心のままに~星に願いを~

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ケーキの魔法使い3


誠はチラシを作ってアピールしたり、色々手は尽くしましたが、お店は相変わらずの状態でした。
貯金も底をついてきたけれど、誠はどうしても店を閉める気にはなりませんでした。

(きっとママと来てくれる。それまでは頑張らないとな・・・)
誠はあの女の子と交わした約束を心の糧にして、日々暮らしていたのでした。

そんなある日・・・。

”カランコロン”

扉が開くと、そこには20代半ばでしょうか。きれいな女性が立っていました。

「いらっしゃいませ」
女性はショーケースを一通り眺めると
「あの、ケーキはこれだけですか?」
と聞きました。
「はあ。これだけですが・・・」
(って朝からほとんど売れてないんだけど・・・)
「そうですか・・・」
そういうと女性は出て行こうとしました。
「あ、あの、何かお探しですか?」
「あ、いいんです。売り切れなら・・・」
「え、売り切れって、そんなうち人気ある店じゃないし、いつも売れ残る位で」
(売り切れる商品なんて1つも無いって・・・)
「え?」
「お店間違えられたのかも知れませんね」
誠は努めて明るくそう言ってみると、女性は首をかしげながら
「でも、クローバーさんってこちらですよね?」
「そうですけど・・・」
誠もつられたように首をかしげながら、そう答えました。
「こちらに幸せになれるケーキがあるって聞いたんです・・・」
「幸せになれるケーキ?」
「はい・・・四葉のクローバーの形をした・・・」
(あ、あのケーキのことか・・・)
「・・・あ~、それ、もしかして女の子に聞きませんでした?」
「そうです。舞ちゃんに聞いて・・・」
「(あの子、舞ちゃんって言うんだ)あ~、あれは商品じゃなかったんで、ショーケースには並べてないんですよ。
あ、でも、ちょっと待ってて下さい」
そういうと、誠は奥の冷蔵庫からあの時作ったのと同じケーキを取り出した。
(あの子がいつ来てもいいように、って毎日作ってたけど別にいいよな。また来た時に作ればいいんだから・・・)
「これですけど・・・」
とケースの上に置きました。
「わ~、可愛いらしいケーキ・・・。でも1人では食べきれないわ・・・」
女性は困ったようにそう言いました。
「そうですね・・・(そりゃ1ホールだしなあ)。でも、どうしてこのケーキを?」
「・・・私と舞ちゃん、家が近所でよく一緒に遊んでたんです。お母さん入院してるし、お父さんは会社と病院と
行ったりきたりしてるし・・・」
「ああ・・・」
女性と舞ちゃんが二人で遊んでるシーンが誠の脳裏に浮かびました。
「私、仕事もプライベートも全然上手く行かなくて・・・。でも舞ちゃんといると楽しくて、お母さんのことで大変なのに、
いつも明るくて、私、舞ちゃんの存在にすごい救われてて・・・」
(なんか、今の俺と一緒だな・・・)
「で、ある日、舞ちゃんが、『私、こないだ幸せになれるケーキ食べたんだ。』って・・・」
(あのケーキが幸せになれるケーキ・・・)
「その時は、へえ、そんなケーキがあったら食べてみたいなって言って、終わったんですけど・・・」
(だろうな・・・)

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