「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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mo-so-ふぁくとりー
ジャガイモ男爵様著・セイバーさん騎乗中
両ルートをクリアした方、未プレイだけど絶対やらないから気にしないと言う方以外は避けた方が無難です。
なお、このSSは、以前に某女史の書いた同人誌に載せたものを加筆修正した物です。
「セイバー、君はいったい何を見ている?」
セイバーと呼ばれた青と白で装った少女、実際はその容姿の通りの存在では断じてない。
かつて男と偽り、ブリテンの王として国を守り続けた『アーサー王』その人だ。
対して、声を掛けたのは赤と黒でその身を鎧う偉丈夫。
褐色の肌に白金の髪、出自不明、由来も不明な弓の騎士。
「貴方から声を掛けてくるとは……珍しいですね、アーチャー。貴方はこの同盟には否定的であると思っていたのですが?」
彼らが『セイバー(剣の騎士)』、『アーチャー(弓の騎士)』と呼び合っているのは伊達ではない。
彼らは魔術師(マスター)が英霊(サーヴァント)を召喚し互いに潰し合うデスゲームの当事者たる、召喚された英霊その人。
歴史に名を残す彼らにとって、己の名を明かすという事は、己が出自を明かし、その性質を知らしめ、その急所を晒すという事の他ならない。
故に互いの名を伏せ、与えられた役割(クラス)の名で呼び合うのだ。
「ふむ、相変わらずこの同盟に関して否定的ではあるがね。マスターが同盟を結ぶと決めたのだ。……多少の馴れ合いは仕方有るまい」
しかし、彼らは召喚主であるマスター、衛宮士郎・遠坂凛の両名が同盟を結んだ為、敵対してはいない筈だった。
それでも、アーチャーは衛宮士郎を敵視し、セイバーとも必要最低限以外は接触することは無かったのだ。
そう、たった今までは………
セイバーさん、騎乗中!
「それで、君は何を見ていたんだ?随分と熱心に見ていたようだが……」
「これです。イッセイが持ってきたのですが、何に使う物かと………」
そう言ってセイバーは土蔵の脇に止められた自転車を指し示した。
彼女の生きた時代には自転車など存在しなかったのだ。無理も有るまい。
「これは自転車と言う中距離用の乗り物だ。私も嘗て利用していたが……、懐かしいな……」
『懐かしい』と口にしながら、彼の表情は硬い。
彼にとって『懐かしい』というのは、自転車全般を指すのではなく、目の前の自転車自体を指す。
それは、自らも■■■■■■で在った事を強く意識させるが故に、嫌悪感が沸いて出る。
抑え切れなかった嫌悪感が表に出てきたが故に、彼の表情は硬い。
それだけではない。
自らの失言に気が付いたのだ。
『自転車が懐かしい』と言うのは、彼が『自転車が登場し、且つ一般に普及した後の英雄である』という事を意味している。
自らの無意識の言葉とはいえ、己の出自の手掛かりを与えてしまった。
常識的に考えれば……英霊などと言うモノに常識などが当てはまれば……だが、今より未来において英霊と成った彼を知るものは居ない筈。
故に判る訳が無いのだが、矢張り気分の良いものでは無いらしい。
「ほぅ、乗り物ですか?……しかし、一体どの様に乗る物なのか…………。見当も付かない」
しかし、幸いな事にセイバーは自転車に気を取られているのか、聞き流したようだ。
これはアーチャーにとっては幸運だった。
しかし、口に出した以上は取り戻すことは不可能。
ならば、失言を失言と感じさせること無く、極自然に振舞い、戯言の中に埋没させるが吉。
「ああ、興味が有るならば乗り方を教授しよう」
これは意外だったのだろう。
セイバーの目が驚愕に大きく開かれた。
「なっ!それは真ですか!?……いえ、止めておきましょう。私には余分な行動をする余裕など無い」
「そうか?私はそれでも構わんが……。習得すれば徒歩より早く移動が出来るし、体力的には楽になると思うのだが……。さらに言うなら自転車には『二人乗り』という乗り方があって、それを使えばエミヤシロウを高速で移送することが可能になるぞ」
「……なるほど。それは良いかも知れませんね。逃走に便利だ。なにしろ彼は無謀に過ぎる。生身でサーヴァントと渡り合おうと言うのですから」
しばし瞑目。
「わかりました。御教受頂こう」
「ああ、任せろ。……まず、乗ってみてくれ」
しかし、セイバーは自転車を前にして躊躇する。
いや、これは…………。
「……アーチャー、その、……どのように乗れば良いのか判らないのですが……」
やはり、乗り方が判らなかったようだ……。
英霊はどんな時代にも適応するとはいえ、流石に自転車の乗り方までもは知らなかったらしい。
「はぁ、そこからか……。まぁ、良い。サドル……そこのゴム製の小さな三角…「これですか?」…ああ、それだ。それに乗って足元のペダルに足を掛けろ」
「はい。……く、しかし、この鞍は……小さすぎて安定に欠ける。……それにペダル…とは、この鐙(あぶみ)の事でしょう?右足を前にすると、左が後ろになる。左足を前にすると、右が後ろになる。更に……前後にしか車輪がないから左右に安定しない。……これでは、まともに乗る事など出来ないのでは?」
セイバーは、右へ左へ傾きながら何とかバランスを保とうとするが、どうしても直立することが出来ない。
「停止状態に安定など必要ない。片足を地に付け斜めに立てば良い。そして、前に出ているペダルに足を乗せ、軽く踏み込んで見ろ」
「む、こうですか?」
セイバーは、言われた通りペダルを踏み込む。
当たり前ではあるが、僅かに前進。
しかし、セイバーにとっては当たり前では無かった。
「こ、これは!……つまり、左右交互に踏み込むことにより車輪が回転し、その回転を持って前に進むカラクリでしたか!」
素晴らしい!と、力説。
だが、アーチャーにしてみれば、そのような事は当たり前の事。
なので、当然、その反応は淡白だった。
「なにを当たり前の事に感動している?……それよりも、問題はそこからだ」
そう、問題はココからだった。
自転車という物は一度乗れるようになれば、一生乗り続けられるものだ。
仮に、数年触れる事が無くとも、僅かに練習するだけで以前同様に乗ることが出来る。
しかし、乗れるようになるまでは、正しく血が滲むような訓練が必要なのだ。
主に膝辺りが……
セイバーも例に漏れず何度もコケた。
何度も、何度も、何度も何度も何度も……コケ続け…………
漸く、ゆっくりとだが走らせられるようになった。
「よし、もう良いだろう」
「これで乗れるようになったのでしょうか?」
「まだだ。あと、もう少しスピードを出して走れなければ、歩いているのと何ら変わらん」
「更に早く……、ですか?」
何を考えたのか、アーチャーは暫し黙考。
俯き、小さく笑うと一つ頷く。
「そうだ。全力で踏み込め、……全力でな。止まるときは………先程ブレーキを教えただろう。そこを力一杯握り込めば良い」
「こうですか?」
セイバーは、言うと同時に『全力で』ペダルをキックする。
重ねて言おう。
『全力で』……だ。
人の限界を容易く超えるサーヴァント……しかも、最優とされるセイバーの全力。
それは、自転車を猛スピードで発進させ、まさに人知を超える加速を行なった。
………そして、全力でブレーキ………
結果……
最大加速からの急速な減速により、自転車は前輪を軸に前転しセイバーを放り出す。
そして、自転車から放り出されたセイバーは、土蔵の壁に激突した。
加速した速度、そのままで……。
まあ、無理も無い話ではあるが、何とも間抜けな光景。
「くく、見事なチャージ(突撃)だ。脇目も振らずにすっ飛ぶ姿などまるで猪だな」
悪戯を成功させ、ささやかな満足を得たアーチャーは、笑いを噛み殺し真面目腐って皮肉る。
セイバーは彼が自らの真名を知らないと思っている。
もしセイバーが平静であれば、彼が『猪』という喩えを出したことに動揺したであろう。
なぜなら、アーサー王の渾名には『コーンウォールの猪』と言うものがあるのだから………
だが、彼女は平静では無かった。
土蔵に突き刺さった頭を引き抜き、羅刹の如き眼(まなこ)でアーチャーを睨む。
視線でヒトが殺せるならば、七度殺してお釣りが来そうだ。
俯き、怒りに身を震わせながら呟く。
「……アーチャー、少し待っていなさい」
低く、重く、言い捨てると土蔵の中に入る。
待つ事暫し、セイバーは鉄パイプを片手に下げた状態で出てきた。
「この金属棒は土蔵にあった物の中で最も頑丈な物でした」
因みに、セイバーは知る由も無いがこの鉄パイプは、士郎が昨夜魔術の鍛錬で強化した物だ。
だが、それを如何するのか?
「なに、死ぬことは無い。……否、我等は本来霊体。神秘を帯びない鉄棒などでは、傷を負わせることすら出来ないでしょう」
何やら物騒な言葉を吐きつつ、般若の面持ちで自転車に乗るセイバー。
鬼気迫るセイバーの様子にアーチャーは、知らず後ずさる。
「な、何の話だ?……いや、それよりも何をする心算だ」
「ふ、知れた事。悪戯が過ぎるので仕置きを少々……いや、中途半端は良くない。全力で行きます」
宣言と同時に急加速。
土煙を巻き上げながらアーチャーに接近し、脇を擦り抜け様に鉄パイプを一閃。
「いきなり何をする!我等は曲りなりにも同盟を結んでいるのだぞ!」
辛くも回避したアーチャーは、(自業自得のような気もするが)大声で抗議する。
しかし、セイバーは一見落ち着いた様子で反論した。
「知っています。これは、言ってみればじゃれ合いのようなものです。………もし私が本気ならば、『風王結界(インビジブル・エア)』を使っている」
「ま、まて。君で遊んだことは謝罪しよう。だから、落ち着け」
「聞く耳は持たない。……さぁ、踊れ!」
セイバーは力強くペダルを踏み込む。
土煙を上げながら、アーチャーに迫る自転車。
擦り抜けながら鉄パイプを一閃。
アーチャーは自らのスキル『心眼(真)』を駆使し回避。
「うぁ、落ち着けセイバー!これじゃあナントカに刃物じゃないか!」
「言うに事欠いて、既知外呼ばわりですか!」
セイバーは、鉄パイプのみでは飽き足らず自転車でのチャージまで使い、徐々にアーチャーを追い詰めていく。
全速を維持したまま、車体を倒し前輪をロック。
後輪が地面をスライドし、急速反転。
嗚呼、素晴らしきかな『騎乗』スキル……
速度は落ちたが、勢いを落とす事無く再加速。
衛宮家の庭が広いとはいえ、自転車で駆け回るには不向きである。
にも拘らず、セイバーは執拗にアーチャーを追跡し、アーチャーは全力で持って回避する。
「セイバー、いい加減にしてくれ!」
「ふふふ、逃げることはありません。この自転車も鉄棒同様、如何な神秘も宿してはいない。我等サーヴァントを傷付ける事など不可能です」
そして、如何な『心眼(真)』と言えど、セイバーの『直感』を上回る事は出来なかったのだろう。
アーチャーは擦違い様、横薙ぎに振るわれた鉄パイプの直撃を受けブッ飛ぶ。
飛翔、そして……激突。
激突した場所は、奇しくも先ほどセイバーが突っ込んだ所だった。
土蔵の壁に激突したアーチャーはゴム鞠のように跳ね返り地面に落下。
2・3回転がったあと立ち上がろうとするが、足に来ているのかフラフラと覚束ない。
「馬鹿な……、有り得ない。何故鉄パイプ如きで……ここまで……」
本来、霊体である英霊が鉄パイプ如きでここまでのダメージを受けることは在り得ない。
しかし、衛宮士郎は曲りなりにも魔術師。
その魔力を持って強化されていた鉄パイプは、僅かながらの魔力を帯びていた。
……即ち、神秘を帯びた武器と化していたのだ。
それにプラスし、セイバーの戦闘技能が加われば英霊とて無傷は在り得ない。
地に倒れた相手に追い討ちなど騎士に有るまじき行為だが、未だ怒りの収まらぬセイバーは、ふら付きながら立ち上がるアーチャーに再び突進し、追撃する。
立ち上がるアーチャー。
追撃するセイバー。
嵐の様な猛攻はアーチャーに倒れることを許さない。
追撃、追撃、さらに追撃。
その様は、まるで歪な舞踏。
セイバーの奏でる暴力の旋律に流され、無様に踊り狂うようだ。
幾度繰り返しただろうか?
セイバーは、完膚無きまでに叩きのめされたアーチャーを見下ろし、満足そうに呟いた。
「これで……良い………。ク、クク、クフフフフフフフフフフフフフ……」
其の日、衛宮家の庭にセイバーの低い哂い声が、何時までも響いていた。
翌日、庭の角で襤褸雑巾の如く打ち捨てられたアーチャーを発見した凛が、八つ当たりで士郎を絞め落としたのは、また別の話。
男爵様ありがとうございました!このSSにもイラストを入れようと思っています!頑張りますよ!
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