ねことパンの日々

ねことパンの日々

路地裏

路地裏


灰色の空が赤く染まる
ビルの窓から黄金色の太陽が照りつける
思わず手で眼を覆いながら
光から逃げるように路地へと入り込む

眼がちかちかと痛い
ごしごし、ごしごし
こすりながら歩いて

どのくらい歩いただろうか
ふと気がつくと
まるで知らない路地裏にいた

時間が止まったような静けさ
かすかに漂ってくる夕餉のにおい
豆腐屋の笛の音
そして

ころころ......
足下に転がってきたゴムのボール
取り上げてふとその先に眼をやる
女の子が
じっとこちらを見ている

女の子のおかっぱの髪の毛に
夕陽がかさなる
大きく伸びた影は
手の中のゴムボールにとどく
ぎゅっと握った女の子の手は
ゆっくりと
こちらに差し出された

ああ
どこかで出会ったような風景
初めてでいて
なぜか懐かしい風景
そしてあの女の子は
時間から切り取られて
私のまぶたに貼り付いてしまいそうだ

ころころ....
ボールを転がす
女の子はそれを
ぎゅっ
と抱きかかえて
かすかに笑う
そして振り返りもせず
夕陽にとけていく

さらに伸びた影は
私のてのひらに
まだ残っていた

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