~序章~



とても長い廊下の向こうに、不気味な建物が建っている。

廊下・・と言うよりは通路と言った方が近いだろう。

壁はなく屋根があり、歩道はコンクリートで固めてある。

三日月が昇り始めた頃、まだ暗闇と言うには早い時間。

右からは蛙の鳴き声が、左からは虫の金切り声が聞こえる。

もう、半ばあたりまで歩いただろうか。

ふと目の前を、1匹のモンシロチョウが通りかかった。

黒色の背景に、対照的な白。

さらに、月明かりに照らされて神秘的な感じをかもし出す。

普段は虫の嫌いな彼女も、そのときばかりは見とれていた。

しかしすぐ我に返り、足を前に出す。

今は、そんな事をしている場合ではない。

コツコツコツ・・・・・

一定のリズムと音が、コンクリートをとても冷たいもののような感じにさせる。

彼女が扉の前で立ち止まると、見たまんまの不気味な雰囲気が漂っていた。

コンコン・・・・・

戸を叩く音が暗闇の中に消えていく。

コンコン・・・・・

返事が無い・・。

居ないのだろうか??

しかし、ここまで来て帰る訳にもいかないので、入るしかないと思った。

鍵は・・・かかっていないみたいだ。

ギィ~。。。

目の前には暗闇が広がっていた。

他のものは、何も分からなかった。

バタン。。。

「あのぉ~・・。」

弱々しい声が部屋中を駆け巡る。

・・・また静寂が訪れた。

人の気配が全くしない。

やっぱり居ないのか・・そう思ったとき、

「あぁ、君か。」

と、後ろから男の声がした。

予想外な出来事に彼女は「ひっ!!」と、軽く悲鳴をあげてしまった。

「おっと、驚かせてしまったようだね。すまなかった。

しかし、自分はこういう暗い部屋が好きでね。」

明かりを点けつつ淡々と言う。少し白髪交じりの年配の男性。

と、そんな事はどうでも良く、周りには気味の悪い物がずらりと並んでいる。

彼女はこの空間に、この男の気味悪さに、今すぐにでも逃げ出したかった。

だが、自分にはやる事がある。さっさと終わらせなければ。

「”例のもの”を逃がしてしまったのことです。そしてあれも動き出した模様で・・・」

「そうか、伝達ご苦労であった。それよりも、一杯どうだ??」

男は、気味の悪い笑みを浮かべている。何から何まで気味が悪い。

「いえ・・。遠慮しておきます。」

「そうか、残念だな。では、上の者にこれを持って行ってくれるかね?」

と、ごく普通の封筒が渡された。何か入ってるみたいだ。

「どうしたのかね?」

どうやら封筒の中身に夢中になってボ~っとしていたらしい。

「いえ・・何でもありません。責任持ってお渡しいたします。では・・」

「気をつけるんだぞ?」

「はい、ありがとうございます。」

彼女は踵を返し、もと来た暗闇の中を颯爽と駆け抜けていった。

「まったく、戸ぐらい閉めて行ったらどうだ・・」

男は高そうな、でもちょっと奇妙な皮の椅子にどっかりと座って眉間にしわを寄せた。

「思ったより早かったな。早く”例のもの”を何とかしなければ・・。」

独り言をポツリと呟くと、落ち着きを取り戻すためタバコに火をつける。

気持ちとは裏腹に、外はまだうるさいと思うほどに賑やかだった。


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