わがらし法律事務所

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Feb 21, 2014
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カテゴリ: 日々湯猫



 その中で、男性パートナーに精子をつくることができない障害がある場合に、パートナー以外の(例えば、パートナーの親戚等)のドナー(提供者)の精子を使って妊娠をサポートするAID(非配偶者間人工授精/Artificial Insemination by Donor)をご紹介しました。

 一方で、パートナーは不要で子どもだけを欲する女性が、このAIDを選択するケースがあり、それをサポートする法人もあります。

 日本ではあまり知られていませんが、海外にはこれらのビジネスが盛んな国があり、女性一人で自宅でもAIDを行える専用キットが2000円弱程度で売られているそうです(http://ja.wikipedia.org/wiki/人工受精)。

●精子提供サービスの現場

 このような精子提供サービスを行っている、ある日本の法人のWebサイトから一部を抜粋したものを記載します。

【例1】 ドナーの募集の条件

(1)健康青年男子であること。
未婚、20~27歳、適正身長、適正体重、たばこ・麻薬を吸わない。輸血を伴う手術を受けたことがない、感染症、性病の既往症がない。


遺伝に伴う疾患に関し充分な知識があり、倫理的、社会的配慮に関してしっかりとした意見がある。

(3)精神的に安定していること。

(4)次の検査がすべて陰性であること。
B型・C型肝炎、エイズ検査(HIV1/2)、梅毒、クラミジア検査等。

(5)癌遺伝子に異常のないこと。

【例2】 レシピエント(精子を希望する女性)へ開示される、ドナー情報の一例

(1)特徴としましては、「精子提供者を東大卒、または、東大以上の難関の国立医学部に限定」したことが挙げられます。

(2)男性の参加資格を非常に厳しくいたしました。

(3)身長は175cm以上。見た目も平均以上であり、自分の遺伝子で明らかに問題がないこと、まっとうな定職についていることが男性の条件です。

・ドナーの情報は、原則として開示されないことになっているようです。
・また、ドナーの選択条件としては、既婚者であれば夫の血液型(ABO、Rh型)のみマッチングして提供者を選択しているようです。「生まれてきた子どもに、できるだけAIDのことを知られたくない」との配慮と考えられます。


 上記【例2】の「見た目も平均以上」「まっとうな定職」という表現を初めて見た時、「一体、それは誰がどうやって判断するのだろう」と違和感を覚えました。しかし、精子の提供を受けるレシピエント(女性)にとっての匿名ドナー(男性)の価値を示すには、このような表現も仕方ないのかと、妙に納得もしました。
 しかし、どんなに「クールなイケメンの精子だ」と言われても、それを保証してくれる公平な第三者機関があるわけでもないようです。レシピエントにとっては、提供される精子の品質に対して、不安は残るでしょう。

●動植物には広まっているクローン

 このケースは、「パートナーはいらないけれど、自分の遺伝子を受け継いだ子どもと共に生きる」ことを選んだといえます。見知らぬ男性から遺伝情報の半分(50%)をもらうくらいなら、いっそ「自分の遺伝子100%の子どものほうがいい」と考える女性もいるのではないでしょうか。

 すなわち、自分自身のクローンです。


「クローンなんて気持ち悪い」「得体が知れず、怖い」などと思われる人は多いかもしれませんが、私たちの回りには、結構な数のクローンがあります。

 まず、植物ではクローンは一般的で、挿し木などは典型的なクローンです。生物でも、一卵性双生児は同じ遺伝子を持って生まれてきますから、クローンであるといえます。
 私たちの日常生活でも、食卓に普通に登場しています。例えば、食用牛肉は、肉質の良い牛、乳量の多い牛のクローンが流通しており、日常的に消費されています。
 クローンは遺伝子を100%そのまま使うのですから、いわゆる「遺伝子操作」には該当せず、むしろ「遺伝子『無』操作」との言い方がふさわしいでしょう。

 クローンには、大きく受精卵クローンと体細胞クローンの2種類があります。
 牛の場合、受精卵クローンは、他の複数のメス牛の卵子と子宮を借りて、双子ならぬ8つ子や16つ子をつくるようなものです。「代理母(メス牛)」の協力による、双生児の大量生産という理解でよいと思います。現在のところ、受精卵クローンによる牛肉は安全とされているようです(http://www.weblio.jp/content/クローン牛)。
 これに対して、体細胞クローンは、「子ども」の量産ではなくて、「自分自身」のコピー量産という点で異なります。

●クローン人間の現実味

 世界初の哺乳類の体細胞クローンである、メスの羊「ドリー」が、1996年にスコットランドのロスリン研究所で誕生したニュースが世界中に流れた時、世界中の嫌悪感はピークに達しました。

 羊で体細胞クローンがつくれるということは、当然、同じ哺乳類である人間でも可能であるからです。

「保存された体細胞から独裁者を復活させる」というSF小説の話が、いきなり現実の世界に落ちてきたのですから、人々はさぞかし怖かっただろうと思います。

 しかし、先ほどの話に戻りますが、自分の遺伝子100%の子どもを産みたいと考える女性にとっては、自分自身のクローンとは「20~40年の年齢差のある、自分の双子の妹」と同じである、というポジティブな解釈も可能です。このように考えると、あまり怖くないと思います。

 少々話はそれますが、この原稿を執筆している最中に、嫁さんと長女に「『見たこともない男性に精子を提供してもらって子どもを産む』のと、『自分自身のクローンを産む』のは、どっちがいい? ただし『どっちも嫌』という答えは不可」と質問してみたところ、2人とも迷うことなく「前者」と答えました。「自分自身のクローンを産み育てるなど、おぞましすぎる」とのことでした。ここでは割愛しますが、このやりとりは結構面白かったので、私のホームページに掲載しておきます。

●法律で禁止されている理由

 ところが、現在の日本においては、この「20~40年の年齢差のある、自分の双子の妹」を出産することはできません。

 法律がこれを禁止しているからです。「ヒトに関するクローン技術等の規制に関する法律」(以下、ヒトクローン規制法)といいます。

 この法律の目的は、「クローン動物をつくってもいいけど、クローン人間をつくることだけはダメ」ということのようです。法文からは、その理由までは読み取れなかったので調べてみたところ、文部科学省の解説資料に3つの理由が挙がっていました。(http://www.lifescience.mext.go.jp/files/pdf/n625_00.pdf)。

1.「人の尊厳の侵害」

(1)人間の唯一性の崩壊…例えば、 『私が2人以上いるって、どういうこと? すでに死んでいる私が、今生きているって、どういうこと?』

(2)人間の意図的生産(=人の道具化)…例えば、 『頭のいい従順な人間を量産化して国力を増強しよう。実験用人間を使って医学を発展させよう、という陰謀等』

2.「社会秩序の混乱」

 家族秩序の混乱…例えば、 『クローンである私は、誰の子ども? 私の戸籍上の位置付けは? 人権や国籍はあるの? 結婚や遺産相続の当事者になれるの?』

3.「安全性の問題」

 動物実験で死産・過大児等が多く、安全性が未確認(これについては後述します)

 この法律の立法趣旨を私なりに解釈しますと「今、クローン人間をつくると、色々面倒くさいことになるから、今はやめてくれ」ということになるのかと思います。

 実際に、この法律が規定していることは単純明快で、第三条に禁止事項が一行記載されているだけです。

(禁止行為)
第三条  何人も、人クローン胚、ヒト動物交雑胚、ヒト性融合胚又はヒト性集合胚を人又は動物の胎内に移植してはならない。

 この条文の解釈を、私なりに試みてみました。ここで「胚」とは、とりあえず「受精した卵(受精卵)」ととらえます。

 このようなクローン技術の研究は、医学(特に再生医療)や畜産技術の進歩のためには必要なものであるので、「クローン人間をつくる“直前状態”まではOKとしよう」という意図が見えます。しかし、前回お話しした「人工子宮装置」が開発されたら、文言上、クローン人間をつくってもいいことになります(その時は法律が改正されるでしょうが)。

 また、この法律だと「人間の体細胞クローンは違法」だけど、「人間の受精卵クローンは合法」とも読めます(第2条第10項の「人クローン胚」の定義より)。

●クローンの安全面の問題

 では、同じ子どもが128人欲しい人は、その気になれば、128人の代理母をお願いして、受精卵クローンの「128つ子」をつくれるのかと思って調べてみたのですが、こちらは「法律」ではなくて、「指針」で、このような母胎への移植が禁止されている、とのことです。

 しかし、「法律」や「指針」が禁じようとも、技術的に可能であれば、そのようなクローン人間をつくってしまう科学者は、きっといるでしょう。

 そのような者に対して、どれほど厳しい罰則(十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金又は併科)を規定したところで、現実に生まれてきてしまったクローンをなかったことにはできません。そのようにして誕生してしまったクローン人間を、私たちの世界(行政、法律、世論)は、どのように扱うことになるのでしょうか? 今のところ、私にはイメージすらもできません。

「20~40年の年齢差のある、自分の双子の妹」――つまり自分のクローンを出産するためには、「体細胞クローン」によらなければならないのですが、技術面や安全面に問題があると考えられています。

 先ほど紹介したクローン羊「ドリー」は、6歳で死亡しました(羊の平均寿命は15歳)。大人の細胞を使ったクローンは、恐ろしくその成功頻度が低く、成功しても臓器の奇形や糖尿病などの疾患を伴うことが多いのです。

 この理由の一つとして、最も有力な説が「テロメア説」です。細胞は分裂を繰り返して、生体を維持しているのですが、分裂がある一定回数(80回くらい)を超えると、遺伝子コピーに異常が発生する恐れありとして、細胞が自殺を試みます(アポトーシス)。これが老化の主たる原因といわれています。

 一定回数を超えると、それ以上のコピーが禁止される点では、地デジ放送のコンテンツのコピー制限「ダビング10」のようです。「体細胞クローン」は、すでに、コピーを何回か繰り返してしまっている体細胞を使うので、生まれてきた時に、すでに老化していると考えられるのです。

●STAP細胞がクローン技術を劇的に進化させる?

 しかし、このパラダイムをひっくりかえす技術が、近年、日本人の研究者によって開発されています。いわゆる多能性細胞と呼ばれるiPS細胞やSTAP細胞の製造技術です。

 詳細は次回説明しますが、これらの技術は、原理的にはどんな年齢の、どんな細胞からでも、すべての細胞が変化する前の最初の一歩の細胞(受精卵)の、次の一歩の細胞をつくり出すのです。テロメアの細胞分裂カウントが80を超える老細胞からであっても、細胞分裂カウントが限りなく0に近い生まれたての細胞まで戻してしまうことができる驚異の「老化細胞の時間逆転」技術――まさに、「時をかける細胞製造」技術です。

 生まれたての細胞を使えば、「生まれてきた時に、すでに老化している」という問題は発生しないはずです。つまり、「20~40年の年齢差のある、自分の双子の妹」の出産の危険性は、格段に下がることになるのです。






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Last updated  Feb 22, 2014 12:16:45 AM コメントを書く
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