出会い⑤クリスマスイブ


クリスマスイブのその日。私の両親は旅行中。姉は結婚した後だったし、妹も大学の集まりがあるとかで遅くなると言っていた。例年一緒にミサに行く母がいないので、一人で行こうかなあと考えながら残業後、会社を出た。

天王洲アイルは若者が遊ぶ場所。通勤の便はとても悪かった。私も「彼」も羽田空港と浜松町を結ぶモノレールを利用していたのだが、夜間は本数が少なくて待ち時間が長かった。

次は何分かな、と思いながらぼーっと歩いていると、ホームに「彼」が立っている。うわ、偶然。

どちらからともなく声を掛け合った。普段ほとんど会話がないまま、淡い憧れを抱いていた「彼」との10分の乗車時間が嬉しかった。
一緒にモノレールに乗る。「彼」は横浜経由、私は新宿経由。すぐに別々のルートに分かれてしまうのだが、実はお互いの家は同じ路線に存在する。浜松町の駅でホームに滑り込んできたのは山手線。
これがもしかすると「きっかけ」だったのかもしれない。

「たまには新宿回って帰ろうかなあ」
「彼」がそんな気になったのはどうしてだったのだろう...それでも、自宅の最寄り駅に着くまで一緒にいられることでドキドキした。そして、何となく「お腹が空いたね」という話の流れになった。

「食事してから帰ろうか」
そんな風に「彼」が誘ってくれた。お互いの最寄り駅のちょうど中間点にあるターミナル駅で下車し、街に出た。
クリスマスイブで人が溢れている。
こんな日に予約もなしで食事なんかできないよね、と言いながら、歩いていた。
でも、お腹が空いてる。私は自分の乏しい記憶を総動員。
そしてバイト仲間と時々立ち寄った少しはなじみのあるフランス家庭料理の店を思い出した。入ってみるとその店は、ちょうど二人分だけ席が空いていた...

イブを楽しむ周囲の雰囲気につられたのだろうか。
普段はアルコールを全く口にしない「彼」と甘口のワインを飲んでちょっとぽーっとしていた。料理もこの店はハズレが決してない。何を話したんだろう。今となっては思い出せないが、私は時々時計に目をやっていたらしい。

イブのミサは11時に始まる。実は私は「彼」と駅で別れてから、一人で教会に行くつもりでいたので無意識に時間を気にしていたのかもしれない。
「何か約束があるの?」と彼に聞かれた。
私は真っ赤になって首を振った。「彼」は多分私の否定を本気にしなかったのだろう、「そろそろ帰ろうか...」

店を出て、駅に向かう。そこで、不思議なことが起きた。
大きな買い物をする時、洋服を買う時、友達と遊ぶ...この街は子供の頃から良く知っている街。なのに、道を間違えた。

まっすぐ歩けば駅に出る道を歩いていたはずだった。
なのに、どうしたわけか、気がつくと教会に至る道を歩いていた。狼狽していたのに、なぜかとても素直に
「11時に始まるミサに行こうと思っていたんです」
という口にしていた。

「彼」は宗教を持たない。ただ、ワインの酔いもあって、12月の冷たい空気が心地よかっただけかもしれない。軌道修正して駅に戻ることなく、一緒に歩き続けた。

教会にだんだん近づく。風に乗って讃美歌が聞こえてくる。扉をあけるとちょうどキャンドルサービスが始まったところで幻想的な光景が浮かんだ。偶然に偶然が重なり続けたこの日。私はそこに自分のものではない意思の導きを確かに感じていた。



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