『イタリアのトルコ人』覚え書き


 あまり期待しないで見に行ったからか、とても満足できた。いや、そうじゃないな。とてもいい公演だった。オペラを見に行ったのは何年ぶりだろう。かつては頻繁に通っていたのに、最近はすっかり劇場から足が遠のいていた。やはり家で聞いているのと、劇場で聞くのとでは大違いだ。ラウル・ヒメネスの美しい声とテクニックに感動した。
 とはいっても、ヒメネスはもう落ち目だ。アリアの最後、高音で決めるところをとちった。声がかすれた。早口も、フィオリトゥーラもぱしっと決まらない。それでも、ぼくはヒメネスが好きなので、実際にその姿を、演技を目にし、この耳で歌声を聞き、感動した。
 主役のデヴィーアはすばらしかった。ちょっと冷たい声だが、ぼくは好きだ。第二幕の大アリアの後、拍手とブラーヴァの声が止まなかった。驚くべき超絶技巧、完璧な歌のライン、センスのいいフィオリトゥーラ。ただし、演技と容姿はあまり良くない。
 そのほかの歌手は初めて見た。良かった。これから活躍するんじゃないんだろうか。
 東京文化会館を埋め尽くす観客のどれほどがロッシーニファンかは分からない。オペラが好きで来たのかどうかも分からない。でも、今日の公演で、ほとんどの人が、オペラファンに、ロッシーニファンになったのではないのか。それほど、熱気に包まれていた。
 ぼく個人のことをいえば、普段ひとり、部屋でロッシーニを聴いて興奮したりしているのを、こんなにも多くの人たち、ぼくたち観客と、それに歌手たち、指揮者、オーケストラの楽員たちと共有できたのがうれしかった。観客も歌手とともに舞台の形成に欠かせない要素だ。ぼくはひとりで見に行ったけれど、見も知らずの人たちと熱狂をともにできて、すがすがしかった。




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