いつか君に出会うまで~前編~



それが真実
それが・・・現実・・


いつか君に出会うまで・・


「アスラン、お疲れ!」
明るい声と共に後ろから肩を叩かれ、振り返る。
「あぁ、カガリ。お疲れさま。」

オーブの行政府での仕事を終え、執務室から玄関に向かう廊下でカガリに声を掛けられた。
「もう帰るのか?」
「あぁ。今日はあまり忙しい仕事は入らなかったしな。カガリは?」
「いや、私はまだだ。」
「そうか。もう上りなら夕食でもと思ったんだけど、また今度にするよ。」
「お前のおごりか?それは残念だな。また誘ってくれ。」
「あぁ。じゃぁ・・。」
「アスラン。」
手を振ってその場を後にしようと踵を返した俺を、又してもカガリが呼び止めた。
しかし、その声にはさっきまでの元気のよさは影を潜めていた。

「カガリ?」
振り向くと、カガリは少し寂しそうな顔で俺を見ていた。
「もう・・・一年になるな・・・。」
「・・・・そうだな・・。」

そう、キラが居なくなって今日で一年。

「墓参り、行くのか?」
「いや、あいつの魂はいつも傍に要るって思ってるから。」
「そうか・・・。」

俯いたカガリの肩は、かすかに震えていた。
カガリだって、大事な弟を無くしたのだから。

「あの家に・・・帰るのか・・?これからも、ずっと・・。」
「カガリ・・・。」
言った後、カガリは申し訳なさそうに俯いた。
「ごめん・・。変なこと訊いて。」
「いや。」
俺はしょげるカガリの肩をポンポンと叩いた。
「俺は、帰るよ。あの家へ。これからもずっと・・。」
「アスラン・・・。」

俺の言葉に顔を上げたカガリは、酷く辛そうだった。

俺をそんなに気遣うことなんてないんだ。
辛いのは君だって同じだろう?カガリ。

「あそこは、俺とキラの家だから。」
俺はできるだけ優しく笑ったつもりだ。
でも、カガリは寂しそうに笑って
「そっか・・・、そうだよな・・。」
と短く応えた。


「じゃ、カガリ。また来週な。」
「あぁ、気をつけて帰れよ。」
カガリに手を振り、行政府を後にした。

俺はいつもの道をいつものように歩いて帰る。

キラと一緒に歩いていた道を、今は1人で・・・。

「キラ・・。」

女々しいとは思う。
キラが居なくなってもう一年も経つのに、俺の心の中は今でもあいつでいっぱいだ。


待つ人が居たはずの家には誰も居なくて、プラントとは違う地球の自然の冬が部屋の空気を凍らせる。
それでもやっぱり
「ただいま。」
と、そこに居たはずの人に声を掛ける。

いくら時間が経っても
『おかえりなさい。アスラン。』
という、柔らかな声が聞こえてきそうで。

「ただいま。キラ。今日は凄く寒いんだ。もしかしたら雪になるかもしれないな。」

リビングに飾ってある笑顔のお前に、俺も笑顔で話すんだ。
たとえお前の笑顔が、もう二度と動くことはないと分かっていても。





寝室に仕事用のカバンを置き、重いコートをハンガーに掛ける。
リビングで熱いコーヒーを飲み、何をするでもなくただ空を見つめる。


あいつが居ないなんて・・・・。

『ただいま~。あー寒かったー。雪、降るかなぁ?』
なんて言いながら、あのドアから入ってきそうなのに・・・。



有り合わせの物で一人の食事を済ませ、シャワーを浴びる。
そして寝室に入り、大きなベッドに腰を下ろす。

数ヶ月前から、やっと一人でまともに眠ることが出来るようになった。

いつも傍に感じていた温もりが無いことが、こんなにも心も体も凍らせることを、俺は始めて知った。

寒い・・・。
寒くて、とても眠れない。

情けなくも睡眠不足で倒れてしまった俺を心配して
「無理やりにでも、寝なきゃ駄目だ!こんなお前、キラには絶対に見せられない。」
と、カガリは強制的に俺を入院させた。

無機質な白い壁は俺に考えることを忘れさせてくれた。
栄養不足と睡眠不足を補うための点滴は、俺を安らかな眠りへと誘った。

「あなたがちゃんと生きていかなければ、キラに申し訳が立ちませんわ。」
ラクスにまで叱られてしまった。

皆に心配と迷惑をたくさんかけた。
こんなことじゃ駄目なんだ。
キラの思いに報いるためにも。

生きていくために、ちゃんと眠らなくちゃ。


「ふぅ・・・・。喉、渇いちゃったな・・。」

冷蔵庫に常備してあるミネラルウォーターを飲もうと、寝室のドアに手をかけた、その時


キィーーーーーーン

「あ・・・くっ・・・なん・・だ・・?頭が・・・割れ・・る・・。」

耳鳴り、と言ってしまうにはあまりにも激しい苦痛。
俺はその場に蹲り両手で頭を抱えた。

その苦痛に耐えるように目を瞑り下を向いていた俺は、なんとも言えない違和感を感じ、目を開け視線を前に向けた。

「なっ・・・何が・・起きてるんだ?空気が・・・空間が・・・歪む・・・・・。」
俺は事態が飲み込めなかった。
目の前にある壁やドアが、グニャリと歪んで見えた。

「ぅあっ!あ・・・・くはっ・・・・。うあぁぁぁぁぁぁ!」
その後襲った最も激しい耳鳴りと頭痛に、俺は意識を手放してしまった。




あの日、俺たちは久々の休日だったんだ。

「キラ、早くしないと置いていくぞ。」
「あぁっ!ちょ、ちょっと待ってよ、アスラン。」

久しぶりに一緒に取れた休み。
「家でゆっくり過ごすのもいいんじゃない?」
と言うキラを、
「もう何ヶ月も一緒に出かけてないじゃないか。キラもたまには外で食事するのもいいだろ?一食楽できるし。」
そう言って半ば無理やり連れ出したのは俺だ。

これが・・・間違いだったんだ。


「ご馳走様でした。凄く贅沢した気分だ。」
「キラが気に入ってくれたみたいで、良かった。カガリのお薦めだったんだ。この店。」
「カガリの?そっか、カガリっていつもこんな凄いところ使ってるんだね~。」

凄く感心したように店の外観を見つめるキラの横顔が、本当に綺麗だった。
いつまでも、見つめていたい程に。

「キラ、この後どうする?どこか行きたい所ある?」
「う~ん、そうだなぁ・・・。」
しばらく通りの左右をきょろきょろと見回していたキラの視線が一瞬止まった。
「キラ?」
何を見つけたのか訊こうと、キラの顔を覗き込んだ瞬間。
「アスランっ!!」

パァーン!

キラが俺の名を叫び、俺は後ろに突き飛ばされた。
そしてかすかに聞こえた、乾いた音。

銃声・・・・?
こんなところで、まさか・・。


キラに突き飛ばされた俺は、路面にしりもちをついた。
「・・つぅ。キラ、何を・・。」
何の悪ふざけだと、キラに視線を向ければ・・・・・。

そこに居たのは、血に染まり力なく横たわった愛しい人。

「キャァァァァァー!」
耳を劈くような通行人の悲鳴と、ざわめき。


何が・・・?
何が起こったんだ・・?

「キ・・・・ラ・・?キラ・・・?」

早く傍に行きたいのに、身体が言うことを利かない。

「ア・・・・スラ・・ン・・・・。」

横たわったその体がぴくりと動き、震えるか細い声が俺の名を呼んだとき、さっきまでまるで動けなかった俺の体は、弾かれた様にキラの傍に駆け寄った。

「キラッ!。」

キラの上体を抱き起こすと、背中に回した俺の手にぬるりと生暖かい感触。
それは紛れも無くキラの体から流れ出る血。

「アスラ・・・ン・・。」
「しっかりしろ!キラっ!誰かっ!救急車を!早くっ!!待ってろ!今止血をっ・・。」
抱き起こしていたキラを、止血の為もう一度横たえようとした。
その俺の腕を、キラが精一杯の力で掴み俺の動きを制した。
「アスラン・・・・もう・・・いい・・・ん・・だ。・・離さない・・・で・・。このまま・・僕を・・・・抱き・・・しめ・・て・・・。」
俺の腕の中で目を閉じたキラが、息苦しそうに諦めとも取れる言葉を紡いだ。
「何を言ってるんだ!直ぐに病院に連れて行ってやる!諦めるなっ!」
キラはかすかに目を開け、血の気の失せた顔で笑って見せた。

「どうして・・・・お前が・・こんなっ・・・・・・。」
「良・・・・かっ・・た。・・・・・君が・・・無・・・・事で・・・。」
「もう喋るな!」
「うう・・・・ん・・。言わせ・・・・て・・?」
「キラ・・・・。」
俺の静止も聞かず、キラは言葉を続けようと息を吸い込む。

「ごふっ!・・・・っつ・・・・。はぁっ、はぁっ・・・。」
その拍子に咳き込んだキラの口から、赤い血が又流れ出す。
「だめだっ!もう喋るなっ!頼むからっ・・・・。」
止血を拒んだキラの背中に回した俺の手にも、暖かい血が伝って落ちていく。

止まらない血。

俺だって軍人だった。
仲間たちがどれほどの血を流して戦場に散ったか、何度も見て来た。
尋常ではないこの出血量。
最悪の事態が頭をよぎり、俺の心臓の鼓動が速度を速めた。


青ざめたキラの頬に俺の頬を摺り寄せる。
心の中で普段は信じたことも無い神に、心からの祈りをささげる。

キラを助けて・・・と・・。

それでもキラは、また息を吸い込んだ。
「ぼ・・・くは・・、戦争が・・・・・・・終わっ・・・・た・・今・・でも・・、あの・・・・日、クルーゼ・・・・さん・・に、言われ・・・た・・言葉が、・・・・ずっとここ・・・・ろ・・に引っかかって・・・て・・・。」

苦しそうに肩で息をするキラに、俺は何もしてやれない。
「争い・・の元・・・・・凶・・になる・・だけ・・の、・・・あっては・・・・なら・・・な・・い存・・在・・・。」
「そんなことは無い、そんな事は無いんだ!キラッ!」

俺の言葉に嬉しそうにキラは頷いた。

「けど・・・・今分かった・・・ん・・だ・・・。僕・・の存在にも・・・意義・・が有った・・・んだって・・・。僕は・・・・・・・、君・・を守る為・・・に生きて・・きた・・・。」
「何を言って・・・・キラ・・・。」

又ひとつ大きく息をつないで、キラは力を振り絞るように言葉を続けた。

「ガン・・・・ダム・・・で・・・・、戦っ・・・・・・・て・・たた・・・・・・か・・・って、それ・・・・・でも、たくさん・・・守れなかった。・・・でも・・今、君を・・・守れた・・。」
俺は言葉をかけることも出来ず、ただその体を抱きしめるだけだった。

そしてキラは震える手のひらを、そっと俺の頬に添えた。
「キラ・・?」
「僕の・・・一番守りたかった・・・人・・。愛・・・してるよ・・・、アスラン・・。・・・・君・・を守れ・・て、良かっ・・・・・・・。」
鮮やかな笑顔の後、俺の頬に触れていた温もりが存在を消した。
「キ・・・・ラ・・・・?」

さっきまで俺を見つめていた、宝石のような紫の瞳はまぶたの裏に隠れ、桜色だった柔らかな唇は色をなくした。

「キ・・ラ・・・?キラっ!目を開けて、キラっ!」
腕の中のキラを揺さぶってみる。
血が伝った頬を撫でてみる。

「ねぇ、起きて、キラ。どうしたの?俺を呼んで・・・。俺を・・・見て。笑ってよ・・キラっ・・・。」

でも、その瞳は俺を写してくれない。

撫でた頬も、柔らかな唇も、閉じた瞳からあふれた涙さえも、まだこんなにも暖かいのに・・・。


「嘘・・・・だ。嘘だ!こんなことある訳無い!キラっ!キラっ!イヤだっ!目を開けて、キラっ!・・・・・・・キィラァァァァァァァァァァァァァァ!!」

俺は、力をなくしたその身体を力の限り抱きしめた。

愛しい人へ最期に贈ったキスは、血の味がした・・・・。





これは夢なのか・・・?

何も見えない。
真っ暗だ・・・・・。


キラ・・・・。
お前の居ないこの世界は、何処を見ても闇だ。
自分さえも黒く溶けて、消えてしまいそうな程。

そうだ・・・いっそ、このまま消えてしまえばいい・・・。

お前の居ないこの闇は、静か過ぎて・・・・・怖い・・。

キラ、俺を呼んでくれ。
俺を導いて・・・。
お前の元へ・・・。



・・・ラン・・
・・スラン・・・

誰?
俺を呼んでる?


アスラン・・・・・アスラン・・・・

キラ?
キラなのか?
俺を、迎えに来てくれたのか・・・?



「・・・・ラン、アスラン!しっかりして、アスラン!」

やけにリアルに聞こえる。
まるでキラがここに居て、俺を呼んでくれているように。

「アスラン!大丈夫?目を開けて!アスランっ!」

ペチペチと頬を軽く叩かれる。
ダメだ、起こさないでくれ。
折角キラが迎えに来てくれたのに・・・。


ぽつん・・・・

頬に濡れた感触。
何・・?
少し、温かい。

・・・涙?

「お願いだから、目を開けて。アスラン。」

切なそうなその声と共に、俺の身体がぎゅっと抱きしめられた。

この腕を、俺は知ってる・・・。


「キ・・ラ・・・・?」

小さく呟き、ゆっくりと瞼を持ち上げる。

「アスランっ!」

そこに見えたものに、俺は言葉を失った。

まさ・・・・・か・・・・・


「アスラン!良かった・・・。」

安心したように俺を覗き込む、涙で潤んだ紫の瞳。


「キラっ!?」

嘘だ、まさか・・・・キラがここに居るはずがない。
それとも俺が、本当にキラの元へ・・・?


「大丈夫、アスラン。君、ちゃんと生きてるって。」

俺の困惑の表情を読み取ったのか、キラがまだぬれた瞳で微笑みながら俺を優しく起こしてくれる。
本当に、お前なのか?



見渡せば、確かにそこは俺の部屋だった。
視線を前に向ければ、俺と向かい合って床に座るキラが居た。


「本当にお前なのか・・?キラ・・。」
「うん、アスラン。会いに来たんだ、君に。」

手を伸ばせば、愛して止まない人が居る。

けれど、触れた瞬間に幻のように消えてしまいそうで、怖くて指ひとつ動かすことが出来ない。

「アスラン・・。」

どうすればいいのか・・と悩んでいる間に、キラの方から手が差し伸べられ、俺の手を両手でそっと包んだ。

温かい・・。
そしてちゃんと存在していることを示す、確かな感触。

幻じゃ・・・ないんだな・・?

「キラっ!!」


愛しい名を呼ぶと同時に、その身体を腕の中に閉じ込めた。

「アスラン・・・。」

俺の名前を呼ぶ声
細い身体
滑らかな頬
柔らかな亜麻色の髪
そして、宝石のようなその紫の瞳

全てが、キラだ。
間違いない。
俺がキラを間違えるはずがない。

このキラは幻なんかじゃない。

だとしたら・・・・・

今こうして起きている事全てが、幻なのか?

だって、現実な訳ない。
キラは・・・・
俺の腕の中で冷たくなったのだから・・・。


それでも、いい。
こうしてまたキラに会えた。
たとえこれが夢の中の出来事だとしても、キラをこの腕に抱くことが出来た。
その事実だけでいい。



「キラ・・。」
耳元で名を呼ぶと、腕の中のキラはゆっくりと顔を上げた。

どちらからともなくお互いの距離を縮め、ごく自然に俺たちは唇を重ねた。
あの日までがそうであったように。

一年振りに味わうキラの唇は、あの頃と変わりなく柔らかく甘い。
もっと、ずっと、こうしていたい。

もう二度と・・・・離したくない。

長い時間を掛けて味わった唇を解放すると、息苦しさに頬を上気させたキラが潤んだ瞳で俺を見上げていた。

なんて綺麗なんだろう・・。

すぐにでも抱いてしまいたい衝動に駆られる。
それを押さえる為に、キラから視線を外しそっとその華奢な身体に回していた腕を解いた。

「アスラン・・・?」

どうして?と言う顔でキラは俺を見上げる。


なんだか、自分がとても浅ましく思える。
一年ぶりの再会。
たとえ全てが現実じゃないとしても、心が躍る。
そして、体が熱くなる。


このままキラに触れていれば、欲望のままに抱いてしまうに違いない。

そんなのは・・・・イヤだ。



戸惑う俺の手に、キラがそっとその手を重ねる。
「キラ?」
俺を見つめるキラの瞳は、この世にたった一つの宝石。
あの日閉じられたまま、もう俺を見つめることはないと思っていたのに・・・。

「抱いて・・・アスラン。僕を、もう一度。」
「キラ・・・・。」

いいんだろうか・・。
俺のためにキラはその命を閉じたのに、俺にそんな資格があるのか?

「こんな事言うの、ずるいと思うけど・・・。」
キラは少し俯き、ばつが悪そうに言葉を繋いだ。

「時間が・・・・無いんだ・・。」
「時間?」
コクリとキラは頷いた。

「どういう事だ・・?」
「僕がここに居られるのは6時間だけ。それ以上留まったら、僕は消えてしまう・・。」
「消える・・・って・・?」
魂さえ消えてしまうというのか?
もう2度と、夢でさえ逢えない・・と?

「この時計のタイマーがゼロになるまでに、戻らなくちゃいけないんだ。」
そういってキラが差し出した腕時計のデジタル表示は、残り時間が5時間23分で有ることを示していた。


「だから・・・・、アスラン・・。」

「キラっ・・。」

気付いた時には、その柔らかな唇を塞いでいた。

「・・・ん・・・ふ・・・・んん・・・。」

あわせた唇から漏れる声も、絡めあう舌が作り出す水音も、全てが懐かしく愛しい。


ひとしきり味わった唇を離し、床に座り込んでいたキラを抱え上げ、ベッドへ横たえる。

「アスラン、また君に逢えて・・・嬉しい・・。」
俺を見上げるキラの瞳から、涙が零れ落ちる。
「俺もだよ、キラ。またお前に逢えるなんて・・・。」
耳元で囁き、こぼれる涙を唇で拭った。

キラの頬に、瞼に、首筋に、口付けを落とす。
紅く染まった耳たぶを甘噛すると、快楽を知らせる声がキラの口から吐息と共に零れた。

絶え間なくキスを贈りながら、一枚一枚服を取り去っていく。
露になった肌は、あの頃と同じように滑らかでとても敏感だった。

首筋から鎖骨にかけて強く吸い上げ、キラが俺のものだと示す印を刻む。

「あっ・・・アスラン・・。」
溜まらず小さく嬌声を上げるキラの身体は、小刻みに震えていた。

やがて俺の指先は、胸に息づく小さなつぼみにたどり着いた。
「やっ・・・あ・・・。」
そっとそのつぼみを摘むと、キラの身体がビクンと跳ねた。

「キラ・・・?」

なんて初々しい反応。
まるで初めて抱いた時のような・・。

初めて抱いたキラは、怯えたようにずっと震えていた。
それが何度も身体を重ねるたびに艶を増し、自然と溢れてくる色香に酔いしれる俺が居た。

凶弾に倒れる前夜のキラも艶やかで、俺はすっかり溺れてしまい、結局明け方まで放してやることができなかったのだ。


「怖いの?キラ・・。」
どれだけ優しい愛撫をしても止まらない震え。
「・・ううん。大丈夫。だから・・このまま・・。」
小さく呟くその声さえも、震えていた。

心に引っかかるような、違和感。

一年ぶりだから?

そんな訳ない。
たった一年で、まるでリセットされたかのような反応を見せるわけがない。


俺は、ゆっくりと覆いかぶさっていたキラの上から離れ、ベッドの縁に腰掛けた。

「ア、 アスラン・・?どうしたの?」
キラが俺の肩に手をかけ、俺の表情を伺おうと顔を覗き込んできた。

そんなキラには視線を向けず、俺は傍にあるその存在に冷たく問いかけた。

「お前は誰だ。」
「えっ!?」

俺の問いかけに、明らかに焦ったような反応を見せた。

「ど、どうしたの?アスラン。僕はキ・・。」
「そうだ、お前はキラだ。俺がお前を間違えるわけないだろう!でもっ。」

俺はキラに向き直り、両手でその細い肩を掴んだ。

「でも、お前は最後に抱いたキラじゃない。あの時のキラじゃないっ!」
「アスラン・・・。」

真っ直ぐに見つめると最初は驚いたように目を見張ったキラも、ふっと目を細め諦めたように淡く笑った。

「やっぱ、君はごまかせないね。僕のこと、ほんとに良く分かってる・・。」
寂しそうに言ったキラは、ベッドに俺のスペースを空けて滑り込み、自分の隣をポンポンと叩いて見せた。
俺は促されるままにキラの隣へ身体を横たえた。

「アスラン・・・。どうしても、ダメ?」
「あぁ。だってお前は俺が看取ったときのお前じゃない。そうだろう?」

俺たちは視線は交わさず、ただ天井を見つめていた。

しばらく続いた沈黙を破ったのはキラの大きなため息だった。

「はぁ~・・・。君は昔から頑固だからな・・。」
そう言って俺の方を向き、俺の肩に頬を摺り寄せた。
「僕がキラだってことは、認めてくれる?信じてくれる?」
「あぁ。お前はキラだよ。」
そんなことは、分かりきってるんだ。
俺の隣にいるのは、誰よりも愛しい人。

「ね、アスラン。聞かせて欲しいんだ。僕が・・・死んだ後のこと。あの日君を狙ったのは誰だったの?」
キラは震える手で俺にしがみついてきた。
俺は、その震える肩を抱き寄せた。

「あの日・・・。お前が死んだあの日、カガリもラクスもすぐに俺たちのこの家へ来てくれたよ。イザークとディアッカまで、プラントから駆けつけてくれたんだ。」
「そう・・・。」
「皆・・・泣いたよ・・。ラクスがあんなに取り乱すのを見たのは初めてだった。」
「・・・うん・・・。」
「お前は、皆に愛されてたんだ・・。」
「うん・・うん・・・。」

そこまで話した所で、俺の肩が濡れているのがわかった。
「キラ・・・。泣かないで・・。」
俺は体勢を替えキラの方へ向くと、華奢な身体を腕に閉じ込めた。
「ごめん・・・。話、聞かせて・・。」
「うん。」

それから、カガリが持てる権力の全てを駆使して、キラを撃った犯人を捕まえたこと。
俺を狙った理由が、父親であるパトリック・ザラにあったことを話した。

俺を狙いキラの命を奪った犯人の家族は、父パトリックを崇拝するテロリストが企てた、ユニウスセブン落下事件で家族や大事な仲間を無くした、哀しい1人の人間だった。
憎しみや悲しみの行き場所を、パトリックの息子である俺に向けたのだ。



そして・・・・
俺も一度はキラの後を追おうとしたことも、きちんと話しておかなくちゃ。

「お前の葬儀の後、俺はこっそりと会場を抜け出した。誰にも知られず死んでしまおうと思ったんだ。」
「アスラン!」
責めるように俺を見つめるキラに、思わず自嘲の笑みがこぼれてしまう。

「けど、止められたよ。皆に。」


『貴様っ!こんなところで何をしているっ!』
『お前!何するつもりだ!そんなことをして、キラが喜ぶとでも思ってるのか!?』
『アスラン、いけません。あなたを守りたいと願ったキラの思いを無駄にするおつもりですか?』
『ってか、そんなことをしたって、あの世でキラがお前に逢ってくれるとは思わないけどね。』
『キラが、泣くぞ!貴様はそんなにあいつを泣かせたいのかっ!』

「思いっきり殴られたよ、イザークにね。」
「イザークさんが・・。」
「あぁ。俺を殴ったあいつも泣いてた。それで目が覚めたんだ。俺は間違ったことをしようとしてるって。」
「アスラン・・・。」
「お前が俺を守ってくれたのに、無駄にしちゃいけないんだ。大事にするよ、この命を。」

話をする間ずっと俺の腕の中でじっとしていたキラが、突然俺の首にしがみついてきた。
「キラ?」
「もう、絶対に死のうなんて考えないで!生きていて欲しいんだ、アスラン。」
キラの柔らかな髪を撫でる。
その手触りを確かめながら、優しく慈しむように。
「分かってる。もうあんな馬鹿なことはしない、絶対に。誓うよ、キラ。」
「本当に?」
「あぁ。」
「良かった・・。」

しがみついていた腕を緩め、キラが俺を見つめている。
少し涙が滲むその目じりに、俺はやさしくキスをした。

「それでも、当分はまともに眠れなくて、仕事中に倒れちゃったんだ。」
「えぇっ!?」
「カガリに強制入院させられたんだ。一ヶ月も。凄く叱られた。カガリにもラクスにも。『お前はバカか!?』って。」
「カガリらしいや。」
キラはクスクスと笑った。
やっぱり、笑ってる顔がいい。
「今は?」
「ん?」
「今は大丈夫なの?身体。ちゃんと眠れてる?」
「あぁ。うん。ちゃんと寝てるし食べてるよ。仕事もちゃんとしてる。」
「そっか・・。良かったぁ。」
心底安心した表情で、キラは目を閉じた。


「なぁ・・・。」
「なに?」
「今度はお前のこと、聞かせてくれないか?」
「え・・・。」
俺の問いに少し戸惑った顔をするキラ。
話したくないのだろうか?

しかし、ゆっくりと上体を起こしたキラは、覚悟を決めたようにしっかりと頷いた。




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