「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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宇宙の果てという考え方(3)
宇宙の果てという考え方(3)
建築家のスタートを切り始めていた青年時代、建築大学院生の友人が建築家のМという老教授を紹介してくれたことがあった。お蔭で折からの大学紛争で休講が相次ぐ中、彼の正法眼蔵(道元)の講座を社会人のボクは幸いにも受けるチャンスに恵まれた。数日間の集中講座の間、夜は教授とその取り巻き連中と一緒に祇園で呑むということもあってボクは仕事そっちのけで楽しんだものだった。単に呑むということが楽しいのではなく教授との打ち解けた対話でアカデミックな雰囲気に浸れることを楽しんだのだ。М教授は30年ほど前に亡くなられたが先年亡くなった建築家の黒川記章氏の恩師で大酒飲みで有名だった。ボクも同じ大酒飲みとして意気投合したのだった。
曹洞宗(禅)永平寺の開祖、道元禅師。
丁度、ボクの処女作とも言える室町の呉服問屋の本社ビルを設計・監理し終わった頃で毎晩のように祇園を呑み廻っていた矢先だったから呑み仲間が多ければ多いほど楽しかった。酒呑みの心理として同好の志というものは単純だが酒を楽しむ相手なら誰とでも良いという雰囲気があって、ボクは特にあちこちで出逢った一見の相手でも気に入れば意気投合して一緒に呑み明かすことがあった。後年、東京へ単身赴任している頃もそういうことがあって、矢張り或る大学教授と気が合い、新宿から荻窪まで呑み廻って最終電車で楽しく別れ、翌日自室で目を覚ますとクラッチバッグが無いので慌てたことがあった。
そのことは以前にも書いたことがあるので経緯は省略し結論を言えば、小田原警察で保管しているのが半月ほどしてから判明し、喜びいさんで受け取りに行ったのだった。預金通帳と印鑑と重要書類が入っていたので二週間ほど深刻に悩んだものだったが、幸せにも何時も神様が見守ってくれているのか困った時には何かの救いがある人生を歩んでいる。その感謝のお礼でもないが、小田原からの帰途、新宿の伊勢丹で妻の誕生日祝いを兼ねてイタリー製の高価なカメオを買って贈ったことがあった。呑んで失ったことを思えば安い買い物だと割り切ったのだ。神様がそういう風な気持ちに仕向けたのかも知れない。
ボクはそういう風に簡単に神様を引き合いに出すが、この世は人間のようなちっぽけな生き物だけでは神様の助けがなければ到底生きて行けないと信じているのだ。その神様は大きな存在で、宇宙全体を見守っていてくれているのだから宇宙の果てといえども神様が作った作品の内だから人間の手の及ばない処でも訳なく問題の処理をしてしまう。地球温暖化などと訳知りのような顔をして世の中を煽っている政治家連中には申し訳ないが裏に隠された陰謀があるに決まっているからへ理屈で誤魔化していてもボクは余り心配していない。成るように成るという気持ちで居るのだ。
狩野元信《祖師図》「香巌撃竹:きょうげんきゃくちく」
さて、そんなことよりもそろそろ宇宙の果ての結論的説明に入らなければ想い出話に花を咲かせて時間を費やしていては読者をイライラさせるばかりだろう。だから先に述べたМ教授の正法眼蔵の講義内容で言えば、例えば人が月を指すのを観て、指そのものを観るのと指の前方の月を観るのとでは意味が違うという話をしてみよう。勿論、月を指されれば誰もが月を観るだろう。が、指された指と月を観比べるのではなく「月そのものをジッと観よ」と禅では言うのだ。言わば「月そのものに成りきって月を観よ、そうすれば月の気持ちになれる」というのである。では月の気持ちとは何だろう。
尤も、月は月である。しかし、水溜まりに映った月も、托鉢僧の鉢に溜まった涙に映る月も同じだとするのが禅の世界で言う月なのである。それが月の心であり観る者の本人の姿でもあるとするのである。月を観ることは自分が月に成りきるということであり、月が鉢に降りてきて本人と同化することである。それは世間一般では何を言っているのか訳が分からないという禅問答そのものに観えるだろう。が、その心が読めないと宇宙の果ての姿はとてもじゃないが観ることは出来ない。だからこそ例え話で説明するのである。別の例えでは、僧侶が庭を箒で掃除して石ころが箒に飛ばされて竹に当たり、カーンという音を立てるというのがある。
その森閑とした自然の中で発する竹の澄んだ音を聞いて俄かにその僧侶は自然界に置かれた自分の立場の役割を知り悟りの境地に入るのである(「香巌撃竹:きょうげんきゃくちく」)。それは受け手が毎日、自分はこの世で何を学んだのか、真理とは何か、自然(宇宙)とは何かを問い掛け、悶々と修行していたからこそ感じる瞬間だと教授は言う。そしておもむろに、道元が、師の如浄から聞かされたという詩「ティーティン、トンリャオ、ティーティン、トン・・・(滴丁東了滴丁東・・・)」を中国語で吟じるのである。教授は正に中国の天童山(道元が修行した寺)にチリン~チリン~と鳴り響く風鈴そのものに成りきっていた。ボクは今もその姿を想い出す。
混沌(カオス)とした状態とは、何も無い、その存在をも否定する状態のことである。
もう分かって頂けたであろうか。宇宙の果ては「滴丁東了滴丁東」というようなイメージの漠たる観えないものでありながら感じさせる存在感そのものなのである。それを混沌(カオス)という言い方に替えても良いだろう。遥かかなたには水平線のようなゆったりと曲がった次元が在り、船の煙突や帆先が小さく見え始めたと想う間に次第に姿を現すような時空をイメージするのも良いだろう。しかし、そこには入道雲のような明瞭な形のものは何も観えないのだ。勿論船も無い。何も無い、空間そのものもない何も無い状態なのである。空間が無ければ時間も無い。絶対的な無の状態が在るであろうという状態なのである。
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