日常・・・

日常・・・

第一章 【夢】



数多くの星と種族が混合する銀河は多くの星たちが星間共存同盟に所属し、平和な日々が100年間続いていた。
しかし、同盟を脱退して独立を宣言する反乱勢力が生まれると、銀河の治安は一気に悪くなっていった。
そしてたちまち、全銀河を巻き込む全面戦争に拡大していった。
かつての同盟を捨てない星たちは勢力の拡大を続ける反乱グループの勢いを食い止めねばならなかった。



―惑星ヴァーノン


星の9割を海がしめるという水の惑星ヴァーノンは、今日も平和な日々が続いていた。
数多く点在する島々の上で生活する人々は戦争とは全く無縁の日々を過ごしている。
緑の残る草原の一角を、未成年の人間の男女と、1人の青い肌のヴァーニアンという種族の3人が歩いていた。
その中の1人、17歳の青年ロイはずっと本を見ている。
「ねぇねぇ」
先頭を歩く人間の少女が、2人を振り返った。
「何だよ、リギア」
ロイは本から顔を上げて立ち止まった。
リギアと呼ばれた少女は、真剣な顔で質問した。
「少年と青年って、どこら辺から青年で、どこら辺までが少年なの?」
リギアのあまりに唐突な質問に、ロイは吹き出してしまった。
「プッ・・・」
「何よ、その「プッ」って。で、分かるの?分からないの?・・・フィル!」
リギアは突然、ロイの隣に立つ青い肌の青年を指差した。
ヴァーニアンであるフィルは、突然話題をふられた事に驚いた。
「いや~・・・アレじゃない・・・あの、ほら、人間で14歳くらいまでじゃない、少年って」
「そうかしら?」
リギアは長めの髪を結びなおしながら納得の出来ない表情をかもし出す。
「えっと、少年と青年とは・・・」
ロイが突然喋りだした。
「場合によって異なるが、一般的には、おおむね15歳から25歳頃、または34歳頃までの年齢を指すとされる。
狭義には高校生・大学生といった、それらの学齢を含む15歳~22歳頃までを指すことや、
少年法でいう少年期を過ぎた20歳から29歳頃までの男女を指すことも一般的である。
いずれにしても、青年に関する厳密な年齢定義はない!これが答えだ」
ロイの説明に、リギアとフィルはぽかんとしてしまった。
「・・・なんでそんなに完璧な説明ができるわけ?」
フィルが圧倒されたという感じで呟く。
そこで、リギアはパッと思い出した。
「あ、そうだった。こいつ、天才だった」
リギアのその言葉に、ロイは急に天狗になって語りだした。
「そう!俺は天才、運動神経抜群というまさに理想的な人間・・・」
「性格さえよければいいんだけどね」
リギアが痛いところを突く。
「全くだね」
フィルも同意してうんうん、と頷く。
ロイは完全にアウェーになってしまい、がっくりとうなだれて見せた。
「ところで、今の知識はなんていうところから学んだわけ?」
リギアが興味しんしんでロイの持ってるデータブックを覗く。
「ああ、”Wikipedia”っていうネット辞書みたいなものかな」
ロイが説明するが、残りの2人は完全についていけてないようだ。
「・・・ウィキ・・・何?」
「ああ、地球っていう外縁部の第169太陽系の星で使われている・・・」
ロイが説明するが、やはり残りの二人はきょとんとしている。
「はい、もう良いです」
ロイは説明を打ち切り、草原の草の上に座り込んで、遠くに見える海を見た。
ここは平和だ、どこまでも。
自分の夢に挑戦するためには、この平和な星を出なくてはいけない。
ロイが物思いにふけていると突然リギアが背中を叩いた。
「ねぇ!」
「うわぅ!」
突然声をかけられた事に驚いたロイは、胸に手を当てて、心をどうにかして落ち着ける。
「今年は”SSF”の入隊試験を受けるの?」
リギアは質問した。そして続ける。
「今年のを受けるためには、明日ここでないと間に合わないでしょ、首都のリカルアに」
リギアがいい終えると、ロイは草の上に寝転がって空を見上げた。
青い空が広がっている。この空の彼方で、戦争が行われているとは到底思えない。
そのときフィルが横から口を挟んできた。
「前々から知りたかったんだけどさ、何でロイは”SSF”に入ろうとしてるの?宇宙の特殊部隊なんだっけ?
というか、”SSF”に入ってどういう活動をしたいと考えてるの?」
まるで面接官のような口調に、ロイは少し腹を立てた。
その質問は、散々リギアや他の友人からされてきたことだ。
「SSFはいまや特殊部隊の域を超えて兵士みたいになってきている。戦争を食い止めるために戦っているんだ。
それに俺は加わって、戦争の終結に一役買いたいと・・・」
ロイが熱弁していると、ロイの腕に巻きついている時計のようなものが、突然アラームを鳴らした。
「やばっ」
ロイはそれを聞くなり突然慌てだす。
「また遅刻ね。怒られないように~」
リギアはそういい残すと、嫌味っぽい笑顔だけを残し草原を走り去っていった。
「あいつめぇぇぇぇ」
「仕方ないよ。前もバイトに遅れかけて、リギアのエアバイク強引にぶっ飛ばしていったら、
思いっきり岩にぶつけて、破壊しちゃったんだから」
「丁寧に説明ご苦労さん」
ロイは延々語るフィルにそういい残し、近くに見える街の方に走りだした。
「ふぅ、行っちゃった」
一人残されたフィルは、寂しく街のほうへと歩き出した。



―軍艦<クラッシュ>


星も少ない宇宙空間を航行している軍艦があった。
大きさは大きくないが、名前は立派に<クラッシュ>、破壊を意味している。
これは第21小隊の宿舎と移動用の船も兼ねている、いわば第21小隊の母船である。
「では、さようなら~」
狭い唯一のドッキング・ベイから小型艇が発っていった。
それをシールド越しに見守る第21小隊の面々は、ドッキング・ベイの発着口が閉まると急に力が抜けたように座り込んだ。
「はぁぁぁぁ・・・・・・」
ザックが大声を出して、床に座り込む。
「任務完了!ってところですかね~。やっと休めるぜ」
「お前は任務中も休憩中みたいなもんだろ」
ザックの呟きに、アダムが鋭い突込みを入れる。
それでイラッと来たのか、ザックは頬の十字の傷をアダムに見せつける。
「おいおいおいおいおい、この傷がついた理由を教えなかったか?」
「ああ、確か2年前の任務でヤマ族と戦ってついた傷なんだって?」
アダムに言われ、ザックは鼻高々になって語りだした。
「そう、アレは2年前・・・ヤマ星のヤマ族に接近戦を挑まれて・・・」
「殺されそうになったところを、俺が助けた!」
突然エクス・クラウン隊長が口を挟む。
「そうそう、で俺が隊長に泣きすがり~って違うだろうが!」
ザックのノリのよさに、21小隊全員が笑いに包まれる。
第21小隊は宇宙特殊部隊”SSF”の部隊の一つであり、現在5人で活動しているというSSFの中で
最も人数の少ない部隊でもある。
メンバーである隊長のエクス・クラウン、隊長補佐官のベン・クラウド、アタッカーのザック・ペリー、
スナイパーのアダム・ホール、そして後方支援のメリル・ライターの5人は今、第21小隊専用軍艦、
<クラッシュ>内で任務を終了したというわけである。


メリルはエクスから3日休暇、という嬉しい知らせを聞き、ルンルン気分で<クラッシュ>内の自分の部屋に向かっていた。
休暇といっても故郷に帰れるわけでもなく<クラッシュ>内でグーダラ過ごすだけではあるが。
彼女は16歳でSSFに入隊し17歳の今、第21小隊の中軸を任されている期待の新人である。
3日の休暇、ゆっくりと過ごそうと誓い、自室の扉を開けた。
「お、メリルちゃん、奇遇だね~」
扉を開けたメリルの目にはいかにも偶然という表情をしているザックが立っていた。
といっても、メンバー1人1人にきちんと個室が割り振られており、メリルの部屋にいる時点で
奇遇でもなんでもないわけである。
「丁度この部屋にいてさ~」
ザックは未だに何か呟いている。
前線に一目散に駆け出る勇猛かつ馬鹿なアタッカーであるが、私生活では”ただ”の馬鹿である。
「何をしてるんですか?」
呆れたようにメリルが聞く。
「いやね、ちょっとね、色々あって・・・」
「戻ってください!」
ザックの言い訳が終わる前にメリルは部屋からザックを投げ出した。
扉を閉めてロックする。
メリルはため息をついて、自室のベットへと向かった。


メリルの部屋から投げ出されたザックは、メリルの部屋の向かいにある空き部屋の扉にぶつかった。
「痛ぇな~」
腰を強打したザックが、そういいながら立ち上がる。
もう一度、と思ったとき廊下の奥のほうから声が響いた。
「また馬鹿やったのか」
赤毛の青年アダムが、髪を拭きながら歩いてくる。
「馬鹿じゃない、アプローチというんだ」
ザックはアダムの言葉を真面目に訂正したが、アダムは馬鹿にしたような顔で歩み寄ってくる。
「お前な、メリルは17歳だぞ。28のお前なんて、おっさんも同然だぜ?」
「そんなわけないって。メリルちゃんは俺と少しくらいは一緒にいたいはずだと・・・」


~~~妄想の世界~~~


俺は今日も仕事を終え、家へと帰宅する。
「ただいまー」
「お帰りなさい」
立っているのはメリル。肩まで伸びる髪は今日は後ろで束ねている・・・
「おう、今日も忙しかったぜ」
俺はかばんを玄関に置くと、メリルと見詰め合う。
28歳のザックと17歳のメリル、11歳の年齢差なんて関係ない愛情がそこにある。
「お風呂沸いてます。それとも、ご飯を先に食べますか?」
メリルは笑顔で問いかける。俺は小さく笑いながら言った。
「いや、どれもいいけど・・・」
そしてメリルのあごに手を添える。
「メリルを・・・食べちゃいた」
~~~妄想の世界~~~
「もうやめろ!!!!!!!!!!!!」
「ふがぁ!」
アダムが妄想に走るザックにグーパンチを食らわせる。
「いってえなぁ。妄想なんだから何でもありじゃんかよ!」
「その妄想が外にまで漏れてるんだよ、全く」
アダムは腰に手をあて首を振った。
それを見たザックが、またニヤニヤしながら話し出した。
「ほぉ、さてはアダム、お前はもう決まった人がいるってのに浮気をしたんだな?」
その瞬間、またザックはパンチを食らわされた。
「ちょwww」
「浮気って何だよ!浮気って!」
アダムが必死に反論するが、ザックは得意げに語りだす。
「ほぉ、この船にいる技術者のリーナちゃん、お前の幼馴染なんだろぉ?」
ザックは笑顔でそういうが、アダムの方は完全に愛想を尽かしたようだ。
「まぁ頑張りな」
そういって少し奥にある自分の部屋に入っていく。
しかたなくザックはもう一度メリルの部屋の扉を開けるため、開閉ボタンを押した。
しかしカチャン、という虚しい音が響いただけであった。



この船のブリッジは案外狭いものである。
少なくともそこで、2人が操縦を担当すれば<クラッシュ>のような専用軍艦は航行可能である。
<クラッシュ>のブリッジでは今、とてもくだらない事が行われていた。


「いくぞ!」
立っている細身のダンディな中年男性が言う。
「一番ダメなやつが今週の風呂掃除だ!」
そして席に座っている3人の男女が一斉に顔をこわばらせる。
「惑星スタデスサンで採れる貴重な実を原料とした、お酒の名前をなんというか?」
ダンディな男性がいい終わると、3人の乗組員は首をひねる。
しばらくして、いかにも戦闘が好きそうな長髪の男性が手を上げた。
「はい!」
「じゃあ、ロック」
ダンディな男性がロックという中年の男を指差す。
「お酒!」
「残念」
ロックが頭を抱えると、近くに座るモデル体型の綺麗な女性が腕を組みながら言う。
「馬鹿ね。なんという実を原料としているか、って言う問題よ」
それを聞いたダンディ男が首をひねる。
「ちょっと違ってきてるぞ・・・で、ナリは?」
ナリと呼ばれたロックの隣に座る色白で大きい瞳をした若い女性(か少女)に問いかける。
ナリはしばらく悩んで答えを出した。
「・・・パスで」
それを聞いた周りの3人は文字通りずっこけてしまった。
気を取り直したダンディ男が咳払いをして、”宇宙クイズ100選”という本を読み直す。
「答えはサツマイモ酒だ」
あ~それか~、と言う声が響く。
「それね、私なんてここまで出てきてたのに」
さっきのモデル体型の女が首のあたりを示す。
「おいおいジュリア、さっきからそればっかじゃないか」
ロックが指摘するとモデル体型の女性ジュリアが顔を赤らめた。
「本当なんだって。次は答えられると思うわよ」
その言葉を聞いたダンディ男が次の問題を出そうと本を読み返すと、突然扉が開いた。
入ってきたのは第21小隊隊長のエクスとその補佐をするベンである。
「あ、お邪魔だったか?」
笑いながらエクスがブリッジを見回す。
「いいや、乗組員クイズ選手権をやってたところだ」
ダンディ男が本をロックに預けながら言った。
「お前達は本当に緊張感がないよな。艦長のお前がそんなんじゃ、納得できるが」
「いやいや、それが我々のモットーさ」
ベンが痛い言葉を言うが、ダンディ男は軽く受け流した。
このダンディ男、<クラッシュ>の艦長のアイザックス・レンである。
「リーナとレインは?」
「2人は参加してません。レインさんは寝るとか言ってましたし、リーナさんのほうは開発がなんたらとか」
ナリがエクスの質問に答える。
しばし温和な空気になったところで、エクスが切り出した。
「そうだアイザックス、一週間以内に<マザーシップ>に帰還してくれないか?」
その言葉にアイザックスは耳を疑った。
いつもなら100日に一度のエネルギー補給以外は、<クラッシュ>が<マザーシップ>に帰還するのを
拒むエクスが進んでSSFの本拠地である<マザーシップ>に帰還してくれないかと言い出したのだ。
耳を疑うのも当然だ。
「珍しいな。理由は何だ?」
「ああ、さすがに戦争も激化して任務も増えてきてるから5人だけでやっていくのに限界を感じているんだ。
せめて1人くらいは新たな入隊者が欲しい。」
エクスはそういい終わって、最後に付け足した。
「若い戦力の」
アイザックスはそれを聞いて納得した。
「分かった。じゃあ、今から進路は<マザー>だな」
アイザックスがそう言うと、ロックとナリが椅子を正面に向け、目の前にあるパネルやらをいじくりだした。
エクスとベンが満足げに出て行くと、アイザックスは一人で考えた。
エクスはつまり若いぴちぴちのルーキーが欲しいというわけだ。
今戦力が欲しいはずなのに、即戦力ではなく将来性のある新人を。
アイザックスは変わった人間だ、と思いながら一人で笑った。

その光景は、他の乗組員が「変わった人間だ」と納得するのに十分だった。



ロイはバイトを終え、帰宅した学校の寮のベッドに横たわっていた。
「ふ~」
手には一枚の紙切れを握っている。
『SSF(宇宙特殊部隊)の新規隊員を募集。試験当日までに申し込み完了してください』
それは”SSF”の入隊試験希望書であり、いたってシンプルな用紙である。
「よっぽど苦労してるんだね」
声がした方にロイは顔を向けると、風呂上りのフィルが立っていた。
「何が苦労してるって?」
ロイが体を起こしながら聞くと、フィルは自分のバックパックを整理しながら話しだした。
「だって普通こういう特殊部隊って試験うけるためにも審査とか試験とかあったり、合格してもしばらく準備期間あるけど、
でもSSFって試験申し込みも無しでぶっつけ試験で、そして成績よければ各分隊から引き抜け受けて即前線なんだよね?」
そのフィルの長い説明たらしい質問を頭の中でロイは処理すると、ゆっくり立ち上がりながら答えた。
「それも含めて”特殊”部隊なんだよ」
ロイからすれば上手く言ったギャグなのだが、フィルは半分真に受けたように目をぱちくりさせる。
「おいおい、冗談だ。多分、兵士を目指すなら軍に入ったほうが地位は高いし、かれこれSSFには噂があってだな・・・」
「噂?」
ロイの言葉に、フィルが俄然食いついてきた。
「ああ、水道に下水が使われていたとか、非常食のハンバーガーの肉がミミズだとか・・・」
「へ~~~」
ここぞとばかりに出した都市伝説をスルーされたロイは肩透かしを食らった。
「たまにはお風呂に入りなよ。イオンパックだけじゃ不潔になるよ」
フィルはそういい残し、とっととベッドにもぐりプライバシーシールドを降ろした。
ロイは慌てて外側からシールドを解除する。
「何?」
フィルは自分が馬鹿にされていると思い込んでいるように、不機嫌なまま振り返った。
「何か?」
ロイは静かに切り出した。
「もし、俺がSSFに行ったら・・・お前どう思う?・・・」
フィルはその質問にしばらく考え込んだ。
そして顔を上げて、ロイの目をはっきりと見てこう言った。
「お父さんにきいてみれば」
ロイはその言葉の意図を探った。
しかし、それはそのまま彼の心に突き刺さったまま動かなかった。



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