剣士汁でまくりやねん。

剣士汁でまくりやねん。

<10.クロノス>


「誰かいますかー?」

私の声がホールに反響して消える。
ギルドホールに入ると、中には誰もいなかった。

「誰もいないな、出直そうか。」
「うん...」

私達は踵を返して、帰ろうとしたが

ドンッ
ギルドホールの入り口付近で、大きな黒い影にぶつかった。

「あ、ごめんなさい」

「どこ見て歩いてんだよ!なんだ?お前達スパイか?」

「いえ、私達はそんなんじゃ...」

男は身体が縦にも横にも大きく、がっしりとしており、筋肉でムキムキの大男だ
った。武器を持っていない様子を見ると、拳で戦う武道家だろうか。

「その紋章、見たことねぇな!」

男は私とクロノスが胸元につけているギルドのバッジを見やった。

「最弱ギルドの連中め!さっさと消え失せろ!!」

「なんだと?」

クロノスが相手を睨み付ける。

「なんだオメー!やるってのか!!」

男はクロノスの胸ぐらを掴み、二人はにらみ合いを続けた。

「離せ」

「オメー気にくわねぇな!表でろ!!」

男はクロノスを投げ捨てるように後ろに突飛ばすと、ギルドホールの外に出ていった。
クロノスはバランスを崩し、その場によろめいた。

「大丈夫?」
私はクロノスに駆け寄る。

「あいつ、前来た時にはいなかったな。」

クロノスは立ち上がると、着崩れた服を直し、行ってくると言うと表に出た。

大男は、
「おせーぞ!!」
と言い、イキナリ、クロノスに殴りかかった。それはあまりにも早く、
避ける事ができなかった。

骨の、砕ける音がした。

「クロノス!」

クロノスは吹っ飛んで、近くにあった草むらが壁変わりとなり、その中に埋まった。

「おいおいおい!もー終わりかよ?弱えな!!」

男はフフンと喉を鳴らした。

「俺に喧嘩を売ろうなんざ、100年早えーんだよ!!わかったか!」

大男はクロノスに勝ち台詞を吐くと、草むらに背をむけ、ギルドホールの中に入
ろうとした。

だが、草むらの中から詠唱がかすかに聞こえ、男は足を止めた。
それと同時に上空からメテオが降ってきた。魔法使いの最強魔法である。

「な、なに!!」
男にメテオが直撃し、辺りに爆発音が響いた。衝撃でいくつかあった草むらが一
瞬で無くなり、葉が宙を舞った。やがて、土埃が収まると、クロノスの姿が現れた。
男は全身に火傷を負い、その場でのたうちまわった。

「あ、熱い!!誰か、助けてくれ!」

クロノスはゆっくりと男に歩み寄りながら呪文を唱えると、杖を氷の鋭いナイフ
に変えた。

「とどめだ。」

クロノスは冷たくそう言うと、男の腹めがけてそれを刺そうとした。

「ちょっと待って!」

「ん」

私はクロノスに駆け寄り腕に絡み付くと、それを止めた。

「もういいじゃない、勝敗はついたわ!」

「そだな」

クロノスは魔法を解き、氷の刃を杖に戻した。
私は、鼻の骨が折れ、血を流しているクロノスを放っておくことができなかった。

「だ、だいじょぶ...?」

「なんとか。」

「と、とりあえずこれ飲んで!」

私は持っていたポーションをクロノスに渡した。
クロノスはありがとうと言い、それを受け取ると一気に飲み干した。

あれ?あなたたち...
女の声だ。
私は背後に人がいるなんて、全く気づかなかった。
慌てて、声がした方を振り返る。

女は、クロノスの顔と、足元に転がっている大男を見比べ、何かあったんですか?
と、きょとんとした。

「えっと...」

「失礼、申し遅れました。わたしはエンジェルのギルドマスターのヒカルです。」

この人が、ギルマス。
まじまじと、最強ギルドを総ている人物を見上げる。
手には杖を持ち、白いフード付きのロープを着ている。

「白魔道士か。」

クロノスは呟いた。
白魔道士とは、傷を治したり、防御力を高める魔法を使う事ができる人の職業の事だ。
私はその人物に、簡単に事情を説明した。

「なるほど、問題を起こした者は追放しますので、今日からもうこの男はエンジェ
ルのギルドメンバーではありません。」

ヒカルはそう言うと、大男からギルド紋章であるバッジを外した。

「それから、クロノス。少し目を瞑って下さい。」
ヒカルはそう言うと、クロノスの顔に手をかざした。
ヒカルの手から光が溢れる。
すると、みるみるうちに傷が癒えていった。

治った...?
今のは魔法!?

「痛くない。」

良かった、とヒカルはにっこり笑った。

「どうぞ、中へ。あなた達を歓迎致します。」

ヒカルはそう言うと、ギルドホールの中に私達を押し込んだ。


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