６．孤立
６．孤立
心を病むと、自分の周囲にあるさまざまなものとの関わりや
つながりが切れていく。
まずは、自分のことが信じられなくなる。
自分の能力や性格を否定し、自分の将来に対して
何の希望も持てなくなっていくのである。
今まで当たり前のように感じていた「なんとなくうまいく」とか
「大丈夫」という感覚も失われていってしまう。
体が震えるくらいの孤独感があるのに、どんどん、周囲の世界や
親しい人とのかかわりやつながりが切れていく。
そして、凝り固まった自分の狭い世界の中に閉じ込められていくのである。
エネルギーを失い、助けが必要なのに、自分が悪いとか恥と
思っているので、助けを求めることもできくなってしまう。
真っ暗な穴に閉じ込められ、出口がどこにあるか分からず、
たった一人で立ちすくんでいるような、そんな状態になってしまう。
本当は、人と会ったり、いろんな場所へ出て行けば、視野が広がり、
いろんな可能性が見えてくるのに、そうできない。
好きなことをして気を紛らわせばいいと思っても、体調が悪いうえ
エネルギーが枯渇しているため、それをすることも、もはや、
楽しくない。
自分を責める声が、頭の中で鳴り響いているので、
起きているあいだじゅう、気持ちの休まるときがない。
薬を飲み始めてからは、少し落ち着ついたものの、
疲れきっていた。
「こんなはずではなかった」と思った。今まで苦労してきて
やっと希望の仕事につけたというのに、どうしてこんなことになった
のだろう、と。
くやしかった。すべてを犠牲にして、必死でやってきたのに・・・と。
私は、何もかも信じられないと思った。
うつの苦しみが何年も続き、回復の兆しも見えなかったその頃、
私の心の中にあったのは、寒々としたむなしさだけだった。
すっと治ってしまう、うつもある。
うつ病は、体の病気であるから、風邪をひいて高熱を出しているのと
同じように考えた方がいいという人もいる。
高熱を出して、ふらふらしている人に、学校や会社へ行けとか、
家のことをしっかりやれ、とは誰も言わないだろう。
病院で薬をもらって、消化の良いあたたかいものを食べ、
安心してゆっくり休養をとる。
家族に、あたたかい愛情ある言葉をかけてもらい、
ご飯を作ってもらい、世話をしてもらう。
もし、家庭内でゆっくりと休めないような環境なら、
日常を離れ、入院してじっくり休む。
薬を飲んで、休養を十分にとっただけで、治る人もいる。
しかし、周囲の人にはっきりと分かるほどの、
起き上がれないほどの重いうつ病ではない場合は、
薬を飲みながら日常生活を送り、慢性的にうつ状態が続く人もいる。
私は後者であった。薬は減っていったが、何年も
気持ちが晴れることはなかった。
心も体も重苦しく、重い荷物を背負って坂道を歩き続けているような
そんな気持ちだった。
私は、うつの世界に閉じこめられ、鍵をかけられた気がしていたが、
実際はそうではなかった。
中から、扉は開くということに気づかなかったのだ。
それは、外の人がいくら言っても、また、外から誰かが開けることも
できないのだろう。
自分が本気で助かろうと、じたばたして、はじめて、
その扉の存在、そして、それが自分の力で開くことが
できるのだということに気づくような気がする。
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