からまつそう

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『境界線』(☆mam様から)


ありがとうございます!
他にもたくさん素敵なお話(二次作品は素敵だし、オリジナルが秀逸!)を書いておられる☆mam様の「よろず屋の猫」様は こちら です。



『境界線』


すずめの鳴き声で眼が覚める。
朝と言うには遅い時間の光が部屋を包んでいる。
車や電車の音が遠くからであるかのように響いている。
古い住宅地のこのアパートではそれらはいつも人の話し声に紛れてしまう。

外階段を下りると管理人のおばあさんがいて、「おはよう。」と声をかけてくる。
だから僕は「おはよう。」と挨拶を返す。
いつものように指定日を守らないゴミ出しとか、そのゴミを荒らす黒猫の文句を言うおばあさん。
だから僕は笑って「困りますねぇ。」と言う。
シャッシャッシャッとおばあさんが小さな庭を箒で掃く音。
「言ってきます。」と僕が言うと、庭から顔を上げ、笑顔で「行ってらっしゃい。」とおばあさんは言う。

道行く人とすれ違う。
携帯に夢中の者、目的地に向かって一心に歩く者、バギーを押す母親。
時々見かける女の子がペコリと頭を下げる。
だから僕もペコリと頭を下げる。

つま先に石ころがあたり、それがころがる。
電信柱にぶつかり、跳ね返って止まる。
空が青くて、風が吹いて、わずかばかりの木々の緑を揺らす。
サワサワと立ったその音が、幹線道路からの車のクラクションにかき消される。

よく行くラーメン屋に入ると、お店の女の子が「いらっしゃい。」と元気に言う。
だから僕は「こんにちわ。」と言う。
テーブルの上に水の入ったコップ。
ありふれた業務用の物だけれど、きれいに洗われ、中の水は冷たい。
注文をすると、彼女は眼をぐるりと回す。
「そんなに食べるの?。」とでも言うような、いつものリアクション。
だから僕も、いつもの様に少し恥ずかしそうに笑ってみせる。

いつものラーメン、いつもの麺の茹で加減、いつものスープの熱さ。

「ごちそう様。」とテーブルにお金を置くと、彼女は「ありがとうございます。」とまた元気な声。
そして「またどうぞ。」といつもの様に僕を送り出す。

公園で男達が待っている。
ハンチング帽をかぶった男はベンチに座り、不機嫌そうに新聞を読んでいる。
その横に黒猫。
彼らの方に足を踏み出した瞬間、陽が翳った錯覚に陥る。
振り向いて見たラーメン屋には、昼の光が降り注いでいると言うのに。

光と影の境界線。
それを越え、僕は彼らに近付く。
背中には今も続いている日常、今そこに僕だけが居ない。

だから僕は・・・。

だからオレは仮面を被る。
黒の闇で戦うときはいつも・・・。

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