花夢島~Flower Dream Island~

花夢島~Flower Dream Island~

Prologue~始動~


そして、此処、聖アルカナ学院では高校2年生になると月に1ヶ月のホームステイをすることになっていた。
 宇宙艇は10人乗りと小型で、一度に10台まで同時に出向できる。俺たちの学年は合計で102人と2人だけ2度目の出向を待つことになる。それに俺と親友である柏木 準は立候補した。10人乗りに10人で乗るよりは2人で乗った方が広々と使えそうだし、あまり騒がしくなるのも好きではなかったからだ。
 やがて、いよいよ月に向かう日が訪れた。俺たち学年は他学年の生徒に見送られながら宇宙港へ向かう。30分ほど歩いて辿り着くと、予め指示されていた番号のついた宇宙艇に各が乗り込んでいった。俺と準は付近のベンチに座り2度目の出向を待つ。大体往復で4時間くらいは掛かると聞かされた憶えがある。だから、俺たちは2人で携帯ゲーム機を使いゲームをしながら時間を潰す事にした。
 そして、凡そ4時間後、宇宙艇が港に戻ってきた。俺たちは先生に別れを告げその宇宙艇に乗り込む。その内部は意外とさっぱりとしていた。5人掛けぐらいの椅子が二つ前後にあり、その椅子のすぐ前にはテーブルのような物が壁から延びていてそこにはボタンが二つ。一つには押すと出発する的な注意書きがあり、もう一つには押すとモニターが現れ外の様子を覗けると注意書きがあった。
 俺たちは昂揚感を覚えながら出発ボタンを押す。すると、宇宙艇が動き始めるのを感じた。
 準がもう一つのボタンを押しながら話し掛けてきた。
「なあ、こんな話知ってるか?」
 モニターから見える景色を楽しみながら準は俺の返事を待たずに話を続けた。
「かつて俺たちと同じように月へのホームステイの為に宇宙艇に乗ったんだ。その時人数の関係かある班は2人だけで行く事になった」
 そして、今みたいな状況だと付け加えた。
「それがどうしたんだ?全部の班が10人になるなんてことは逆に珍しいだろ?」
 入学当時は確かに100名ジャストだったが、止めていく人もいれば転校してくる人もいる。結局は100名を前後するに決まっている。
「確かにそうだが、問題なのは2人と言う事だ。で、その2人が乗った宇宙船は途中までは順調に空路を進んでいたんだが、急にコースが外れてしまったらしい。そして、その2人は宇宙の彼方に消えていき、詳細を知る者は誰もいない」
 詳細を知るものがいないなら事実かどうかもあやふやだが、まあ実際にいなくなったのなら事実なのだろう。
「で、どうして急にその話を?」
 準がどこか楽しそうに口を開く。
「それが、このホームステイに行く時に2人だけで乗り込んだ組は全部行方不明になっているんだ」
 準がそう言った直後、強烈な震動が俺たちを襲った。そして、遥か前方に見えていた月が今は見えなくなっていた。
「ほらな、きっと俺たちもルートから逸れたんだ」
 準は更に昂揚している。どうしてこんな非常事態に落ち着いていられるんだ?
「そういえば、まだ話は途中だったな。その行方不明になった2人はどの組も電波を地球に向けて送っているんだ。何処かの惑星で撮られた画像と一緒に。まあ文の方は幾重ものプロテクトが掛けられていて未だに解読はできていないみたいだけどな」
 つまりは無事にどこかの惑星に着く事はできるのか。とりあえず死の心配は少しだけ薄れた――
「――って、おい!あれブラックホールじゃないか!!??」
 遥か前方にガスが円盤状に渦巻き、その中心部からプラズマがジェットとなって噴出しているのが視認できた。
「……みたい、だな……」
 流石に準も青ざめるを得ないらしい。当然だ。ブラックホールは最も速いとされている光でさえも閉じ込めてしまう謂わば物事のはてとも呼ばれている。そんなものに向かって進んでいったら結末は見えきっている。
「くそッ!どうにか為らないのか!?」
 立ち上がり辺りを見回すが、室内に操縦桿やそういった類は見当たらない。さらには宇宙艇が徐々に加速していく。どうやらブラックホールの勢力圏に入ってしまったのだろう。こうなってしまったらもう諦めるしかない。
「こうなったら僅かな希望だけど、ホワイトホールが実在すると心の中で願うしかないな」
 準も半ば諦めたのか既に焦りは無かった。
「ホワイトホールか……」
 一説ではブラックホールによって吸い込まれた物が出てくる場所があり、それがホワイトホールだとする説がある。しかし、ホワイトホールは現実に見つけられているわけじゃないし実在する確率はかなり低いだろう。しかし、今はそんなものにでも縋るしかない状況だ。
 俺は目を瞑り、ただ願い続けた。ホワイトホールの存在を……

 そして、俺たちを乗せた宇宙艇はブラックホールの中へと吸い込まれていった。

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: