前門の虎、後門の狼 <年子を抱えて>

前門の虎、後門の狼 <年子を抱えて>

四季は起承転結




 三月をさす弥生は、草木がいよいよ生い茂る「いやおい」からきた呼び名という。陰暦の異称だが、今年は暖冬のせいか、木々花々の勢いのある伸長は、弥生の名にふさわしい。

 先日、スーパーで買い物をしていたら、初出勤とおぼしき若い女性が、中年の従業員に連れられて説明を受けながら売り場を歩いているのを見かけた。彼女の胸には「実習生」のバッジがついていた。高校を卒業して、進路も決まって、春休みのアルバイトといったところか。なんとも初々しい。私は12年前のことを思い出した。大学合格を確認し、アルバイトを始めた、あの頃のことを…。

 いやはや、なんと12年も前のことである。干支が一周してしまった。今時の高校生は化粧など当たり前のようだが、当時はまだ女子高生ブームの前でスカートも短くなかったし、私など、いかにも田舎の高校生といった風貌であった。母と買い物に行った時、大学生になるのだからと化粧品を買ってもらってとても嬉しかった。売り場のカウンターに座って美容部員から実際に化粧をしてもらい、鏡に映った自分が急に大人びて見えた。服やバッグ、靴など一通り揃えて、花の(!)女子大生になる日を待った。

 不安と期待を胸にキャンパスゲートをくぐった私を、満開の桜が迎えてくれた。新入生オリエンテーションで隣に座っていたのがMちゃん、筆記用具を忘れたという彼女に、ボールペンを貸してあげた。こんな大事な時にペン忘れるなんて、なんちゅうドジな子やねんと思った。次に言葉を交わしたのは別のMちゃん、忘れもしない第一声は「混じっとる?」私のことをハーフかクォーターだと思ったとのこと、いかにも天真爛漫な彼女らしい。

 その後、NちゃんとAちゃんにも会って、5人のグループができた。授業、ランチは勿論、カラオケに行ったり飲みに行ったり、いつも一緒だった。遠く離れた今でも仲良くしてもらっている。三十路を迎えても、彼女たちに会えば学生時代に戻ったようにワイワイと楽しむことができる。

 バンドもやったなぁ…。急造メンバーで私以外は皆4年生、しかも学部も違う人たちだったから、練習スタジオ以外では滅多に会えず、その後つきあいが減り、先輩たちは卒業してしまった。でも一緒に学園祭のステージに立てたことは、よい思い出になった。

 春、草木は始動し、夏に大きく成長、寒さへ転じる秋に果実をつけ、冬、種子は地に潜って春の再来を待つ。三月は卒業、退職、転居、異動などがある。別れがあり出会いがある。終わりのように見えて、新しい物語を書き始める。弥生の明るい勢いが人々を後押しする。


© Rakuten Group, Inc.

Design a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: