日常・・・

日常・・・

【生きる道】(2)


「あんなやつの所に行くのはごめんだ!早く逃げようぜ!」
ハンドレックスが泣きそうになりながら訴えた。
しかし対するジェームズは冷静に言った。
「だけど特殊部隊の奴らがいたろ?彼らを助けないと」
「大きく旋回すれば行けるはずよ。反対側に出よう」
エレナも賛同してジェームズに命令する。
しかし隣のジョンがハンドレックス側の立場にいた。
「だけど今行くのは危険だ。もう少し待ってからでないと」
ルーシーも頷く。
「確かにもう少し待ってからのほうがいい気がするわ。今いっても、自殺行為よ」
「だけど彼らは死にかかってるのよ?ゾンビの大群もいるし、手遅れになる前に・・・」
「そうだエレナの言うとおりだ」
ルーシーとエレナの言い争いが始まる気がしたので、ジェームズは自然にまとめた。
しかし他のものからもさまざま意見が出た。
「わしも早いところ行ったほうが良いと思うが・・・」
老人の男が静かに意見を言う。
「でも今は行かないほうが良いと思うが・・・私らもしんでしまう」
それに老人の女が反論する。
静かな討論がまた別所で始まった。
ガンシップの内部がどんどんうるさくなっていた。
「おいおい黙れよ・・・」
「静かにしてよ。子供がいるのよ」
エレナが近くにいた幼女を見つけ抱きかかえた。
「まず意見をまとめよう」
「俺達の命と奴らの命、どっちが大事か多数決だ!」
「そんなんで決められるか!冷静に議論しないと・・・」
「黙れ!!!!」
その一言で、騒がしかった内部が一気に静まり返ってわずかにローター音が聞こえるだけになった。
声を出したのはウィルだ。
今まで長い爪が録る面積をできるだけ狭く、小さく座っていたウィルが突然声を出したのだ。
一括した後、ジョンのほうを向く。
「どうしたんだ・・・」
ジョンが疑問の眼差しを向けた。
「ここまで来た意味がなくなる・・・」
そういうとウィルは無言でガンシップの扉を横にスライドした。
途端にものすごい風が吹き、外に吸い出されそうになる。
「馬鹿!気圧が・・・」
「静かに!ジョン」
必死に風圧に耐えながら、ジョンがウィルを見つめた。
「お前は力があるだろ。人とは違う・・・それを使おう」
最後にエレナも見て、ウィルはガンシップの外へ身を乗り出した。
「やめて!」
察したルーシーが止めようとしたが遅かった。
ウィルはガンシップを飛び出し、100メートルはゆうに離れている地面へ飛び降りた。
「マジかよ!」
ハンドレックスが手すりにつかまりながら叫んだ。
「嘘だろ・・・」
ジェームズもそう呟いた。
ジョンは操縦桿の脇にあるボタンを押し、自動的に扉を閉めた。
人間を吸い出そうとしていた自然のいたずらも止み、再び静けさが戻った。
「・・・どうするよ」
ハンドレックスが沈黙を破った。
その質問に答えられるものは、さすがにすぐには現れなかった。
しかし次の瞬間、別の声が上がっていた。
「・・・今すぐ旋回して、安全な所に降りよう」
ジョンだった。そして隣のジェームスを見つめた。
ジェームスも頷き、操縦桿を握りなおした。




ガンシップを飛び降りたウィルは、上手く軌道を修正し、ビオランテの真上に向かっていた。
しかしあと十メートルといった所で、触手の一本に振り払われた。
地面に叩きつけられたウィルは、すぐに起き上がった。
しかしすぐに周りの状況に気付いた。
ゾンビで埋め尽くされていた・・・その中でウィルの存在はひときわ目立ったのだ。
「糞野郎どもめ」
ウィルはそういうと、右手を一振りし、近くにいたゾンビの首をはねた。
続いて左手を使い、迫っていたゾンビを突き刺す・・・そして間もおかずに右手で3体のゾンビを一気に斬った。
後ろにいたゾンビが吼え、ウィルを威嚇した。
「やるか!」
ウィルはすぐに構えなおし、左手でそのゾンビの足を斬り、右手で腹を刺した。
止めに衝撃波で吹き飛ばすと、30メートルはなれたところにいるビオランテを見た。
ビオランテは触手を使い、ゾンビを食い漁っていた。
「どうやら敵と見方の区別もつかないようだ・・・」
ウィルはそう呟くと、一気に足を回転させ始めた。
ビオランテに向かって走り走り始めたのだ。
途中ゾンビが道をふさぐが、迷わず切り刻む。
そして、ついに距離は10メートル足らずとなった。
「うら!」
ウィルはジェダイ、さながらの大ジャンプを見せ、宙に舞った。
高々と舞い上がり、近づいた一本の触手を払いのけるとその緑色の体に爪を差し込んだ。
渾身の一撃だった・・・しかし、ビオランテは行動を一瞬止めただけであった。
「何・・・」
次の瞬間にはまだ爪が刺さっている所から、緑色の血液があふれ出した。
勢い良く血液が流れ出るにもかかわらず、ほとんどダメージを受けないビオランテ・・・
ウィルは一瞬絶望の淵へと追いやられた。それをビオランテは感じ取った。



ウィルをはじめてみたときのオーウェンの反応は
「ソニー、新手だ!」
であった。
しかしソニーがどうにも様子がおかしいということで、しばらく銃撃の合間にウィルを観察していた。
「ソニー!あいつ何なんだ!?」
オーウェンがマシンガンをぶっ放しながら叫ぶ。
「知らない!だがガンシップから飛び降りたんだ!見方じゃないのか!?」
「頭おかしくなっちゃったかソニー、あんな化けもんみたいな見方がいるかよ!」
そう呟き終わると同時に、マシンガンを装填する。
ソニーもハンドガンを撃ち終えると、後方にくるっと転がった。
「俺はあそこから・・・」
ソニーは後方にそびえる高いビル・・・いまはボロボロになったビルを指した。
「ランチャーで植物野郎をぶちのめす。ここはお前に任せた」
「おい、まてよ・・・」
オーウェンの言葉も聞かず、ソニーは先ほど持っていたポータブルランチャーを持ち直すと、ビルの中へと消えた。
何とかオーウェンは意気を取り戻すと、再びマシンガンを構えた。



ウィルは背後から何かにつかまれた。
鋭い牙を持つ口が先端にある触手に、ウィルは背後から襲われたのである。
噛み付かれると同時に、背中から血しぶきが勢いよく舞った。
「くそ!」
触手といっても元が巨大なので、太さは2メートルほどあり、ウィルを咥えるのには十分だった。
一瞬のうちにウィルはその場から、数十メートル後方へ引かれた。
ウィルは背中に向かって腕を振り回すが、かすり傷がつく程度でまったく意味が無い。
「ちくしょ・・・」
ウィルがもう一度腕を振ろうとした時、触手が横に揺れた。
ビオランテが触手を振り回しているのだ。
ウィルは長さ数十メートルはある触手にふりまわされている・・・
その時、触手が動きを止めた・・・恐る恐るウィルは目を開けた。
すると鋭い歯がついた巨大な口が、目の前に迫っていたのだ。
「クソ!」
触手を切り刻もうと、何度も腕を振るが運悪く爪があたらない。
次の瞬間ビオランテの巨大な口が、さらに大きく開かれて、触手も動いた。
もうダメだ、とウィルが悟った瞬間、突然ウィルの脇にゾンビが3体現れた。
ウィルはゾンビを見た・・・浮いているのだ。
触手でつれてこられたわけではない・・・だとしたら・・・すぐに答えはわかった。
3体のゾンビは一瞬でビオランテの口に突っ込んだのだ。
ビオランテの巨大な口も3体のゾンビを一気に丸呑みは出来なかった。
案の定むせて、巨大な咳をウィルに向かってだした。
そして触手もウィルを放した。
ウィルは数十メートルの高さから落下したが、すぐに何かの力で停止した。
そしてゆっくりと何処かに飛ばされていた。
今やオーウェンの横にたっているジョンのもとに引き寄せられていた。


ガンシップが後5メートルで着陸という時、ジョンが突然飛び出した。
「おいおい、そう急ぐなよ!」
「ウィルが触手につかまってるんだ。早いとこいかないと・・・」
ハンドレックスが止めようとしたが、ジェームスの呟きで意見を変えて言った。
「・・・ジェームス早く降ろせよ!」
次にルーシーが声をあげる。
「降りたらまず、特殊部隊の人たちを乗せて、そしてジョンとウィルを連れ戻しましょう」
ルーシーの手にはマシンガンが握られていた。
「分かったわ」
エレナが同意すると同時にガンシップは地面に着陸した。
「よし、早いとこ済ませよう!」
ジェームスがコックピットから飛び出すと、そういって外へ駆け出した。
「待ってください!」
続いてダグラスがジェームスを追って飛び出した。
だが次の瞬間・・・
マンホールのふたが開き、何かが飛び出してきた。
「リッカーだ!」
ハンドレックスがそう叫んだ。
そう、マンホールから飛び出したのは小柄ながらも、完全なるリッカーだった。
そのリッカーはダグラスを後ろから襲った。
その後ダグラスの悲痛な叫び声が響く。
ジェームスはそれに気付き、すぐさまビルの陰へと隠れた。
「閉めるのよ!」
ルーシーの一言で、エレナがガンシップの出入り口を閉める。
その瞬間、その扉の反対側にあるガラスに、別のリッカーが体当たりをした。
「クソ!」
ハンドレックスが悪態をつく。
「どうしようもないわ!」
ルーシーが諦めムードで叫んだ。
無理に銃で反抗すれば、ガラスも割れ危険になってしまう。
ハンドレックスはコックピットに言って、使えるものが無いか探した。
見つかるのは強力な銃で、壁をすり抜けて使える銃などあるわけなかった。
その時、コックピットの正面ガラスにリッカーが張り付いた。
「うわぁ!」
驚いてハンドレックスは席に足を引っ掛け、すっ転んでしまった。
ガラス越しに長い舌を伸ばし、威嚇するリッカーはただの化け物であった。
そしてリッカーは長い爪を振り上げ、ガラスを壊そうとした時・・・
どこからか・・・恐らくポータブルランチャーから発射された小さなミサイルが飛んできて、そのリッカーに命中した。
派手な血しぶきを上げたリッカーが、転げ落ちる。
ハンドレックスにはそれにも驚き、すぐに発射元を探した。
それは小さなビルの屋上にいた。
髭を生やし、ベテランで堅物そうな男がランチャーを構えていた。
ハンドレックスにそれは、荒野の暴れ者に見えた。

一方、エレナも能力を遺憾なく発揮していた。
ダグラスを襲ったリッカーを持ち上げて、あっちこっちに振り回したのだ。
もちろん力を使って。
最後は荒野の暴れ者・・・もといソニーのランチャーを食らわせて、リッカーを何とか倒した。
「早いとこ皆を乗せないと!」
ルーシーが慌てたように叫ぶ。
「そうしないとまた奴らが現れる」
「・・・祈るだけよ」
エレナが静かに呟いた。
「だって勝手に動けないでしょ」
一理あった。


「はぁはぁ・・・」
ウィルは死角になっているところに横たわっていた。
「やるときはやるじゃないか・・・」
ウィルの目線の上にはジョンがいて、あたりを警戒している。
「当たり前よ」
「すまんが・・・」
オーウェンが申し訳無さそうに切り出した。
「フォースを使えたり、手が鎌だったり・・・なんでだ?人間じゃないみたいだ」
その問いに、ジョンとウィルは顔を見合わせ、小さく笑った。
「まぁ・・・人間じゃない・・・といっちゃ人間じゃないがな」
その答えを聞いて、オーウェンの顔が少し青ざめたのが分かった。
「じゃおたくらは一体・・・」
「細かいことは後だ、さて行くぞ」
「気にするなよ。さ、ウィルを運ぼう。手伝ってくれ」
ジョンにそう指示されたが、気にしないことなど出来なかった。


ロスソンとカーディーは再び狭い路地へと入っていた。
戦うより、まず逃げたほうが効率がよかった。
先ほどと同じく、ロスソンがカーディーを肩で支えている。
「ヘリの音は近い・・・もう少しで抜けられる」
ロスソンがカーディーを励ますようにいった。
しかし、次の瞬間カーディーは思い切り吐き出した。
ロスソンはあまりのことにさすがに動揺した。
「おい、大丈夫か?」
「あまり大丈夫じゃない・・・」
カーディーは遠くを見つめてそういった。
「・・・ウイルスの感染速度には個人差があった・・・な」
「諦めるな」
ロスソンが強く言うが、カーディーは既に諦めつくしていた。
「もう・・・ダメか・・・」
その時、誰もいないと思っていたビルの入り口から何かが出てきた。
2人が同時に銃口を向ける。
「おい、仲間を忘れたか」
薄暗闇に映し出されたのはソニーだった。
ポータブルランチャーを構えている。
「ここで何してる」
「“援軍部隊”のサポートだ。しかし、今は必要ないからヘリに向かおうかと」
ソニーは衰弱しきったカーディーに気付いた。
「おい、カーディー大丈夫か?」
「皆からそういわれる・・・」
そのユーモアに、自然に3人笑みが溢れた。
しかし次の瞬間、すぐそこの角から人影が現れた。
毎度の如く銃口を向ける。
「馬鹿!俺は違う!仲間だよ、助けに来た!」
それはジェームスであった。もちろん初対面である。
「分かってる。早いとこヘリに案内してくれ」
急かすロスソンに、ジェームスはむすっと答えた。
「挨拶くらいしないのか?」
「それは後だ」


オーウェンはジョンと一緒にウィルを支えてガンシップまできていた。
ウィルを寝かせて、後は仲間の帰りを待つ。
「先に言うがまだ出発させないぞ。仲間が3人もいるんだ」
オーウェンは隣のジョンに言った。
「大丈夫だ、俺達もメインのパイロットが帰ってない。出発はしないさ」
オーウェンはジョン答えに頷くと、ビルの隙間から見えるビオランテを見た。
緑色の体が不気味に映し出される・・・触手はさらに高い位置にあった。
それを見て、オーウェンはとても不安になった。
もしかしたらあいつらに襲われているのではないか・・・そんな不安が頭をよぎった。
「おーい!」
その矢先だった。
近くのビルの間からソニーと見知らぬ男 ―ジェームスが見えた。
後ろにはロスソン、カーディーは支えられている。
「おーい!」
オーウェンも声を返した。
そして隣のジョンと顔を見合わせ駆け寄った。
「大丈夫かカーディー」
「何度目だよ・・・」
「早いところ出発しよう、こんな所おさらばだ!」
ジェームスがそういってコックピットに駆け込んだ。
カーディーを押し込んだロスソンは辺りを見渡した。
丁度ビルの隙間からゾンビが数体現れている・・・薄暗い空は、ようやく明けそうだ。
「ロスソン」
ふと我に返ると、ソニーが扉を閉めようとしていた。
「どうした?」
「大丈夫だ。ちょっと物思いに・・・」
その瞬間。ロスソンのすぐ正面を、何かが通過した。
触手だ!ビオランテの触手が、ここまで伸びてきたのだ。
「危ない!」
その声で、ロスソンはガンシップに飛び乗った。
間一髪、触手から逃れることが出来た。
「扉を!」
その声でソニーが扉を閉める。その直後、触手が扉に体当たりをした。
「任せて!」
エレナが扉越しに手をかざした。
「何してんだよ」
ロスソンが疑問に思って尋ねる。答えたのはオーウェンだ。
「こいつらジェダイなんだよ」
信じることしか出来ないロスソンは、渋々納得する。
一方エレナは、力を使っているようだが、まったく効果は無かった。
「数が多いのよ!」
「ジェームス、出発できるか!?」
ハンドレックスが、パニックになりながら質問する。
「飛んだ瞬間に、奴らに狙われるのがオチだぞ!」
ジェームズも、さすがに気持ちを抑えられないようだ。
ハンドレックスは触手の体当たりでゆれる機内に腰かけた。
その時、隣に座っている男が目に入った。
初めて見る顔・・・絶対に特殊部隊の面子だろう。
しかもかなり顔色が悪い。どう見ても正常な状態ではなかった。
「おい、お前は・・・」
その時、その男がハンドレックスに向かって咳をかけた。
喘息の発作のように、何度も何度も咳き込む。
「大丈夫か、カーディー」
カーディーは手を口元にやり、苦しむ仕草を見せた。
ロスソンはカーディーの背中に手をやり、静かにさすってみた。
「・・・ロスソン・・・」
ロスソンは、カーディーの小さな声を聞き取った。
「どうした?」
「・・・・・・扉を開けろ」
とうとうおかしくなったのか?ロスソンはそう思った。
「何でだよ、そんなことしたら」
「いいから早くあけろ!」
その怒鳴り声に、パニックになっていた機内も静かになった。
最初に、カーディーの隣にいたハンドレックスが声をあげた。
「開けろって・・・なんでだよ」
皆の視線がカーディーにそそがれる。
カーディーは居心地が悪そうに説明を始めた。
「いいか・・・俺は感染者だ・・・もうすぐ発狂するだろう・・・なら迷惑極まりないはずだ」
チラッと全員を見渡す。
「ここで俺が餌食になる・・・その隙に脱出してくれ」
カーディーは決意を述べた。ロスソンは戸惑いを隠さなかった。
「そんな事は・・・」
「手段はそれしかない」
ぴしゃりというカーディーに、ロスソンは答えられなくなってしまった。
異様な間が訪れる。それを破ったのは、低く響く声だった。
「ロスソン、お前が決めなくてもいい」
ソニーである。ソニーはロスソンを見てそういった。
「カーディーの・・・意思は決まったんだろうからな」
ソニーは続いてカーディーを見て、静かに頷いた。
オーウェンも涙に顔をぬらしつつ、静かに頷いて見せた。
カーディーは自然とロスソンと目が合った。
そして最後にしっかりと目で意思を確認しあい、ロスソンはカーディーを送り出した。
カーディーはゆっくりと立ち上がると、扉の前に立って、ノブに手をかけた。
「よし・・・では、さらばだ」
最後に静かに笑った・・・ロスソンにはそう見えた。

カーディーはすぐに触手にさらわれた。
口のついた触手はカーディーを背中から咥えると、本体のほうへと引き始めた。
途中、一度ビルの壁にぶつかったが放そうとはしなかった。
そして触手は本体の前へとたどり着いた。
獲物をよく見て、大きな口は開かれた。
「ふぅ・・・」
カーディーはその大きな口を見て呟いた。
どんどんと口の中にある、無数の鋭い歯が迫る。
「餌が少なくて残念だったな・・・」
触手が口の中に入ると同時に、カーディーは2つの手榴弾の栓を抜いた。
最後にチラッと、ヘリコプターが飛び立った姿が見え、カーディーは笑った。

「よし飛び立った!」
ジェームスが叫ぶ。ガンシップは十分飛行できる高度まで飛び上がった。
ジョンとエレナが安堵の息をつき、ソニーが十字をきった。
ロスソンは窓からビオランテの姿を眺めていた。
飛び立って間もなく、ビオランテが内部から爆発を起こしたのが見えた。
「やったぜ!」
同じく外を眺めていたオーウェンが感激の声をあげた。
「カーディーがやったんだ!」
オーウェンの声は機内に響いた。
機内では、ウィルが横たわり、ルーシーがため息をつき、ハンドレックスとオーウェンが喜び合い、
ソニーが天を仰ぎ、ジェームスが操縦し、ジョンとエレナが抱き合っていた。
ロスソンもその感動の行動を起こしたかった。
しかし、不意に別のことが思い浮かんだ。
グリー・・・忘れてはいなかった。



グリーとダイソンは屋上までたどり着いた。
薄暗い空が、病院の屋上・・・そこにあるヘリコプターを照らす。
廃墟と化しているので、既にフェンスはボロボロである。
「ダイソン、フェンスを越えよう!」
ダイソンはダッシュしてフェンスに飛びつき、勢いで上りきった。
グリーもそれに続く。
緊急患者用にヘリポートも備え付けてある広い屋上の中心にヘリコプターはあった。
ダイソンが駆け寄って、ヘリコプターに乗り込んだ。
しかし、最悪の事態が発生した。
ヘリのプロペラが破損し、正面窓が割れていたのだ。
「クソ!!」
それを見たダイソンが、悔しそうに叫ぶ。
グリーもそれを確認して、落胆の色をあらわにした。
「暗くて見えなかったってか!?そんないいわけ許さねぇぞ!」
ダイソンがやけになってグリーに怒鳴る。
「俺達はここから出れないんだ!・・・お前の責任だ!」
“責任”という言葉に、グリーは反応した。
そして、自分の過ちに気付いた。
「責任なんて・・・無かった・・・」
グリーの頭に、つい数時間前からの出来事が鮮明に蘇ってきた。
ロスソンの動きに不満があって、怒りがつい自分を壊していたこと・・・
勝手に引き連れて来たような仲間を1人殺してしまったこと・・・
ロスソンにはあった責任を、自分は感じれなかったこと・・・
そして今見えるのは、怒りをぶちまけるダイソンだけだった。
「すまないダイソン・・・こんなことになって・・・」
グリーは頭を下げた。しかし、そう簡単にダイソンは許してくれないだろう。
ふと、遠くの空にヘリコプター ―いやガンシップか― が飛び立つのが見えた。
さすがに、助けには来ないだろう。
グリーは落胆と後悔と、そして感謝の気持ちも込めてつぶやいた。
「さよならロスソン・・・お前は正しかった・・・」



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