小夢夢の部屋へようこそ!(○⌒ー⌒○) 

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みたろうっ! (現在民話)


『みたろうっ!』

 いまの九州大学を、九州帝国大学と言ってころ、そこの付属病院で、わたしが体験したその人は、話し初めた。

 ちょうど、私が夏休みに退屈していたとき、友達が九大付属病院の内科に入院したと言うので、私は泊まりがけで看病しにいってやることにした。
 友達はよその県から来ていたので、見舞い客もなく、1人で寝ている所だったから、たいそう喜んでくれた。
 煮炊き、洗濯は間借り生活で慣れていた私は、付き添いのおばさんを、夕方から帰して、友達と話し込めるが、楽しみだった。
私は、まるでキャンプに来た小学生のように、楽しく過ごしていた。
やがて、友達は手術の糸も取れて、2人用の小部屋から、大部屋んい移され<
たが、大部の人達は、みんな気のおけない人達であった。
 ところが、大部屋に入って、何日かすると、私は不思議なことに気がついた。
 夏だから、病室の窓は、開け放している。だが、夜が更けてくるとさすがに冷えてくるので、誰かが閉めることになる。しかし廊下側の窓は開け放しになっている。その窓の開いた廊下を、いつも真夜中の決まった時刻に、通て行く患者がいるのだ。
 初めは便所にでも行くのだろうと思っていたのだが、いったきり、かかなか帰って来ない。いつも、一時間か、それ以上たって戻って来る所を見ると、便所でもなさそうである。真夜中に何をしに行くのだろうと思うと、私はいやに気になりだした。
 この廊下を通るだから、同じ階の患者に違いない。廊下の電球が暗くて、良く見えないのだが、長い髪を肩までたらしたしていて、女か男かよくわからなかった。
 毎晩、時計が一二時をうつころになると、私は気味悪さ半分、じっと廊下をうかがっていた。すると人影は、決まった足音で、廊下を通り、1時間ほど経つとまた、すっと戻ってくる。また今晩も来ると思うと、私は寝れなくなってしまった。
 私はある晩、とうとう、尾行してみる決心をした。いったい、真夜中に、何をしに出掛けて行くのか、確かめないことには、神経衰弱になってしまいそうであった。
 ボーン・ボーンと、時計眠そうに一二時を打ち始めた。それを合図に、いつもの人影が、廊下を通って行くと、私は裸足でベットを降りていった。
 廊下に出て、階段の所へ行ってみると、すぐ下の手すりにかたい手すりをすべらせていく手だけが見えた。
 スリッパを履いているのか、暗い階段に、ペタッペタッと、音がしている。私は足音を立てないように、後をつけた。1階まで降り、左に曲がれば便所である。ところが、スリッパの音は、右に折れた。おやっ、右に行けば運動場ではまいか。私は、ますます不思議になって後をつけた。
 人影は、いつのまにか、裸足になって、月の灯りの中、運動場を1直線につっきって行く。運動場の向こうは高さ3メートルほどの高い塀になっている。行き止まりのはずだが、人影は、長い影を引いて、真っ直ぐ歩いて行く。
 私は、あまりに月が明るいので、見つからないかと、心配であった。だから、前方の影が、いきなり走り出した時はひやりとして、心臓が止まりそうになった。
 でも、私に気づいたからではなかった。次の瞬間、影は、まるで忍者のように、塀の上に飛び上がったのである。
(あっ、夢遊病!)
 私はとっさに思った。普通では、こうも見事に飛び上がれる物でない。度肝抜かれて見ていると、影は、ぱっと、塀の向こうに飛び降りてしまった。
 こうしてはおれない!私は、直ぐ裏門にまわった。幸い、遙か向こうを、小さくなって走って行く、白い人影が見えた。
(いったい、何処に行くのだろう。)
 私は益々、突き止めずにはおかないぞ、という気になった。
 白い影は、暫く線路伝いに走って行った、突然、かき消すよに見えなくなった。私は、慌てて、影の消えた所までは走っていった。そして、きょろきょろと、辺りを探した。探しているうちにも、突然現れそうな不安にかられていた。
その時、思いがけない近さで、ザクザクッ・ザクザクッと、土を掘る音が聞こえた。音のする方見て、私は立ちすくんだ。白い影は、線路脇の墓地の中で、髪を振り乱して、墓を掘っていたのである。病気を治す為に、死体を食うとか、腐った死体から出る透明な液体を飲むとか、話しには聞いていても、作り話しだと思っていた。
 私は、何処を、どう走ったのか、覚えていない。とにかく、病室に逃げ帰って、荒々しい息づかいのまま、毛布を頭から被っていた。
 やがて、ペタッ・ペタッという足音が帰って来るかと思うと、震えが止まらなかった。だが、私は恐いと思いながらも、毛布の隙間から、廊下を覗いていた。
 やがて、ペタッ・ペタッと足音が遠くから聞こえてきた。そして段々こちらへ近づいて来る。早く部屋の前を通り過ぎてくれれば良いと、私は毛布の中で、震えて
いた。
 所が、その足音が、私の部屋の前で止まった。ギーッとドアの開く音がして、中に入って来たような。
 そうーと覗いて見て、私はぞうっとした。髪を振り乱した顔が、ベットをのぞいては、にやりと笑い、また次ぎのベットを覗き込む。もうすぐ私の番になる。私は、毛布を固く握りしめた。
 次の瞬間に、毛布がめくられ、私の顔の上に、耳まで裂けた真っ赤な口が開いた。
「みたろうっ!」 私は、その声を聞いた時、
「ワッ。」
と叫んで気を失ってしまった。
 いや、「ワッ。」と叫んだように覚えているだけである。気がつた時は、病室の人達が、私のまわりを取り囲んでいた。
「まったく、大声で叫んだもんだ。みんなもびっくりし目を覚ましたぞ」
と友達が言った。
 私は直ぐ、その時私の枕元に、髪を振りみだした男が立っていなかったと聞いた。
「誰もおりはせん。夢でも見て驚いただろう」
とみんなは言った。
「いや、夢だ・夢だ」と言われて、私もほんとののことだったのかどうか、わからなくなってしまった。
「夢なんかじゃない。たしかに見たんだ。」
 その人はいつまでも、いってる。


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