「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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冬の京都(4)
冬の京都(4)
つまり、50年以上も経っているのに自分と旧友との人間関係に折り合いが付いていない部分が残っているのかも知れない。とすれば、それが心を悩ませる問題となる。それは長年の年数が勝手に作り上げた虚像かもしれず、それは多分に事実とはかけ離れた各自の勝手な想い込みに過ぎないものの筈だ。自分の人生と相手の人生の価値なぞ比較しようも無いが、仮にどちらかが経済的にも心理的にも優位に立っていると判断するなら、そう判断する心に問題がある事に成る。小説やドラマの主体は人間関係の織成す心的な問題だから、それ以外の事で悩む事なぞ高が知れている。病気や仕事や金の問題でも、其処から人間関係を差し引けば何も残らない。それほど安穏としたものである。如何に人間関係が社会現象の総てを物語っているかが分かる。想い込みの基準は自分の人生そのものだから、人は他人の心の内なぞ見えないのである。
京都(16) 雪の大文字山。
だからでも無いが、相手は自分が想う程には案外考えて居ないのかも知れないし、反対に、人に依っては何でも無いと想っている様な事でも重大に考えている場合もあるとも言えよう。価値観が違えば考え方の基準も違うと言う事である。そういう些細な事に依る誤解は、会わなかった期間が長ければ長いほど増幅し大きくなる反面、時間と共に忘却もするものである。しかし久しぶりに再開した途端、突然想い出す事もあるから、スイッチが入るタイミングでお互いの印象が突如変わってしまう。人は年齢と共に疑心暗鬼が強く成り、用心深くもなり、常識だけは身に付けていくだけに事を荒立てる代わりに陰険な噂話に変化して行くものだ。だから人の噂ほど当てに成らないものは無い。尤も、世間には「人の不幸は蜜の味」とする風潮があるから人々の耳目を集めるには充分だ。が、結局は相性が良く、かつて仲が良かった相手なら誤解なぞ直ぐに氷解するのだ。
京都(17) 宇治の平等院。
そう考えてみると、疲れる原因は相手との相性が悪いというほどのものかも知れない。そうなれば手の施しようが無く、どう仕様もない事になる。理屈では無いからだ。人間は感情の動物だから理性だけで行動できる人は少ない。単純に好きとか嫌いで相手を分類し自分の心の領域に入らせないなら心から打ち解けた会話は出来ないだろうし、宴会も楽しいものではなくなってしまうだろう。特に仕切り屋的な相手が居れば尚更だ。そういう彼や彼女に合わせてまで付き合う義理も無いと判断すれば宴会(飲み会や同窓会)に出席する必要も無く疲れる事も無い。仮に出席するなら、そういう相手を無視すれば良い事になる。人生はそういう事の積み重ねでしか無いのだろう。大人に成ってしまった以上、子供のように振舞えるのは旧友の前だけの筈なのに、それさえも出来ない窮屈な宴会なら一層の事、理由をつけて欠席する事だ。そうすれば波風は立たない。
京都(18) 雪の竜安寺の枯山水庭園。
多分、宴会に欠席する人は熟慮の結果、そういう選択をした人々なのだろう。欠席を知った相手も表面的な理由を素直に受け入れるか、それとも本音が分からないまま淡い期待を抱いて次回に臨む事に成るだろう。余り長く欠席をしては変に想われるとして久しぶりに出席した人は気の合う相手を探し小グループに分かれてしまうだろう。かくして大きな宴会(同窓会)は小グループの宴会(飲み会)やティーパーティーへと変わって行き、気の合う者同士だけの寄り合いに成って行く。が、それも長くは続かないだろう。何故なら、高齢になって一人欠け、二人欠け、結局は自分一人に成ってしまうからだ。60代でこそ半分集まれば良い方で、70代ではその半分になり、80代では更に半分になってしまう。集める幹事役も大変だが、集まる行為すら大変に成ってしまう。90代では殆どの同級生は居なくなってしまい、独り寂しくお茶を飲む事になるのだ。
京都(19) 嵯峨野大覚寺の方丈にある枯れ山水庭園。
その点、茶の湯は良い。かなりの高齢になっても集まれる。但し、亭主は準備に追われる。心から迎え入れるには時間的な余裕も居る。季節に依っては料理の内容にも苦心が要る。金にあかせてするものでは無く、招待される側もそれなりの心構えで出席するから緊張感が走る。利休の心を何処まで理解し、茶を喫し、風景を愛で、料理を味わい、亭主の心遣いを知るかは出席者の教養にも依るが、一に心の問題であり、接待する亭主も客の心を掴むだけの余裕を持たねばならない。形式にとらわれる事無く、それでいてそれなりの格式や品格を維持しながら楽しむ会話は大人の会話となる。砕けた単なる宴会も良いが、緊張感の漂う茶の湯も良いものである。命のやり取りをしていた戦国武将の時代の名残を感じつつ現代社会に合った茶の湯を自分流に演出できれば、これほど贅沢な宴会は無いだろう。心から楽しめるものだ。
京都(20) 清水寺の産寧坂。
二十年にも前になるだろうか、京都岩倉に住む友人が茶室を作ったので観てくれというので行った事があった。工芸作家の彼とは行きつけのコーヒーショップの常連で、独身時代から何時しか親しく成っていた。その頃たまたま東京虎ノ門でボクが友人を訪ねた帰りに彼と文部省の前で偶然出逢った事も重なり、お互い何か因縁めいたものを感じて親しみを増して行った。茶室を建てたという話はたまたま偶然に知ったのだが、お互い仕事柄、自由時間を持つ身だけに一通り観て建築家の立場で客観的な評価した処、彼は喜んで茶を立ててくれ、その後酒宴になったのだった。彼とは一期一会とでも言うべき出逢いの関係ながら人と人との付き合いとはこういう風な出逢いでも充分に成り立つものだと想った。同窓生とは亦違う肩の凝らない、ジョークも飛ばせる関係での酒宴は雪の降る夕刻になっても続いたのだった。(つづく)
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