遠方からの手紙

記憶とは曖昧なもので



記憶とはつねに曖昧なもので
過去と現在の間ですりつぶされながら
たえずうめき声をあげている
塞がらない傷口は永遠に血を流し
かすかな物音にも肉体はおののき続ける

言葉はすべてまがい物で
訴えかけるものなどはなにもない
巧妙に作られた偽の記憶の陰で
誰かがぺろりと舌を出し
今日もうまく出し抜いてやったと笑っている

いつも見る定型化した夢の中に
真実などあろうはずはなく
仮想世界のような違和を感じながら
平板な書割の中で何事もなく生きている

失われたものを取り返す術はなく
いや、なにを失ったのかすら
すでに定かではない

おのれの叫びで目を覚ませば
両手は誰かの血にまみれており
どこかに埋めた他人の死体が
雨に流された土砂の隙間から
骨だけになりながら呼んでいる

 2007.8.16

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