トイプードル


 母はしばらく前から、犬が欲しいと言っていた。それで、母と妹は何回かペット屋に行って、物色をしていた。トイプードルがかわいいと言って二人で騒いでいた。
 昨日の昼、母とぼくたち兄姉3人の4人で焼き肉屋に行った。夜は高い店なんだけど、昼は安い。と、ペット屋に行ってトイプードルを買うまでの経緯を細かく書こうとしたんだけど、どうでもいいし、いまとても眠いのでやめる。
 それで、昨日トイプードルが来た。いままで散々ペット屋に行って迷っていたくせに、昨日買ったきっかけは、値段が手頃なのと、生まれた日が父の死んだ日と同じだったからだった。父が死んだ日と同じというのはぼくにはどうでもいいように思われるけど。母や妹たちは、その子が生まれた日を店員から聞いて、涙ぐんでいた。しかし、かりに、ぼくはそんなことは信じないけど、もし生まれ変わりだとするなら、誕生した日は違うはずだ。『豊饒の海』にそう書いてあったような気がする。父が造詣が深かった仏教ではそうだったはずなんだけどな。違っていたら誰か教えてください。
 ところで、ぼくの誕生日はゴータマ・シッダルダと同じだ(本当は違うけど、なぜ本当は違うのかは事典かなにかで調べてください)。小さい頃からぼくは大人に言われた。お釈迦様の生まれた日に生まれたなんてめでたい子だと。利発に違いないとか。確かにぼくは利発だった。しかも大切に育てられた。ぼくは外で遊んではいけなかった。危ないから。お菓子を食べてはいけなかった。理由は知らない。漫画を読んではいけなかった。本はひたすら読まされた。おかげで同級生の話す話題を理解したことは一度もなかった。3歳からヴァイオリンを習った。絵画を習った。父は芸術を信奉していた。母はそんなものにはまったく理解を示さなかったが、そんな父を信奉していた。父はぼくを芸術家にしたかった。
 子供の頃ぼくは習っていたものすべてに才能を現した。ぼくの絵は何回か展覧会に出、NHKのテレビ番組に出た。ぼくは音楽においても才能を示し、作曲もした。私家版のレコードがある。短歌も詠んだ。額田王が好きだった。小説も書き、先生がこれをどこで写してきたのかと、詰問した。
 ゴータマ・シッダルダと同じ日に生まれたぼくは神童だった。そして、よくあるように、大人になって、だめになった。


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