花夢島~Flower Dream Island~

花夢島~Flower Dream Island~

4~歓迎懇親会~


 そう言って家に入る。最初はインターホンを鳴らして何度か怒られたこともあったなぁ。今でも油断すれば押してしまいそうな気もするが……
 俺は部屋に戻りそのままベッドに倒れこむ。今日は何か疲れたし、そのまま眠ってしまいたかったが、直に部屋の扉が開き2人が入ってきた。
「ねぇねぇ、湊っ。試験どうだった?」
「試験どうでしたか?」
 そして、第一声イキナリ結果を訊かれた。まあ気になるのも当然か。 
「うん、大丈夫。受かったよ」
 そう言って合格証を見せる。そして、ついでに麻衣さんに封筒を渡す。
「何か悔しいなー。私があんなに苦労して入ったのに湊、簡単に受かっちゃうんだもん……」
 何か拗ねてるし。
「あ、湊さん、進学学科への編入許可がおりてますけど、どうします?」
 俺が進学学科に入るだけの学力があったことに多少驚いたが、当然答えは決まっている。
「いや、普通の方でいいよ。できるだけ2人の手伝いとかもしたいし」
 理由はもう一々述べる必要もあるまい。
「うぅ、どうして家には頭の偉い人ばっかり集まるんだろう……私だけ仲間はずれにされてるみたいな……」
 何か崩れてるし。
「じゃあ私は手続き済ませてきますね」
 そう言って部屋を出て行こうとする麻衣さん。俺は麻衣さんの後を追うように立ち上がりながら言葉を投げる。
「じゃあ俺も行くよ。俺の編入手続きなんだし」
 しかし、一歩足を踏み出した所で麻衣さんの言葉が返ってきて俺をそこに留まらせた。
「いいですよ、別に。それに湊くんには他にやってもらうことがありますから」
 何を、と訊こうとしたが、すべきことはすぐに分かった。麻衣さんの視線は床に崩れている芽衣に向けられていたからだ。さすがに芽衣のあれはわざとだと思うが、きっと麻衣さんにも何か考えがあるんだろう、俺はそこに残る事にした。
「で、芽衣はいつまで崩れてるんだ?」
 麻衣さんが去った後芽衣に言う。
「んー、私の心の傷が治るまでー」
「いや、どう見ても傷なんて負ってるように見えないから」
 俺がそう言うと漸く起き上がる。
「そんなわけで湊が如何してそんなに偉いのか教えてもらおうか」
 あー、やっぱり少しは気にしてんのかなぁ……
「しかし、如何してって言われてもなぁ」
「湊はさ、前の家では休日とか何してたの?」
 なんだ、それは。俺ががり勉だと言いたいのか?
「なるべく家に居たくなかったから朝からずっと出かけてた。だから家で勉強なんてしたことないよ」   
 少々厭味っぽくなってしまったと思ったが、突っ込まれた場所はそこではなかった。
「家に居たくなかったってどういうこと?」
 失言だったかなぁ。言う必要もなかったことだし俺も思い出したくなかったし。もう思い出してきたから遅いけど。
「俺、実は中学の頃に両親2人とも亡くしてるんだ……」
 このことを思い出すと今でも少し気が沈む。まあ高校に入ってから知り合った準のおかげで大分救われたのだが。
「そっか……私たちと一緒だね」
「え?」
 驚く。確かにここに来てから親のことが一回も話題に上がらなかったのは可笑しいと思ってたけど。
「私が今の学院に入学してここに引っ越してきてからすぐのこと」
 平穏を装ってはいるがやはり少しだけ辛いのだろう。その翳は隠せてはいなかった。
 これ以上この話を続けても重くなるだけだろう。俺は話を中断する。
「うん、そうだね。もっと明るい話題にしよっ、明るい話題」
 その後、俺たちは他愛もない徒話をしながら時間を潰す。そして、時計の針が5時を回ったところでさすがに麻衣さんの帰りが遅い事に疑問を抱き始める。
「そういえば、麻衣さん遅くないか?」
 あれから既に2時間以上は立っている。幾らなんでも遅すぎるとは思う。
「うん……、どうしたんだろう、お姉ちゃん……」
 芽衣も不安になり始めたのか少し顔色が冴えなくなってきている。
「ちょっと俺近くを探してみるよ」
 俺は芽衣の返事を待たずに部屋を飛び出し家も出る。俺は駅前の方に出てみることにした。  


 駅前の至る所を探したが、麻衣さんは見つからなかった。どうせなら麻衣さんにもアドレス聞いておけばよかったな。
 今度は学校の方を探してみようと地面を踏締めたとき、携帯が鳴った。俺は携帯を取り出しディスプレイを見る。芽衣からの電話だった。
『もしもし』
『あ、湊。お姉ちゃん帰ってきたから戻ってきていいよ』
 芽衣はそれだけ言うと直に電話を切った。
「俺の苦労は何だったんだろ……」
 別にぼやくほど苦労もしてないが――ってそういえば、芽衣が麻衣さんに電話すればそれで済んだ話じゃないか!どうして気付かなかったんだろう……
 俺は自分の頭に呆れながらのんびり家への帰路を歩んだ。
 そして、俺は家に入ると真っ先にリビングに向かう。俺がリビングの扉を開くと、いきなりパーンとクラッカーの音が四連鎖する。
「ッ!?」
 突然のその音に驚き、目の前の光景に頭が着いていかない。
「えと、これは……?」
「湊の合格祝いだよ。歓迎会も兼ねた、ね」
 俺の質問に芽衣が答えてくれた。いや、そんなことはリビングに張られているあの垂幕で分かる。だけどどうしてこんなことを?
 俺の困惑の意図を汲んだのか、麻衣さんが俺にそっと説明してくれた。
「湊くんが家に来てから芽衣ちゃんと湊くんの歓迎会開きたいって話をしていたんですけど、どうせなら湊くんの編入試験合格祝いも一緒にやってしまおうと言う事で――」
「いやいや、別にそんな気を使わなくてもいいし、そもそも俺が受かること前提だったのかよ……」
 まあ実際にこうして受かってるわけだけど。
「そんなわけで、湊くん、おめでとうございます。そして、ようこそ、我が家へ」
「ようこそー」
 芽衣も俺に歓迎の言葉を言ってくれた。俺は申し訳なく思いもしたが、2人の厚意を受け止め、感謝する事にした。
「ありがとう、二人とも」
 心からの正直な気持ちを口に出す。関係ないが本当に嬉しい時は自然と語彙が普段よりも貧困になると思った。例えば料理を食べた時においしいとしか言えないようなものだ。……本当に関係ないことだなぁ。
「じゃあ早速この場をさらに楽しくする為のサプライズを呼んでくるね!」
 そしてリビングから出て行く芽衣。それよか、サプライズって俺にとってはこの会自体が既にサプライズなんだが、今更どんなサプライズが来ても愕かないぞ。
 そう思っていたのだが、そこに現れた人物のおかげで更に愕く羽目になった。
「なっ、どうしてあなたがここに!!?」
 俺が愕くより先に現れた2人の内の1人に先に愕かれた。
「俺もどうして君たちがここにいるのか知りたいんだけど」
 いや、少し考えれば分かる事だ。この2人はきっと芽衣達と中がいいんだろう。そして芽衣か麻衣さんが今日行う事を言わずにここに招いた。そんなところだろうか。
「私たちは芽衣さんにここに来るように言われたからですけど――あなたはどうしてここに?」
 ……どうすべきかなー。いや、どうすべきかってここに住んでること言うしかないんだけど。
「えと、まあ色々な複雑な事象が重なり合ってその結果この家に住まわせてもらってるから――かな」
 俺がそう言った直後皇木さんが硬直する。緑川さんはさっきから微笑んだままだからきっと既に事情を聞かされているのだろう。つまりは芽衣の言うサプライズは皇木さんにとってもサプライズも兼ねてる訳なんだな、きっと。
「なっ、麻衣さん、芽衣さん!?本当ですの!この方が言ったことは!!」
 今度は2人に確認に掛かった。
「うん、本当だよ」
 芽衣が一言で答える。そして、その言葉に麻衣さんが首を縦に振り肯定する。
「なっ!?」
 信じられないと言った風に目を丸くする。まあそれが普通の反応だろうな。
 皇木さんが2人に何かを言おうとした所で緑川さんが皇木さんに何か耳打ちした。
 そして、何故か納得したような顔になる。一体緑川さんは何を言ったんだろう……いや、緑川さんに何か吹き込んだのは麻衣さんの気がしてならないな。麻衣さんのあの妖しい笑みを見てるとそうとしか思えなくなるな。夜にでも確認して見るかな。
 そんな感じで緑川さんと皇木さんを交えた合格祝い兼歓迎会(と称した宴会)は幕を開けた。
 暫く会話をしながら晩餐を食していると、緑川さんが唐突にこんな事を言ってきた。
「ねえ、周防院くん。今私のこと名字で呼んでますよね?」
「え、うん。そうだけど、それがどうしたの?」
 何か前もこんな感じで話を振られたことあったような……
「できれば名前で呼んでほしいのです~。名前で呼んでもらった方が近しい感じがしませんか?」
 やっぱりこの話題か……前にも同じ様な理由で芽衣にも名前で呼ぶように強いられたよな……。まあ名前で呼んでもらった方が嬉しいのは分からなくも無いけど。名前はその人だけの物だしな。
「俺のことも名前で呼んでくれるなら構わないかな」
「はいっ、分かりましたのですよ、湊さん」
 早速緑川さんが俺を名前で呼ぶ。
「じゃあ、改めてよろしくな、亞姫菜さん」
 そして、俺はこの際だと思って皇木さんにもその提案を投げかけてみる。
「ま、まああなたなら別に構いませんわ。宜しくてよ、名前で呼んでも」
「じゃあ遠慮なく名前で呼ばさせてもらうことにするよ、明緋さん」
 俺がそう言うと明緋さんは一瞬ビクッとした。やっぱり名前で呼ばれることに慣れてないのかな。何かそんなイメージがある。男子とかから明緋様とか言われてそうだし――ってあれ?てことは名前で呼ばれることに慣れてないんじゃなくてさんづけに慣れてないのか?でも名字のときは平気だったし……
 正直明緋さんの行動言動は段々よく分からない域に達してきている。まあ一々気にしてたら頭がオーバーヒートを起こしそうなので気にしない事にしよう。
 そうしてその後もそんな感じで親睦を深めながらその懇親会は幕を閉じていった。 

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: