雪の誓い

『雪の誓い』




外は薄暗く、陽が昇りかけている真最中。
目が覚めたキラは、ベット横にあるサイドボードに置いてある時計を見た。
(7時過ぎかぁ)
いつもなら、アスランは起きて仕事に出掛ける時間だった。
今日は、久しぶりの休暇だった。
この1ヶ月は休みも返上するくらい忙しく、きちんと話をすることさえままならなかった。
久しぶりの休みの夜は、どちらからともなく自然とそしていつもより激しくなってしまう。
キラの下腹部には、昨夜の余韻がまだ少し残っていた。
隣で眠っているアスランを優しく見つめると、気だるさの残る体をそっと起こしてベットを出た。

「さぶっ・・・。」

ベットの中の暖かさが恋しくなるほどの冷たい空気。
音を立てないように、寝室を出てリビングに向かった。
リビングに入るとすぐに、暖房器具を付けた。
冷えそうな体を温めようと、インスタントコーヒーにポットのお湯を注ぎ砂糖とミルクを少し入れた。
一口飲むと、体の中に暖かいものが広がるような気がした。
カップを持ったまま窓際に近寄り、片手でカーテンを開けた。

「あっ・・・。」

陽が昇りきったらしく、眩しい光と一面真っ白に染まった街並みがキラの目に飛び込んできた。

「雪が積もってる・・・。」

見慣れたはずの景色が、雪が積もっただけで全く知らない街に来たような・・・不思議な感覚に襲われた。
それは幻想的で、戦いの終わった今だからこそ感動できるものだった。

「アスランにも、見せてあげたいな。」

そう呟いたものの、日頃の疲れと昨夜の激しい行為でぐっすりと眠っている彼を起こしてしまうことに戸惑いを覚えた。
しかし、街を覆うような雪を見るのは初めて。
愛しい人と一緒に見たいと思うのは当たり前の事だと、そんな風に考えていた。

「休みなのに早いね。ふわぁぁぁ・・・。」

大きなあくびをしながら、まだ眠そうな表情をしたアスランがリビングに入ってきた。

「おはよう、アスラン。ねぇ、外見てみてよ。」

「外?」

寝ぼけながら、窓際にいるキラに後ろから抱きつきながら外を眺めた。

「昨日の雨が、いつの間にか雪に変わっていたんだな。」

「僕、こんなに積もったの初めて見たよ。」

「俺もだよ。」

「ねぇ、朝食終えてから一緒に散歩しない?」

キラは、体を半回転ねじってアスランの方を向いた。

「そうだな、雪だるまでも作ってみるか。」

そういうとキラの唇に軽くキスをした。

そのあと二人は急いで朝食を済ませて、出掛ける準備をした。


外に出ると吐息は白く、空気が肌を突き刺している。
二人は手を繋ぎながら、通りを歩き始めた。

「ねぇ、アスラン。雪の上歩くと"キュッキュ"って音が鳴るね。」

「アスラン、あっちの方足跡がないよ。ほら!」

キラは、寒いのも忘れて繋いだ手を解いてあちこち駆け回っていた。

「キラ、あまりはしゃいでいると・・・。」

注意しようとしたその時、地面に出来た水溜りが凍っていて足を滑らせた。
キラは慌てて駆け寄り、アスランに手を差し出した。

「大丈夫?アスラン。・・・おしり痛そうだね。くっくっく・・・あははは・・・。」

「そんなに、笑わなくてもいいだろう。」

「うわぁっ・・・。」

アスランは頬を染めながら差し出された手を思いっきりひっぱった。
座り込んだままのアスランの上に、乗りかかるような格好になった。
二人は顔を見合わせて大笑いした。

「そろそろ立ち上がらない。俺、ズボンが冷たくなってきたような・・・。」

「もぅ、アスランたら。」

キラは立ち上がり、アスランに手を差し出した。
その手を借りて立ち上がり、濡れた辺りを確認した。

「思ったほど濡れていないみたいだね。」

「ズボンはね。その代わり・・・コートにはお尻のあとが付いたみたいだな。」

コートを脱いで見ると、お尻の辺りがしっかりと濡れていた。
脱いだコートを持っていない、アスランの左腕に自分の腕を絡めて、キラは身体をくっつけた。

「こうしたら少しは寒くないかな。」

「キラの体温は、高いからね。」

「体が冷える前に、家に帰らないとね。」

「すぐ、帰るにはもったいないよ。こんなに街がきれいなのに。」

「そうなんだよね。・・・その代わり寒いと思ったらすぐに帰るからね、アスラン。」

「わかってるよ。キラも、転ぶなよ。」

おでこを軽く小突くと腕を組んだまま歩き出した。
上着のないアスランのために、公園の中を近道して帰ることにした。
真っ白な雪の上には、二人の足跡しかない。

「さすがに公園の中は誰も、歩いていないみたいだね。」

「こんな日に、出歩くバカはオレ達くらいだよ。」

「寒いけど、こんなにキレイなのにね。」

「そうやって目を輝かせている、キラのがキレイに思えるけどな。」

「そういうアスランだって、カッコよすぎて・・・悔しいよ。」

「何が悔しいんだ?キラはどこに行っても、人気者だから嫉妬しちゃうよ。」

「人気者って、アスランの人望があるからみんな相手してくれるんだよ。それに、かわいいとかは言われるけど・・・、カッコイイなんて言われたこと一度もないんだからね。」

「どちらかと言えば、キラはかわいいからな。」

チラリと横目でキラを見ながら言うと、頬を膨らませていた。
そして、急に立ち止まったかと思うと地面に座り込み、雪を一掴み取り握ったかと思うとアスランめがけて投げてきた。
至近距離で避けきれず、見事顔面に命中した。
キラは、舌を出して「してやったり」というような無邪気な顔をしていた。

「やったな、キラ・・・。」

それを合図に、二人だけの雪合戦が始まった。

「もぉ、ダメだよ・・・ハァ、ハァ・・・スットップだよ、キラ。」

肩で息をしながら、スットップをかけたのはアスランだった。
雪の中だというのに、足元を気にせず駆け回るキラ。
先ほど滑って転んだ苦い記憶を気にしすぎ、思ったより神経を遣ったらしく息があがるのが早かった。

「大丈夫?アスラン。」

「キラが、元気過ぎるんだよ。」

「でも、こうやって汗をかくのも気持ちいいよね。」

「まさか、二人で雪合戦をするとは思わなかったよ。」

「みんな、呼べば良かったね。」

アスランは肩をすくめて言った。

「楽しいだろうけど・・・俺が標的になりそうだよ。」

「もし、そうなっても僕が守ってあげたよ。」

「ダメだ。キラは、俺が守るって決めてるから。」

クスクス笑いながらキラは、小声で「知ってるよ」と、呟きながらアスランに抱きついた。

「でもね、僕だって守れる力もあるし、支えることだって出来るんだよ。」

「キラ・・・。」

「最近、仕事でトラブルあったんでしょ?イザークさんが、心配してたよ。無茶しすぎだって・・・。」

「イザークの奴、余計なことを・・・。」

「イザークさんは悪くないよ!アスランの疲れ方が、おかしいって相談したのは僕の方なんだから。
 傍にいるのに、助けられなくて悔しかったんだ。」

抱きしめる手に力が入った。
少し戸惑いながらも、キラを優しく抱きしめた。

「戦っていた時のキラは、俺よりも・・・誰よりも強かった。でも、寂しそうで今にも壊れそうだった。
 せっかく取り戻した平和の中で、二人一緒に居ることが当たり前になって・・・今を、キラを失うのが怖かったんだ。」

「アス・・・ラン・・・。」

「どこかで調べたらしく、キラの話が出たんだ。・・・軍事協力させるべきだって。キラほどの人材をこのまま埋没させるのは惜しいってね。」

キラは、驚いて顔をあげた。

「もちろんそんな事に、キラは渡せない。そう、言った途端に取引を止めると言い出すから・・・色々動いていたんだ。」

「僕が・・・原因だったんだ。」

目を反らし、アスランに背を向けた。
今にも泣きそうだった。

「僕が傍にいると、また迷惑かけちゃうよね。」

「キラ。」

「僕なんかの為にアスランが・・・。ぅん・・・っ・・・ん・・・はぁ・・・ん。」

アスランはキラの手を強くひっぱり自分の方に向けると、自分の唇でキラの唇を閉じた。
抵抗するキラは、激しいキスに体の力が入らず地面へ崩れるように座り込んだ。

「俺は、一度も迷惑だなんて思った事はない。お前と一緒にいたいから戦えたんだ。もう、お前の・・・キラのいない世界なんて意味がないんだ。」

「そっ、そんなこと信じられないよ。」

キラの瞳からは、涙が溢れていた。

「信じなくてもいい。でも、俺はキラなしでは生きていけない。傍にいてくれるから、頑張れるんだ。」

「・・・。」

「戦争で俺たちは離れ離れになって再会し、敵同士ってことに驚いたけど考えていることは同じだった。再び始まった戦争でも、俺の浅はかな考えから再び敵対することになって悲しませたけど、その時もお互い平和を願っていたよな。その時思ったんだ、離れていても心はいつも一つだってね。」

「心が一つ・・・」

「あぁ、どんな時でも俺たちの願いは平和だった。今の世界もまだ不安定で偽りの平和かもしれない。」

「そっ、そんなことないよ。カガリ達が頑張っているよ。」

「俺たちも含め、みんなが偽りを本当にするために、心を一つにして頑張ってる。でも、俺たちは、それ以外に思っていることあるんじゃない?」

「・・・それ以外・・・。」

「二度と離れないっていう強い想いだよ。それが支えにもなってるんだけど、キラは違ったのか。」

頬をつたう涙を、優しくぬぐった。

「アスラン・・・。」

「二人で歩き始めたばかりで、戸惑うこともあるけど想いがあるからこそ強くなれるんだ。俺たちは、降り積もったばかりの雪の上を歩いているみたいなもんさ。雪の下には、一体何があるのかなんて歩いてみないとわからないだろ。」

再び流れる涙の顔には、さきほどの絶望しているような表情から、くすぐったそうな笑顔に変わっていた。

「そうだよね、転んだら手を差し伸べられる距離を二人で歩いているんだよね。」

「転んだは余計だけど、手をつないで横を歩いていると思えば怖くはないだろ。」

「うん。わからなくなったら足跡を戻ればいいよね。」

「多分、これからもキラのことそういう風に考える奴等が出てくるだろうけど俺たちの未来だ、好きにはさせないから。」

「僕はもう、戦争は嫌だから・・・アスランとの幸せな時間を失くさないためにも、もっと心を強くしないとね。」

「そのままのキラで十分だよ。これ以上強くなると、俺の頭があがらなくなっちゃうよ。」

「「ぷっ・・・あははは・・・。」」

笑い声が公園の中に響いた。
しばらくして、笑いが収まると二人は手を繋ぎ歩き出した。

「二人とも、服濡れちゃったね。」

「このままだと風邪ひきそうだな。帰ったらお風呂で体を温めないとな。」

「もちろん、二人一緒に入ろうね。」

悪戯っぽく笑うキラ。
アスランは少し照れながら、繋いでいる手をギュッと握った。





20000HITしてくれた 『欅 綾乃』ちゃん へのプレゼントです
甘い二人を読んでみたいと、リクエストしていただいたのですが
何だか、臭い二人になってしまったような・・・そんな作品です
キラが初めて積もった雪で、戯れる姿を書きたかったんです
本当は雪だるまとか二人で作って欲しかったかな~
それなのに、どんどん深刻そうな話題になっちゃって・・・
良かったのは二人の愛が再確認できたところでしょうかね(笑)


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