タコ物語第1章

タコ肖像


            第1話  過度の期待はメイワクだ!

 3月12日21時3分。あたしはクロノス大陸に生まれた。

 気が付くと、クロノス城のゲートに、目を閉じて立っていた。
 ゆっくりと目を開ける、と‥‥数メートル先に腰を屈めたじいさんの背中が見えた。
 この世に生を受けて、初めて見るのがマエルじいの背中かぁ。

 あたしは内心苦笑しつつ、クロノス城の石畳に第一歩を踏み出した。

 とたんに首のネックレスが喧しく喋り始めたので、あわてて、そのネックレス「バシャ」をむしり取った。
 そのまま、石畳の上に投げ捨てようとした手を、一瞬考えて止め、おもむろに腰袋から重箱のような外見の道具箱を取り出した。
 道具箱の蓋を開け、ネックレスをその上にかざす。とたんにバシャは、指輪なみに小さくなり、道具箱の下段の格子状のマス目の中に納まった。

 フフ‥、どうせ、これが一杯になることなんてないから、お守り代わりに持っておこう。

あたしは、一気に駆け出した。


 まずは自己紹介をしておこう。
 あたしの名前はオクトパシー。オクトパス‥‥そう、蛸のこと。もしも、どっかで、あたしを見かけたら「タコ」って声を掛けてね。

 あたしは4人兄弟の末っ子。他の兄弟は上から‥‥

 長男、プラネタ河伯。LV51。支援専門片手パラディン。腕力は0に等しい。
 次男、プラネタ。LV54。準攻撃型片手パラディン。中途半端パラともいう。
 長女、アンサンブル。LV33。弓ヴァルキリー。最近は市場での買い物と売り子が主な仕事になっている。
 そして、次女のあたしは杖ヴァルになる為に生まれてきたのだ。

兄弟姉妹


 その兄弟たち3人が、家から出て来て、あたしを出迎えた。

 河伯兄ぃは満面の笑みを浮かべ「ようこそクロノス大陸へ!」なんて、さっき捨てかけたバシャみたいなセリフを喋ってる。
 プラ兄ぃのほうは、口元をちょっと歪めて、かるく会釈した。笑ってるのかな?あれで‥‥。
 そして、アンサンブルおねぇちゃんは、何故かニヤニヤと皮肉っぽい笑いを浮かべながら「はぁい♪」と一言いって、小さく手を振った。

「よく来たな。オクトパシー!」
 河伯兄ぃは、あたしの肩に手を置いて大声で言った。

「これからは、狩りはお前が主力だ。その為に我々兄弟は、全面的にバックアップするぞ!」
 え?末っ子の私が主力?

「当然、お前が使うノモスセットも、既に+4まで準備しているぞ!」
 な、なんで? セットって‥‥ネックレスとリングにペンダントを全部ぅ? まだ、+1も装備出来ないのにぃ? それって、赤ちゃんが生まれる前から、学習机を買っておくようなものじゃないか?

 あたしの顔が「?」で一杯になっていると、おねぇちゃんが横から口を挟んだ。
「ねぇねぇ、この子に、兄貴達のご希望をハッキリ言ってやったほうが良いんじゃない?」

「うるさい!アンはだまってろよ」
 河伯兄ぃが渋い顔になって言ったが、おねぇちゃんは全く意に介せず続けた。

「あのね、タコちゃん。この二人はぁ、あなたが将来バリバリ稼いで、自分達の欲しいものを買ってくれると思ってるの♪」
 おねぇちゃん‥‥何だか、とっても楽しそうなんだけど。

「ちなみにぃ♪ 河伯兄貴はパンペン+7‥‥」
 ええっ!確か、5千万くらいで売ってるよ。あれって‥‥。あたしは、兄弟の共有知識から、記憶を引っ張り出して愕然とした。

「‥‥を3個ぉ♪」
 げげげぇ!3個ぉ!?

「と、出来ればキングかクイーンベルト♪‥‥よね?」
 ぐぐぐぐぁっ!そ、それって、確か何億もしたはず。あたしは気が遠くなりかけた。

「いやぁ、いくらなんでも、そこまでは期待してないから。安心しろよなっ!オクトパシー。‥‥でも、バインドヴァルは金鎧で島まで行けるらしいからなぁ。フフ‥‥島素材♪」
 あ~の~、河伯兄ぃ‥‥。あたし、まだ、そのバインドすら覚えてないんですけど‥‥。

「俺がほしいのはアヴァリン+5が3個だけだから、兄貴よりも現実的だ。なにしろ杖ヴァルは赤鎧でもデスアンテ倒したりするからなぁ。フフ‥‥最低クラフトGETだな♪」
 プラ兄ぃがボソっと言う。
 アヴァリンだって、全部で1千500万は下らないだろう!まだLV1のわたしには、天文学的な数字なんだぞー!

「大丈夫!なんとかなるって♪」
 兄ぃ二人が声を揃えた。

あたしは、とうとう爆発した。

「い、いーかげんにしろー!! 欲しいものは自分で買えー!! あたしに、あたしに、期待すんなーー!!」

 人通りの少ないクロノス城の通りに、私のシャウトが、目一杯こだました。

                            続く‥‥かもしんない。

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