だだもれ堂筆記
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普段スニーカーかビルケン系サンダルしか履かない私にとっては、普通のパンプスですら窮屈で靴擦れや爪の食い込みのため流血の事態となる。ハイヒールは恐ろしくて履けない。見ただけで足がすくむし、歩けばおそらく3分後には捻挫で退場となるだろう。化粧とパンストとヒールの靴は天敵である。以前購入した『肉麻図譜』は、サブタイトルに「中国春画論序説」とある。中国の全然やらしく見えない春画を論じた本だが、その中で纏足について触れている。ところで纏足ってのは幼児期からやるのである。理想は10センチ足らず(「三寸金蓮」)、現実には10数センチ。女性はみんな纏足していたかというとそうでもない。纏足は中国全土で見られたものの、長江以北の漢民族居住地域が特に盛んで、南方や少数民族の間では纏足はそれほど一般的ではなかった。纏足の足では働けないので、下層民や農民などの女性も纏足していなかった(纏足していない足は「天足」といい、良家への輿入れは不可能だった)。纏足できるのは中流以上の働く必要のない階級の女性ということになる。昔の世界紀行番組で見た下唇に穴を開けて円盤をはめるとか首を伸ばすとか、そういうのに共通する肉体改造であるが、実態は結構エグい。足全体を均等に小さくするのではなく、足の親指を残し他の指は全て足裏側にきつく曲げて布で縛り上げ、固定する。足指を曲げるだけでなく、足の甲の骨も曲げて土踏まず部分を深くくぼませる。出来上がるまで数年かかって纏足した足は原形を留めない。恐ろしく無理な形にゆがんだ足は傷付きやすい。布でぐるぐる巻きにし、纏足用の小さな靴を履くのだが、死ぬまでずっと何日かに1回は布を解いて足を洗い、消毒したりしなくてはならない。さもなくば傷が膿んだり耐え難い臭気を発したりする。暑い日に1日靴を履きっ放しで夜靴下を脱いだ時の香りの事を考えると、数日に1度って確かに臭いそうだ。が、中国人はこの臭いを愛したらしい。纏足プレイは、男性にとってはたまらないものだったというのだから足フェチの極みかもしれない。女性が人前で裸足になることは決してなかったというが、それは裸体同様足、とりわけ纏足を施された足が性的な対象だったからである。纏足プレイにはさまざまなバリエーションがある。巻きつけた布を解いて足を洗ってやるプレイや靴に酒盃を入れて飲むプレイ、臭いを嗅ぐ、しゃぶる、舐める、噛む、纏足を口にすっぽり含む、握るなどの各プレイ、更には纏足の足指の間や異常に深くくぼんだ土踏まずに入れた干し葡萄などの食べ物を舌ですくい取って食べるプレイだとか、纏足で挟んで上下に擦る手淫ならぬ足淫プレイ、更には纏足の両足を合わせ、深くくぼんだ土踏まず部分を穴に見立てて行うプレイなんてのもあった。最後の2つなんて、楽しいのは男だけじゃねえか(怒以前中国を深く知る友人とのやり取りで、中国人というのは自然そのままをありのままに愛でるのではなく、必ずやどこかに人工的なものを付加しないと美しいと感じないのではないか、という話が出たことがある。そのままでも美しい山の頂にいきなり亭を作ってみたり、風景の中にでかでかとその地の名前を彫りこんだばかでかい石碑をおったててみたり、いちいち人の手が加わらないと気が済まないように思われる、と。纏足は人体の加工であるが、それに淫する(肉麻)中国人のeroticismも結局は自然そのままよりも人工物を好む民族性に由来するのだろうか、などと思う春の夜であった。
2008.02.26
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