猫記 【ダンボール猫】



六月半ば。俺は職を探し、町を彷徨っていた・・・。

昼の日が落ち、夕日が沈む頃・・・。

「ドサッ!」
という大きな音をたて、俺の目の前に、何かが降ってきた。何事かと思い、恐る恐る、それをのぞいてみた。すると、ダンボール箱の中にやせ細った捨て猫がいた。
かわいそうだと思った。だが、一人暮らし、貧乏の俺に、猫など飼えるわけがなかった。第一、猫なぞを飼っても、何の得もない、という自分自身の固定観念もあったせいか、俺はその猫を素通りした。

・・・だが、今になって、
(あの猫、今頃どうなってんだろうな・・・。あんなに痩せていて。自分以外の誰か、拾ってくれただろうか?飢え死んでいないだろうか?)
などと考え始めてしまい、
(もし俺が拾ってあげなかったせいで死んでしまったら・・・。)
という事までも考えてしまうのだ。
俺は、たまらず走り出した。
(あの猫がまだあの場所にいるのなら、俺が拾ってやろう。)
不動産屋を右に曲がった奥のマンションの下には、まだあのダンボールがあった。
「あった!!」
俺は、ダンボールに駆け寄った。
がしかし、ダンボールの中に、猫の姿は無かった。まさか!誰かが、猫だけを拾っていってしまったのか?
その時、

「ニャア・・・」

か細い声が聞こえた。俺は、すぐにあの猫だとわかった。
猫は、マンションの近くの車の下に潜り込んでいた。
俺は、すぐに猫を手にとった。はじめは怯えていたが、次第に慣れてきたようだ。
俺は仕事探しを忘れ、そのオス猫を家に連れ帰った。―――その時、誰かに尾行られているような感じがした。

「待っていろよ!」
そういうと、俺は近くのスーパーに猫のエサを少しばかり買いに行った。
帰った俺は、猫がいることを確認すると、食器棚から小皿を取り出し、エサを与えた。猫は、不思議がることも無く、エサをパクパクと食べた。
その間、俺は手当たり次第に電話をかけた。猫を引き取ってもらおうとしたのだったが、引き取り手は現れなかった。
次に、同じマンションの住民にも声を掛けたが、
「ウチは猫いるから」
「犬がいるから無理だ」
「勉強で忙しいんだ、帰ってくれ!」
と、反応はどれも冷たかった。
実家の親は猫嫌いだし・・・俺はあきらめて、自分で買うことにした。
しかし案の定、世話は容易なものではなかった。
エサ代に、悪戯や小便は毎日、被害が出た。猫がそういうことをする度に、大変苦労した。

そんな苦悩の日々が続く中、俺はとうとう、猫を捨てる決意をした。このままでは、自分の生活が危ない。猫はいずれ、誰かが拾ってくれるだろう。
と言う考えがふと浮かび上がったからか、猫にち散らかされた部屋を後にし、もうすぐ捨て猫になろうかと言う猫と共に、外に出た。
猫は、いつもと変わらぬ無邪気な声、無邪気な瞳をしている。まるで、心を針でチクチクとつつかれているようだった。でも、俺は目をつぶり、その猫を捨てた。
俺は、少しづつ猫から遠ざかった。その時の猫の瞳は、心なしか、少し哀しげに見えた。

家に帰った俺は、散らかった部屋を片付け始めた。



今回はここまでです。如何でしょうか?
次回【絆】


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