02.『決着』


この自然の渓谷の奥には、明らかに不釣合いな人工の基地が存在している
谷上からその基地をドレーガのモニター越しに俺とリュースアールヴが見下ろす

この基地は俺が所属していたあの組織の残党がいる
それを思うだけで自然と復讐心と力が入る

「それっぽいけど・・・・・・ねぇ、ホントーにここで会ってるのー?」
「バーカッ、俺が仕掛けて(ハックして)入手した情報を甘く見るなよ」

作戦も立てず、ただ突っ込んで陥落させるだけ
今の俺(達)の実力なら、それだけで奴等を倒すなんて簡単なことだ
だが、俺はそれよりも面倒な事をリュースに最初に言いつけておいた

"ロキの仔は出来るだけ生かしたまま捕まえろ"

敵意をむき出しの相手を殺さず捕まえるなんて、自分でも甘い考えだとは思う
だけど、もう俺のような被害に遭おうとしている奴等を見過ごしたくは無い・・・・・・
多分リナスがいたら、俺の考えに賛同してくれるとだろうな
俺とリュースはタイミングを合わせて崖を駆け下り、門の警備マシンを撃ち倒す

「て、敵襲だ!至急応援を・・・・・・ぐわっ!」

応援を呼ばれると面倒と言えば面倒だ
俺は監視塔の男にケルベロスを向け、さっさとトリガーを引いた
ヴァリス仕様の90mm口径の弾丸を喰らえば・・・・・・言わなくとも察しは付くだろう

リュースも次々と出来るだけコクピットに被害が及ばない程度に敵マシンを斬り倒していく
無人ならまだしも、パイロットが女子供だったら・・・・・・
そう思うと気分が悪いが、この場合は仕方が無いと心の中で自分に言い聞かす

「もうすぐ基地内への入口か・・・・・・リュース、外の害虫駆除は任せたぞー?」
「りょ~か~いっ」

俺はドレーガを降り、手持ちのツールで自動ドアのロックを解除する
ドアを開けた先には驚きの表情を見せるガキ共と武装兵数人・・・・・・

(まっ、当たり前だよなぁ~)

「俺は女子供は絶対に殺らないが・・・・・・それ以外には容赦しねぇぞー?」

言ったところで無駄なのは分かっている、ただ言っておかないと俺の気がすまないだけだ
銃を向ける大人共には容赦なく発砲、ガキ共には出来るだけ気絶や死なない程度に善処する
当然、武装兵達も反撃してくるが、今の俺には通用しない
弾丸の嵐を俺はトンファーに変形させたIKBGで多少は弾くがその殆どをもろに喰らう
だが、そのダメージは急速に再生させ無効化する
勿論全身に激痛が走るんだが・・・・・・この程度は日常茶飯事で何とか堪えられる程度だ
こういうのは感謝して良いのか、何だか複雑な心境だ

武装兵共の死の呻き声に半ば酔狂しそうになる自分がいる
またあの頃・・・・・・"ライル"に戻るのか・・・俺も所詮は戦闘兵器として造られた名残からだろうか・・・・・・

何度もドアを抜けた先に巨大なフロアにたどり着いた
四方と窓際に機械が立ち並んでいるだけだ
窓の向こう側には更に巨大なフロアが広がっていて、仔供が眠っている半球体のカプセルがずらっと立ち並んでいる

「冷凍保存されたロキの仔か・・・・・・あいつら、まだ懲りてないみたいだな・・・・・・」


"・・・・・・アンタと同類の奴を造られるのがそんなに嫌・・・・・・?"

背後から聞き覚えのある声がする、この声は・・・・・・
咄嗟に後ろに振り向くと、まず俺の目にツンツンヘアーの10代前半らしきガキの姿が映る
口から下はローブで身を隠れているが、その身長はおよそ150cm台といったところか
俺より明らかに身長が下のそのガキに思わず苦笑する

「サバト・・・・・・俺の二つ前の試験Noとは聞いていたが、まさかここまでガキだったとはな」
「見た目で判断しないでよ・・・・・・」

サバトの一言で周辺の空気が一変する
俺は一瞬の危機感を覚え、即座にIKBGを向ける
だが既にサバトも同じ様に右手で構えた拳銃の銃口をこちらに向けていた

「デザートイーグルか、中々良いモン持ってるじゃねぇか」
「あんたも、ね・・・・・・」

互いに銃口を向け合ったまま数秒の間硬直する
俺はこの光景に既視感(デジャビュ)を感じた
そう、研究所を脱走する時、レノスと闘ったあの時と・・・・・・

物思いに耽っていた俺を尻目にサバトは構えていたデザートイーグルをマントの下にしまい込んだ
「どうせアンタには効かないんでしょ・・・・・・」

事前に情報を仕入れていたのか、さっきまでのドンパチで知ったのかは知らないが
俺が銃弾程度じゃ死なない事は理解しているようだ
だがサバトのその口ぶりからは余裕すら感じ取れる
不死身の俺に対して何か策でもあるのか・・・・・・?

サバトがマントの中に隠していた左腕をかざした瞬間、俺の思考をかき消すような強い威圧を感じる
(これは・・・・・・魔力の類!?)

「・・・・・・龍帝銃[ガン・スレイヤー]・・・・・・」
サバトがその名を口にした瞬間、奴の左腕が強く光りだす
「っ!?」

強い光に俺は目を手で覆うが、指の隙間から漏れる光が瞳に焼き付く
数秒が経ち、俺の瞳から徐々に光の刺激が晴れていく・・・・・・
その先に見えたものは、床に銃口が着きそうなほどに巨大な銃を左腕に纏ったサバトの姿が・・・・・・

「さぁ、死んじゃって・・・・・・」

サバトがその巨大な銃を俺に向け、奴がトリガーを引いた瞬間大砲を撃つような銃声が轟く
その巨大な銃口に相応しく巨大なだけでなく、様々な刻印が刻まれた弾丸が放たれ、俺に襲い掛かる
その刻印に途轍もない危機感を感じ取り、俺は咄嗟に回避した
そしてすぐさま着弾点の方へ振り向くと見事に分厚い壁に大穴をあけていた
だが、それだけではない・・・・・・弾丸に刻まれた刻印が怪しく光りだした瞬間・・・・・・

俺は自分の見ている光景を疑った
そこにあった筈の壁は消え、まるで向こう側の部屋と最初から一つだったかの様に綺麗に繋がっていた
瞬きもしない内に"壁そのもの"が消滅していたのだ・・・・・・
「これが龍帝銃の弾丸・・・・・・存在そのものを"無"にする究極の武器・・・・・・」

俺は口を開いたまま呆然と立ち尽くしてしまう
IKBGを握っている手が自然と汗ばんでいく・・・・・・
こんな物を一発でも喰らったらいくら俺でも跡形も無くなってしまう・・・・・・

「な、なんだそりゃ!?あんな化け物反則だろーが!?」
「・・・・・・殺し合いに反則なんてないよ・・・・・・?」
「確かにそうだけどな・・・・・・くっ!?」
「一応威力はセーブするけど・・・・・・それでもアンタに唯一有効な武器・・・・・・」

間髪入れる間もなく、サバトは龍帝銃の銃口を向けてくる
久々に本当の恐怖を感じる・・・・・・だがそう易々と喰らう訳にも行かない
俺はIKBGをセミオートからフルオートに切り替え、全速力で走りながら連射する
サバトはナイフ状の弾丸の雨に一瞬動揺を見せるが、すぐさま龍帝銃のトリガーを引く
その一発はフルオートで連射した弾丸すら、一瞬にしてかき消されてしまった

「くそっ・・・・・・打つ手無しかよ・・・・・・っ!?」
久々に全速力で走ったせいか、足が止まり肩で息を切らしてしまう
手持ちの武器はIKBGただ一つ、あの反則レベルの魔力武器に対抗出来る程の力は残されていない・・・・・・

サバトは静かに、そして確実に俺へと銃口を向ける・・・・・・
だがトリガーに指は掛けてはいない、これから撃とうという相手に対して・・・一体どういうつもりだ?
俺が疑問に当てはまる答えを模索する中、サバトは重く悲しげに口を開いた

「無駄だよ・・・・・・だから、最後に教えてあげる・・・・・・」

"・・・・・・僕の本当のコードは『クロア・アークェルス』・・・・・・"

「アークェルスって・・・オマエは一体・・・・・・!?」
「・・・僕はアンタ・・・というか、兄貴の弟・・・・・・」


『クロア』、その名を聞いた途端、俺の脳内に欠けていた記憶の断片が鮮明に映し出される
そう・・・・・・俺よりも先に組織に引き取られ、俺よりも早くロキの仔として育てられた俺の弟・・・・・・

身なりが小さく人見知りが激しい、それは俺が後から組織に引き取られた時も変わっていない
部屋こそは違っていたが、俺が部屋に戻るまでずっと後をついてきたりもしていた
その後リナスが俺の同居人になった翌日、人見知りの激しいアイツがすぐさま仲良くなっていたことには少なからず驚いたりもした

そんな実の弟が今、俺の眼前で銃口を向けている・・・・・・
"コイツになら俺は・・・・・・"
そんな考えが一瞬頭をよぎり、俺はそれを振り払う
そう、俺はこんなところで死ぬのはまっぴらゴメンだ

(ちっ、こーなりゃ最終手段だ・・・・・・一か八かのなっ!)
クロアの龍帝銃はその余りある威力の分、おいそれと連射が利かない筈だ
俺はクロアが龍帝銃を放ったその隙を狙って飛び込み、奴の直ぐ目の前まで近付く

「・・・・・・・・・!?」
「朱血眼っ、朱血そ・・・・・・」
「・・・・・・!!?」

俺が朱血爪を発動させた瞬間、クロアは気絶して俺の体に倒れこむ
そう、俺がコイツのことで思い出した記憶の中で唯一弱点に当たるもの・・・・・・
それはクロアが"超"が付くほどの尖った物嫌い、つまりは重度の先端恐怖症だと言う事だ
しかし、尖った物を至近距離で見たからって気絶までするか、普通・・・・・・

「ったく、コイツも連れ帰って薬物処理の改善でもやってもらうか・・・・・・」

気絶したクロアを担いで、入口で待っているだろうリュースの元へ戻る
アイツの事だ、俺の忠告通りに何人かのガキを捕らえているだろう
ロキの仔に施された薬物処理・・・その改善はしてやるつもりだが、社会復帰や保護までしてやるほど俺もお人好しじゃない
その後はどこかの施設にでも預けてやるか・・・・・・
もっとマシな施設にな・・・・・・

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