Last Esperanzars

Last Esperanzars

プロローグ 崩壊の序章



 ――ココハ、ドコダ――

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

 ――オレハ、ナニヲシテイル――

「っは、くそっいったいなにが……!」

 ――ナンダ、コノテハ――

「あ、ああぁ……」

 ――ナンダ、コノ――

 ――コノキカイノテハッ!!

「うわああぁぁぁ!!」

『……ずき、一機なのか!? どうした、なにがあった!」
 はっ、とその声に引き寄せられ現実に帰る。
 狭く薄暗い箱の中で、1人シートのようなものに座っていた。
 目の前には青いガラス玉のようなものが埋まっている。
 手はもちろん機械ではない。
 ――そうだ、確か、マリーにそそのかされて俺は……。
『どうした、返事をしろ! おい、一機!!』
 また声がした。声のほうを向くと四角いマイク状のものが壁についている。通信機のようだ。
「……ああ、ヘレナか? 大丈夫だ、どこも悪くない」
 自分が発した言葉で、相手を知る。
 ――ヘレナ、そうだ。俺がこの世界に来たときに最初に発見してくれた……。
「……この、世界?」
 ――なんだそりゃ。世界にこのもあのもあって……
『……おい一機! 黙ってないで何とか言え!! なぜそれに乗っている!!』
『えへへへへ……隊長すみません』
『! やはりお前かっ! だからあれほど触るなと……』
 二人の言い争いで、思考が邪魔される。どうやら記憶が錯乱しているようだ。
 ――えっと、俺は、誰だ? ここは……。
『隊長、そんなケンカしてる場合じゃありませんよ! レイズを見てください!』
『なんだ今度は!? ……うっ!』
 新たに通信に入ってきた若い男の声に従い自分も目の前の球体――これがレイズだろう――を見る。
 その中には中心の赤い点――おそらくこれが自分――に50くらいの黄色い点が近づいてきているのが描かれていた。たぶんこれは敵だ。
『くぅ……一機、早く逃げろ! すぐそっちに行く!』
『待ってください! そいつは足が遅いんです。この距離じゃとても間に合いません!!』
『なに!? じゃあどうすれば……』
『任せてください。手はあります。……一機、そいつの大砲であいつら蹴散らして!!』
『な……』
『ええっ!?』
「…………」
 女性の驚きのあまり絶句した声を、男は驚愕した声を出したが、指名された本人は驚かず何も言わなかった。ある程度予想がついたから、じゃない。
『ば、馬鹿を言うなっ! 乗ったばかりの人間にMNが操れるものか!!』
『そ、そうだお前何わけわからないことを……』
『うるさい、ハンス。どうせ隊長とあんただけでこの数どうにかできないでしょ。ここはこいつに任せるしかないのよ』
『し、しかし……』
『よく聞いて、一機。そいつの動かし方はね』
「……いい。わかる」
『……え?』
 そう。驚かなかったのは、ある程度予想がついたからじゃない。
 それどころじゃなかったからだ。
「転身、開始……!」
 フッ、と視界が揺れたかと思うと、箱の中から一転荒野に立たされる。
 手はさっきのように鋼鉄に。そう、これはこの機体の視界だ。
 20mになった身長も、突然増えた体重も、背中の巨大な大砲と80発の砲弾の重みも、鉄の皮膚にあたる風の暑さも伝わる。
 当然、近づいてくる17mもある1つ目の鋼鉄巨人たちも見える。
「砲身、接続……!」
 その声に従い、背中にあるこの巨体をも越す長い大砲が機械音とともに動き出す。
 まず後ろに下がり、バックパックを越えた後右により、肩を越えたあたりで45度下を向き、そのままわきの下へ入る。
 わきの下で固定し、標的に向かって構える。
 ――原理は昔の銃の変形だ。いったん撃ったらハンマーを引いて、薬莢を捨てたら次弾装填を確認してトリガーを引く。
「……フン。なんでこんなことがわかるんだか」
 そうだ。わかるのだ。
 さっきからそうだ。自然に脳みその中に刷り込まれる。どう動かすのか。これが何なのか。
「ターゲット、インサイト……」
 敵の1体に標準を向ける。目視だが大丈夫。必ず当たる。
「喰らえ……サジタリウスの46cm(フォーティシックス)を……撃てぇ!!」
 ブォォン!!
「ぐ……!」
 発射の衝撃がこちらにまできた。ビリビリと腕が痛くなり爆風が身を焦がす。
 痛みにふるえている間に超高速で弾が飛んでいく。至近距離だったので、撃ったかと思えば命中した。
 ズガァァン!!
 轟音が鳴り響き、発射時の爆風とは比べ物にならない炎が着弾した敵を包み、粉砕する。
 あまりの爆発だったので、まわりの機体も吹っ飛んだ。
 ガシャン! とハンマーを下げる。
「次!!」
 言われるまでもなく次弾がマシンガンと同じくベルトコンベア式で装填された。追うかのようにトリガーを引く。
 ブォォン!!
 また爆音、そして爆発。
 敵は何が起こったのかわからず慌てふためいている。機体を見て解るのが何とも滑稽だった。
 ズガァァン!!
 また爆発。あるものは木っ端微塵になり、またあるものは天高く飛び上がった。
『す、すごい……』
 とてつもない威力に、発案した本人も言葉を失っている。
「は、はは……」
 唇を無性になめ回す。
 そのすさまじい光景を見て、
 的場 一機は、心の中の何かが潤っていくのを感じていた。
 胸ポケットに入れた手のひら大の宝石が、ほの暗く光っているなど気付かずに。



 的場 一機とは何者なのか。
 この世界は何なのか。
 あの鋼鉄の巨人は何なのか。
 それは、これから語られる――



 サジタリウス~神の遊戯~
 プロローグ 崩壊の序章

 to be continued……

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