リキッドの奮闘記

リキッドの奮闘記

下書き・5



オーシアの準備が整うまで、なるべく敵の侵攻を防ぐ必要がある。しかし、敵の戦力は想像以上で、オーレンから撤退した部隊はフォーバット軍の防衛拠点の一つで釘付けにされた。敵の攻撃を防ぐのに精一杯なのである。地上軍は大半がその様な状況だった。
一番のフォーバット国防軍の支えは空軍だった。幾つか撤収する羽目になった空軍基地もあったが、まだ多くの航空基地でパイロット達が敵の攻撃に備えていた。

2017年 11月8日 午前9時6分

「おい!アンダーソン!」
相変わらず元気なマクロードが兵舎の廊下でアンダーソンの背中に声を掛けた。藍色の服を着た三十歳の空軍大尉が振り向く。
「何だ?」
「お前昨日、“取って置きの”DVD貸してくれるつったろ!忘れるところだった」
「ああ、あれな。じゃちょっと来い」
アンダーソンはローエングリン隊の頭を連れて、自分の部屋に向かった。自分の部屋とは言っても、バルクホルムと共有している。部屋のドアを開けると、元傭兵の若者の姿は見えない。部屋の両端にはベットが置かれ、机が一つと、ストーブが一つあり、窓からは朝の空が見える。窓の横にはバルクホルムが持参した―――テレビもDVDプレイヤーも中古品だった―――がある。この基地はロッカーだけ別の部屋にまとめられていた。アンダーソンはベットに向かうと、しゃがみ込み、下を探った。すぐにDVDのケースが彼の手と一緒に引っ張り出される。
「これだな・・・・・・はい、どーぞ」
彼は立ち上がると、後ろにいたマクロードにケースを手渡した。マクロードはいやらしい笑みを浮べていたが、ケースの表紙を見ると、その笑みは消えた。
表紙にはカウボーイ・ハットを被り、汚れたジャケットを身にまとい、銃を持った茶色い無精ひげの中年の男が、荒野を背景にして銃をこちらに向けて微笑んでいる。
「何だ・・・・・・俺の多目的ミサイルがおっ立ちそうなのじゃないのかよ!」
やっぱりそっちか。
アンダーソンは別に“そういう物”に興味が無いわけでは無いが。
「そういう作品なら俺の隊のバルクホルム曹長がいっぱい持ってるぞ」
すると、ドアが開いた。金髪の男だ。
「やだなぁ、隊長。そんなにいっぱい持ってませんよ」
マクロードは金髪の若者がバルクホルムだと分かると、後ろに回りこんでゴールドマンの首に片腕を回した。またいやらしい笑みを浮べている。
「なあ、曹長・・・・・・貸してくれるよな?」
元傭兵は苦笑いしながら隊長をちらっと見た。隊長は肩をすくめた。
「上官命令だぞ。俺が満足しそうなのを頼む」
「分かりましたよ。まだ見てないのがありますから」ゴールドマンは観念して、自分の隊の一番機と同じ様にベットの下を探った。
見るからに大向けの表紙のDVDケースが出てくる。
「ちゃんと返して下さいよ。まだ見てないんですから」
それを受け取ると、マクロードは「サンキュー」と言うと、物凄い速さで部屋から出て行った。
「にしても何処で見るんでしょう?」金色の髪の持ち主が言う。
「分からないが、ちゃんと用意してあるんだろ」
そう言った後、アンダーソンはヴォレンの事を思い出した。彼は見かけはあまりダメージを受けていなさそうだったが、実際はどうなのだろうか。ヴォレンは今は空き部屋に居座っており、一人きりである。まだ一日しか経ってないが、完全にダメージを癒しているとは思えない。
アンダーソン大尉は部屋からゴールドマンを残し、失敬した。そしてヴォレンの部屋を探しているうちに、警報が鳴る。ヴォレンとは話せそうも無い。
マクロードはさぞかしガッカリするだろうな。まだ見始めて間もないだろうに。

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先程北部ににあるレーダーが敵軍の爆撃機を多数キャッチした。敵はナイメートンの軍需工場の破壊が狙いの様だ。
ナイメートン周辺の防空軍は開戦時に大打撃を負い、未熟な上、対空火器の大半は攻撃機の先遣隊によって破壊されてしまったらしい。
この軍需工場は他の工場に比べれば規模は多少、小さいが、もし失えば今のフォーバットやこれからの作戦に少なからずとも影響を与える事が予想される。
軍需工場の上空に敵軍爆撃機を到達させる前に、可能な限り爆撃機を撃墜するのが諸君の任務だ。
なお、マーカス・ヴォレン大尉は臨時にジークフリート隊に入れる。

また、オーシア連合軍はまだ準備を整えておらず、まだ来るのは無理らしい。
幸運を祈る。

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ブリーフィングが終わると、パイロット達はすぐに部屋から出る。格納庫に行くと、戦闘機と水色のパイロット服の姿が至る所に見えた。
マクロードはやはりガッカリした様子だった。見たいなら生き残る事だと、自分でも分かってるだろう。戦闘前にこんな思考を巡らせられるのは、経験豊富だからだろうか。
新米ならこんな事は考えていられない。自分も昔はそうだった。
愛機に向かっているうちに、ヴォレンの後姿が目に入った。後姿から見ても、元気が無さそうだ。黒髪のアンダーソンと同い年の目の青い男なのだが、後ろから見ているので彼の表情は見えない。
アンダーソンは声を掛けてみようかと思ったが、彼が少し下を向いてSu-27へ歩いていくのを見ていると、そうする勇気が沸かない。とても寂しい感じがした。
自分も部下が死ねばああなるのだろうか・・・・・・。
よせ。そんな事は考えるな。ヘルブリット・アンダーソンは自分に言い聞かせた。部下を全て連れ帰り、バルメシア公国との戦争まで生き延びさせるのが隊長としての役目だ。
ヴォレンは整備兵が話しかけても頷くだけなのを見ると、アンダーソンは自分のF-15に走った。またヴォレンを見ると、彼は既にフランカーのキャノピーを閉め切っている。アンダーソンもイーグルのコクピットに飛び乗ると、ヘルメットを被った。


五機のF-15と四機のF-14と一機のSu-27はまだ午前中の明るい空を飛んでいた。
今、アルシムに配備されているのはこの十機だけ。ヒューボット飛行場の改修工事はもうすぐ終わるらしいが、アラン少佐によると、元々アルシムにいたパイロット達は欠員補充の為にヒューボットに留まる事になったとの事だ。
<<隊長>>通信が入る。フロートだ。
「何だ“レッド・シープ”?」
無線の向こうから小さな笑い声がした。
<<マクロード大尉殿に何か貸したんでしょう?>>どうやらDVDの事を言っているらしい。
「私じゃない。ゴールドマンだよ」
<<広めないで下さいよ>>バルクホルムの若い声が響く。フロートが続けた。
<<実はマクロード大尉は私のいる部屋に見に来たんですよ。それで―――>>
やっぱりそんな事か。アンダーソンは思わずマスクの下で笑みを浮べた。
だが、ちゃんとマクロードも聞いていた。
<<ジークフリート隊の紳士諸君?人の噂話をわざわざ無線でしないでもらえるかな?>>
すると、彼の隊員の一人が会話に入る。
<<やっぱ隊長ってそんなもんばっか見てるんですね・・・・・・>>
<<「ばっか」とは何だ!ジン!映画も見てるぞ!ちゃーんと!>>
<<どうせ胸のでかい女の子しか出てこないんでしょう?>>
<<うるせえハーマン!前を見てろ!>>
マクロードがそう言い終わると、AWACSの通信が入った。
<<お楽しみのところ失敬だが、そろそろ爆撃機部隊が確認できる頃だ。大型爆撃機ばかりの様だ。思う存分落とせ>>
マクロードがイエッサーと言うのを聞きながら、アンダーソンはヴォレンのフランカーをキャノピー越しに見ていた。彼の部下はもう一人もいない。そのせいか、彼は何も話しかけてくる様子は無い。やはり話し掛ける勇気は出ない。帰ってからでいいだろう。
<<レーダーに敵軍爆撃機、及び護衛機を確認>>
スノー・アイの声が終わり、少し経つ頃にはレーダーに点がくっきりと現れていた。まだ肉眼では見えない。大型爆撃機となればそれだけ狙いやすいが、その分弾をプレゼントする必要があるだろう。
やがて爆撃機の機影が目に映る。機影によると、敵はB-52らしい。
どうやらあっちもこっちに気付いたらしく、護衛機らしき光点がこっち目掛けて飛んでくる。すぐさまアンダーソンは指示を出す。
「フロート、ヒルは護衛機を片付けてくれ。残りは爆撃機をやる」
<<こちらフロート、了解>>
<<了解しました>>
マクロードも指示を出す。だが、フランカーのパイロットは悪い意味で出す必要が無かった。彼は僚機に指示を与えたいに違いない。まだ自分は幸せな方かもしれない。

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