てた。



てき



アークにまた会える気がして強くなりたいのに

私は、軽率に契約書にサインした事をもう後悔した。


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