「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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花夢島~Flower Dream Island~
2~繋がり~
欠伸をしながら上半身を起こす。そして、見知らぬ光景が眼前に飛び込んできて戸惑う。
「あ、そっか。昨日から天風家にご厄介になってるんだっけ」
寝惚けた頭に鞭ち記憶を闡明にしていく。
俺はベッドから降りて机の横に置いてあった自分のバッグを開け、服を取り出し着替える。ホームステイの期間が1ヶ月の予定だったからある程度の物はあるけど、さすがに服はこれだけじゃなぁ……
向こうで洗濯して着回すつもりだったので上下ともに5着しか持って来ていない。
「落ち着いたら買いに行けばいいか」
別に誰もいない孤島に放たれた訳じゃないんだし問題はないか。今度店の場所でも聞いておこう。
そう思いながらリビングへと向かうと、テーブルの上にはラップに包まれたご飯とメモがおいてあった。当然2人の姿はリビングにはない。
『学校に行ってきます。朝食は作っておいたのでレンジであっためて食べてください。麻衣と芽衣より』
俺は時間と日日を確認する。7月16日、月曜日。時間は9時を少し回ったところだった。
「そうか、まだ夏休みに入ってないのか」
呟いてから朝食をレンジに入れてスイッチを押す。それをジーっと見ていると、ある1つの疑問が浮かんだ。
「あれ、てゆーと2人が帰ってくるまで家に1人なの……?」
昨日聞いた話だと2人はここで2人だけで暮らしてるらしいから親はくる事はないだろう。いや、逆にいられたほうが気まずくなりそうだけど……
しかし、1人でいるのは構わないにしても何してようか。こんな事なら本か何か持ってきとくんだったなぁ。
せめて外出くらいはできればいいんだけどこの家の鍵持ってないし――
「――やっぱり部屋でおとなしくしてようかな」
そろそろいいだろうと思いレンジを止めながら呟いた。なんだか絆されてる気分になってきたなぁ。
そんなことを思いながら朝食を戴き俺は部屋に避退するように戻った。
「さて、何をするかっ」
部屋に戻って第一声。やることがない為部屋の真中で立ち竦む。ここが自分の部屋ならば本もたくさんあるしゲームとかもできるのだが、この部屋にはそれらがまるで何もない。かくなる上は――
「――寝るっ!!」
俺はカーテンをズバッと閉めてベッドに潜り込む。カーテンの隙間から日が差し込んで薄明るいが気にしないで寝る事にしよう。
俺は目を瞑り襲ってくる睡魔を待ち続け、徐々に鮮明になってきた微睡みに身を委ねて夢の世界へとトリップしていった。
どれくらい寝ていたのか分からないが、徐々に意識が体に戻ってきた。まだ瞼が重くて上げられないが意識は鮮明としていく、そして部屋に人の気配を感じる。麻衣さんか芽衣さんが帰ってきたんだろう。
体を起こすのも面倒だったので体を横に向けて目を開けてみる。すると視界に入るのは最終解放寸前まで開け放たれた俺のバッグとタンスとクローゼットを往復する2人の姿。どうやら俺の衣服を移してくれているらしい。別にそんなこともしなくてもいいのに……
しかしどうせならやってもらおうという怠惰の心理が働き俺はその作業が終わるまで薄目でその光景を見ていることにした。まあ見ていると言っても少ししかないので直ぐに終わったが……
俺はさも今起きたかのように上半身を起こす。
「あれ、どうしたの?2人とも」
そしてどうしてここにいるのか分からないといった顔を作る。ポーカーフェイスとやらが苦手だったからばれてるかもしれないけど……
「あ、その、湊くんの身の回りの物を整頓しておこうと思いまして」
それで手始めに服を仕舞ってたわけか。
「ううん、手始めじゃないよ。ホラ」
芽衣さんが両手を広げて周りを見回すように指示する。
「えーと、物が増えてるね」
タンスの上に俺の目線の高さぐらいの本棚が置かれており、更に何インチかは知らないがリビングに置いても違和感のなさそうな大きさのテレビが台に置かれ、その正面にはソファが置かれていた。そしてソファの前にはテーブルも設置されている。
「はい。どれもあまっていたものですけど……」
「いや、ありがとう。凄い嬉しいよ」
これらを運ぶのは大変だっただろう。特に本とかは一度出してからまた本棚に戻さなければならないだろう。きっとかなりの時間を費やしたに違いない。居候の身なのになんだか非常に申し訳ないな……
「でも、大変だったろ?どうしてそんなことまでしてくれるんだ?」
改めて考え直せばこの2人の行動はよくわからない。俺を受け入れてくれた事は分かったが、それでもここまでしてくれるなんて……
「だって、ここで暮らすんだからこれくらいの家具とかはないと私たちが酷いみたいじゃない」
わざと頬を膨らませる芽衣さん。そんな仕草もあどけなくて可愛いな。
「いや、それでも言ってくれれば俺だって手伝う事はできたと思うんだけど」
「起こそうとしましたけど、湊くん全然起きないから……」
麻衣さんに暴露されて自分の情けなさにショックを受けた。ちょっと誰かロープを持って来てくれ……
「ロープならありますよ」
いつのまにか麻衣さんが両手にロープを持っている。しかも漫画とかで見られる首吊り自殺とかに使われてるロープにそっくりだ。
「いや、本当に出されても困るんだけど……」
「……残念」
何か麻衣さんが小さく呟いた気がした。何を言ったかまでは分からなかったけど。
「何か言った?」
「いえ、何も」
気のせいだったらしい。
「あ、そうだ。湊くん、まだこの町のどこになにがあるかとか全然知らないでしょ?今から案内してあげようか?」
俺が頼もうとしていた事を芽衣さんが訊いてくれた。当然俺は即お願いをする。
「決まりだね、お姉ちゃんはどうする?」
「私はやらなきゃならないことがあるから……ゴメンなさい……」
なんかしゅんとして小さくなっている。こういう姿見てると麻衣さんの方が妹に見えなくもないかもな。まあ芽衣さんの身長がもう少しあれば、の話だろうけど。
「そっか、じゃあ私が責任を持って湊くんを案内してくるよ。と言う訳で準備しててね」
そう言って姉妹そろって部屋から撤退していったのを確認した後準備を始める。まあ準備と言っても財布をポケットに詰め込んで上着を着るだけと言うお手軽なものだが……
リビングにでも出ていようかと思ったが、準備しててと言う事は芽衣さんはここに来るだろうから部屋で待つことにした。
そして、程なくして芽衣さんがやってきた。どんな服かと思えば意外と普通でなぜか安心した。どうやら昨日の服は本当に麻衣さんの差し金だったんだろうな。
「じゃあ、行こうかっ」
芽衣さんの差し出した手を握って俺たちは外へと向かった。
家を出たあと芽衣さんの案内で駅前に出たあと本屋やCDショップ、スーパーやコンビニ等色々店の場所やその特徴について教えてくれた。そして、服が欲しいという俺の希望を叶える為俺たちは服屋にやってきた。
「結構でかいんだな」
服しか売ってないみたいだが、それでも結構な広さがある。そこらのスーパーとかよりはよっぽどだ。しかも2階建てときた。近くにこんな店があるとは便利な物だ。
「それでどんな服を買うの?」
芽衣さんが訊いてくる。しかしどんなと言われても見てみないことには何とも。
「取り敢えずはTシャツとかジーパンとかジャケットとかかな」
なんと言うかこの3つは男性私服の基本セットだと思う。デフォルトだな、デフォルト。
「じゃあ、こんなのはどうかな」
芽衣さんがどこからか薄手の生地のジャケットを持っている。デザインもよいが、一つだけ問題があった。
「いや、さすがに俺にピンクは似合わないと思うんだけど……」
それはそのジャケットの色が鮮やかな薄ピンクをしていたことだ。
「えー、そんなことないよー。絶対似合うって」
そういい強制的に買い物篭の中に導入している。どうやら拒否権はないらしい。
「まあ、そんなに言うなら着てみようかな」
開き直る事にして、その後も芽衣さんのセンスに任せながら何着か服を購入した。
「じゃあ、湊くんはここで待ってて。私も色々買ってくるから」
そう言い、芽衣さんが駆けて行く。そんな後姿を見ていると本当に同い年とは思えなくなる。小さな子どもが無邪気に走り回るような、そんな感じかな。
俺は言いつけ通りにそこで芽衣さんが戻ってくるのを待つ。結構掛かると思っていたが、若干10分くらいで芽衣さんは戻ってきた。
「速かったね」
俺の前まで戻ってきた芽衣さんに話しかける。その手には少し大きめの紙袋が吊られている。服でも買ったのだろう、別に訊く必要もないだろうしいいか。
紙袋のことは気にしないことにして、俺は外に出るよう促す。芽衣さんも頷き俺たちは店の外に出た。
「この後はどうする?」
俺はケータイを開き時間を確認しながら聞く。15時。歩きつかれてきたしどこかに腰を落ち着かせたくなってきた。
「んーと、そろそろ疲れてきた頃だと思うし近くに喫茶店があるからそこいこっか」
そして、有無を言わさずに俺の手を引いてその喫茶店へと向かった。まあ歩いて5分と掛からなかったが……
俺たちは中に入ると芽衣さんの案内で奥の席に座る。どうやらこの席がお気に入りらしい。メニューを頼むとそれがすぐにきた。
「この喫茶店はね、私のお気に入りなんだ。内装も綺麗だし、落ち着いてて」
確かに客の話し声なども聞こえはするが全然煩いとは思わないな。何かそう言う特殊な雰囲気が場を満たしていると言うか取り敢えず居心地が凄くよい。
「確かになんか気持ちが落ち着く気がするね」
素直な感想を述べる。それを聞いて芽衣さんは喜んでくれた。
「自分が好きな場所を他の人にも気に入って貰えると何か嬉しいよね」
確かにそうだろう。その気持ちは理解できる。俺の場合は準と一緒にいる場所すべてだったが。
俺は適当に言葉を返しながらコーヒーを飲む。それはほろ苦くてとても美味しかった。
「そういえばさ、湊くんって私たちのこと今さんづけで呼んでるよね」
脈絡無しに急に芽衣さんが切り出してきた。
「え、うん。そうだけど?」
それに何か問題でもあるのだろうか。
「一緒の家に暮らしてるんだから、さんづけはやめて欲しいなぁ、どこか余所余所しい気もするし」
そう言われてもどうすればいいのだろう。他にいい呼び方なんて特に思いつかない。
「だからさ、私たちのことは呼び捨てでいいよっ。その方が親近感も涌くだろうし、そう呼んでくれたほうが嬉しいかな」
「あんまり気が進まない気もするけど、2人が望むならそうさせてもらうよ」 助けてもらったうえ、居候までさせてくれてるのだからそれくらいは別に問題はない。
「でも、だったら俺も呼び捨てでいいよ」
芽衣のいう親近感がわく、という理由で自分たちを呼び捨てにさせるなら、俺もそうすべきだろう。そう思い、俺も提案をしてみる。
その俺の案に芽衣は喜んで頷いてくれた。
その後家に戻ると、やけにニヤニヤとした麻衣が出迎えてくれた。あー、やっぱり麻衣さんを呼び捨てはさすがに無理かな。違和感ありすぎ……
「お姉ちゃん、どうしてそんな嬉しそうな顔してるの?」
芽衣にも理由は分からないらしい。俺たちが出かけてる間に一体何があったのか、とてつもなく気になり始めたな。
「いえ、湊くんの服のサイズが今日分かったので注文をしてきたので、それで」
一体何を注文したのかとても気になったが、追及したら何か恐ろしい答えが返ってくる気がする……
俺が硬直していると代わりに芽衣が訊ねていた。
「わざわざ注文なんてしなくても近くに服屋あるのに」
今日行ってきたところのことだろう。でも確かに注文などしなくてもあのお店で大抵の服は買えそうな気もするが。
「ううん、普通の服屋じゃ買えない服ですから♪」
甚だ怪しい。なんなんだろうか、普通の店では変えないような服って……
俺がそれがなんなのか思考巡らせると、俺がここに来てから見た光景の中で一つだけ思い当たる節があった。
それを確認しようと芽衣の方を見てみる。芽衣はまだ何か分かっていないようで困惑の色を顔に浮かべている。
俺は飛躍した妄想を振り払う。そうだ、わざわざ俺にあんな服を買うはずがないじゃないか。何を考えてるんだ、俺は。
俺は雑念を完全に消し去ると、部屋に戻り、今日買った物を整理する。まあ整理と言ってもクローゼットに掛けたりタンスに入れたりとそれだけだが。
その作業も終え、俺はすることもなく布団に腰掛ける。しかし、直に立ち上がる。
「やることもないし、本でも読むか」
意味もなく自分に言い聞かせて本棚の前に立つ。本の種類は漫画や小説なども多多あったが、その中でもやはり天文学に関係する本が目立つ。俺はそれらのタイトルに一通り目を通してから、気になる本を一冊取り出し、ページをめくる。
パラパラと何枚か捲っていると、気になる項目を見つけて手を止める。そこには、俺がここにきた日に麻衣さんから聞いた、確か、左右対称説とやらに関することが図と共に記されていた。
内容は麻衣さんが話してくれた通りのことがそのページには記されている。俺はページを捲り次を見る。そのページにはその説の発案者の見解が記されていた。やたらと難しい言葉の羅列。理解できる部分はかなり少なかったが、ある一文だけが俺の心を射抜く。
『この現象で別世界に移行した物質は二度とは戻る事はできない』
その後にその考えを裏付ける為の何かが書かれているが、そこは理解する事ができなかった。
本を本棚に戻しベッドに横たわる。あの本に書いてある事が本当だとは限らない。しかし、本当のことが書かれていることも事実だ。なら、信憑性は低くはない。でも、そうだとしたら俺はもう戻る事はできないと言う事になる……
正直、ここにいるのも悪くない気もしている。まだ1日も経っていないけど、麻衣さんや芽衣と一緒に過してとても楽しいと思った。だけど、やっぱり皆とまた会いたいという気持ちもある。
結局その日は俺の中で答えが出ることはなかった。
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