「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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第5話 (絵未実装)
第5話 平凡な家族の団らん
どのくらい眠っていただろう。
あたしは、ベッドの上で目を開いた。
見慣れた、丸太の梁が渡った天井が見える。
半身を起こして、濡れていた目尻を手の甲で拭った。
熟睡出来たせいか、ひどく気分が良かった。
あと、‥‥何か夢を見たような気もしたけど、思い出せない。
あたしは、着替えを済ませて、部屋を出た。
あれ?河伯兄ぃ?
灯りの点いてない、薄暗い食堂の椅子に河伯兄ぃが腰掛けて、テーブルに顔を突っ伏していた。
一瞬、居眠りをしてるのかな?と思ったが、違うようだ。
背中が小刻みに震えて、時おり「う、うっ‥‥」という声が漏れ聞こえてくる。
「河伯兄ぃ?‥‥」
あたしが、声を掛けると河伯兄ぃの背中がビクッと反応した。
「‥‥何を、笑ってるの?」
「泣いてるんだよー!」
河伯兄ぃは顔を上げないまま、叫んだ。
よかった。元気そうだ。
「あ、やっぱり。‥‥で、何で泣いてるの?」
「おお!聞いてくれるか?妹よ。」
どうせ、聞かなくても、無理やり聞かされそうだからね。
「今日、あれから、ターラの町に行って、パーティの募集を探したんだよ。」
「ふむ、ふむ。」
「で、支援パラですーって、言って応募したんだよ。そしたら‥‥。」
「そしたら?」
「あるパラさんが、『あんた、ホリはいくつ?』って聞くんで、29ですって答えたら『俺は支援パラじゃないけど、ホリは34あるぜ。あんたが入っても何の役にも立たないから、とっとと消えな』って言われたんだよー!」
「なるほど。‥‥それで?」
あたしは、先をうながした。
「え?それでって‥‥?」
河伯兄ぃは、言葉に詰まった。
「えっ、話はそれで終わりなの?」
「一応、終わりなんだけど‥‥」
「じゃあ、じゃあ、河伯兄ぃは、その人から、そう言われた事で泣いてるわけ?」
「そうなんだよー! ひどいと思うだろ?」
「ううん。別に。」
あたしが、即答すると、河伯兄ぃは、座ってる椅子ごと床に転がった。
「だって、その人ホリアマ34あるなら、レベル60以上でしょ?しかたないよ。実力の差があるのは事実なんだしぃ。」
「冷たいねぇ‥‥お前。」
河伯兄ぃは、椅子を起こしながら、上目遣いにあたしを見た。
「じゃあ、どう言えば良かった?」
あたしが言うと、河伯兄ぃは手を胸の前で組んで、目をウルウルさせた。
「例えば‥‥まぁ!カワイそうな、お兄様! 今は金食い虫のあたしだけど、今にきっと、きっとぉ、パンペン+7を3個と、クイーンベルトを、お兄様の為に買ってあげるわー!」
河伯兄ぃは、目を星で一杯にして、なり切っていた。
「結局は、そうなる訳ね。」
「ダメ?」
「ダメ!」
「うわーん!」
河伯兄ぃは、再びテーブルに突っ伏して、シクシクと泣き始めた。
「兄貴ぃ。泣き落とし失敗だねー♪」
声に振り向くと、いつの間にか、食堂の入口に、おねぇちゃんが立っていた。
「おかえり。おねぇちゃん。」
「うっ?アンサンブル。」
河伯兄ぃが顔を上げた。目に涙はない。
「泣き落としって?」
あたしは、おねぇちゃんに尋ねた。
「以前あたしが、引退するって言った時も、兄貴ってば、同じ事をやってたよん♪ だいたい河伯兄貴は、ギルメンと一緒にしか行動しない人だから、野良パーティに志願したりは絶対しないよ♪」
げっ、じゃあ今までの話は全部ウソ? それってセコイ。
あたしは、河伯兄ぃをジロリと睨んだ。
「え? いやー、何だぁ‥‥そのぉ。アンは‥‥随分早かったな。クレイグは、どうした?」
河伯兄ぃは、強引に話題を別に振った。
「あー、あいつね。サイテ-。」
おねぇちゃんは、鼻にシワを寄せて、言い捨てた。
「軽く食事した後で、路地裏であいつ、いきなり迫ってきやがって。」
「えーっ! 大丈夫だった?」
あたしが尋ねると、おねぇちゃんは、懐からマガスエッジを取り出した。
「あたしも、安く見られたものよね。これで、ミネ打ちにしてやったよん♪」
「ミネ打ちって?‥‥マガス両刃だよ。」
「ああ、そっか。どうりで♪ あいつ額から血ぃ流してたっけ。」
む、むごい。
「大丈夫よお♪ ちゃーんとポーション1本、投げといてやったから。‥‥そんなことより、タコちゃん。あんた、引退するんだっけ?」
おねぇちゃんは、少し真顔になった。
「ううん、なんか気が変わった。しないよぉ。」
あたしは、あっけらかんと答えた。
「そか♪ ならば良し。」
おねぇちゃんはニッコリ笑った。
「おお!そうか、そうか! 私の説得が功を奏したわけだな?」
「ない、ない!」「ないない♪」
河伯兄ぃの言葉に、姉妹でハモッて答える。
他愛の無い、兄弟の掛け合いをしていると、玄関のドアが開いた。
「ただ。」
擦り傷だらけのヴィラ鎧で、プラ兄ぃが食堂に入って来た。
「おかぁ。」「おかえり。」「おかか。」
3人が応える。
「タコ。これ‥‥。」
プラ兄ぃは、真直ぐ、あたしの前まで来ると、お金の包みを差し出した。
700kくらいは、あるようだ。
包みからは、神殿独特のカビ臭い臭気が、微かに漂ってきた。
「‥‥ポット代。」
「ありがとう。プラ兄ぃ。あたし、頑張るからね。」
あたしは、お金を大事に受け取った。
「うん、俺は、もう寝るから。」
プラ兄ぃはニカッと笑うと、自分の部屋に向かった。
「よーっし! じゃあ、入れ替わりに、狩りに行ってくるね。」
あたしは、ベッドの横に転がしてあった銀装備を、バタバタと身に着けた。
「よおし! ファイトだ。オクトパシー。」
「いってらっしゃーい。タコちゃん。」
あたしは、杖を力一杯振って応えると、玄関から飛び出した。
石造りの町並みを、一気に駆け抜け、城門を抜ける。
待ってなさいよぉ。愛しいモンス達。
あたしは、ウキウキした気持ちで、更にスピードを上げ、クロノスの大地を疾走した。
♪いけいけ、タコちゃん。オクトパシー♪
♪いけいけ、タコちゃん。オクトパシー♪
♪バインドだけしか出来ないけれど、数さえ撃てばアンテも倒す♪
♪時には、ヘコむ時もあるけれど、家族がいるから立ち直る♪
♪今はお金もないけれど、いつかは掴むぞ女王ベルト♪
♪いけいけ、タコちゃん。オクトパシー♪
♪いけいけ、タコちゃん。オクトパシー♪‥‥‥
‥‥‥‥‥
あのー‥‥河伯兄ぃ‥‥。
後ろで、変な歌を歌うのはやめてくんない?‥‥。
タコ物語第1章‥‥完。
今回で、タコ物語は一旦終了です。ここまで辛抱して読んでくれた、あなたに、感謝します。
なにしろ、もともと、ここまでしか考えてなかったもので(^^;)。
一応、このお話の中で、杖バルへの過度の期待とか、ターラへの無謀な特攻とか、思いがけない燃費の悪さとか、は実際の事だったので、また、実際に何かがあったら、それがネタになるかも知れません。
では、またぁ。
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