かずみん~あくまで自由に~

かずみん~あくまで自由に~

つぶやき


その軽さに何かが引っかかる気はしたが、あまり気にせずバスに乗り込んだ。
いつもの時間なのに乗客に見慣れた顔はなかった。
運転手を入れて5人。
まあ、こんな日もあるだろう。

左の列一番前に子供連れらしい母親が乗っている。
子供が笑いながらしきりに窓を指差していた。
自分の席からは子供の手首から先と母親の頭しか見えない。
まあ、うるさいというほどではないし、外を流れる景色が面白いのだろう。母親は優しく微笑んでいる。
幸せそうな光景だ。



少しして眠ってしまったようだ。
乗り過ごしたか?

大丈夫。





胸騒ぎ・・・
ゆっくりとだが胸を押されているような気持ち悪さ。
ほんの少しの違和感。
天気が悪いわけでもないのに暗くなっていく。
ゆっくり、ゆっくり。

「降りなければ」

わからないけどそう思った。


バスの揺れにふらつきながら運転手の席に向かう。
「すいません、具合が悪くて。停めてもらえませんか?」

無言



スーッと薄暗くなった。
音のない世界。

運転手をみると表情がない。

他の乗客を見渡す。
同じだ。無表情。
例の母親も。





ただ見てしまった。
母親の影に隠れていた居るべきはずの子供。
ひじから上だけが浮いていて窓を指差している。


バスの中に響くのは楽しそうな子供の声だけ。
バスは走り続ける。
誰も降ろすことなく。

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