倶楽部貴船

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お菊人形 -4-



「これなあ、おばあ様が、お菊ちゃんが学校に行くようになったで、そのお祝いに用意してくれたんな」
と源さんは、お菊の方に箱を押し出した。
「さあ、あけてみな」
お菊は、おかあちゃの顔を見た。
「よかったなあ。なんだかなあ、あけてみな」
おかあちゃんに言われて、お菊はやっと箱に手をかけた。
ふたを少しずつ動かしていくとお菊の見たこともないような人形が、赤色の着物で横になっていた。
真っ黒な目で、お菊を見ているようで、お菊は思わず後ずさりした。
「なんてりっぱな人形を…」
おかあちゃんは箱に手をかけて、のぞき込んだ。
「おばあ様は、なんでも人形をやりたいと、いろいろ頼んだようですに。
この赤の着物はおばあ様が使っておいでたんだに」
「お菊、良かったなあ。こんな人形でお祝いしてもらって。
ほんとに良かったなあ」
おかあちゃんは、また、なみだ声になって、源さんに、
「おかあちゃん、しっかりしないよ」
と笑われてしまった。

赤色の着物の人形は、お菊の家に一つだけあるタンスの上にそっと置かれた。
かわいい梅の花が、赤の着物から浮き出るように描かれていて、お菊は、その梅の花がいくつ咲いているか、そんなことをすぐ覚えてしまった。
源さんは、お茶をおいしそうに飲むと、川東の村のことをあれこれと話し始めた。
おばあ様の腰がだいぶ曲がってきたこと。
庭の松の木から小鳥が落ちてきたこと。…そして最後に
「おばあ様がくれぐれも身体を大事にして、困ったことがあったら、何でも言っておいなと伝えてくるように、言っとりましたに」
と、いつものようにくり返した。
おかあちゃんは、また耳元を押さえて
「源さんには、やっかいをかけるばっかりで、ほんとに、申し訳ないなあ。
おばあ様に、お菊も太郎も、みんな元気にしとるって、よろしく伝えて下さい」
深々と頭を下げたおかあちゃんに、源さんはあわてて、
「なんの、なんの。このお使いは一番楽しみな仕事だで。
かわいいお菊ちゃんや、たろ坊に会えるんだもの。
ほいでも、たまには、川東へもおいなんよ。
おばあ様に顔を見せてやりなんよ。心配しとるでなあ」
源さんは、お菊の頭をいっぱいなぜて、雨上がりの道をひょいひょいと帰って行った。


お菊人形


─4─


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