SIXTH-PHASE 闇夜の狼


アフリカ大陸の南部地帯に落着する。

連絡の付いた現地の駐屯基地に辿り着いた彼等は基地での補給と、それが完了するまでのしばしの休息を取る事にした。

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[C.E.71 3/2 南アフリカ駐屯基地 シャワールーム]

「ふぅ・・・」


苛酷な状況からの生還と疲れを洗い流すシャワーに安らぎ、心地良さを有意義に浸っていた。


(俺達もとうとう地球にまで来て・・・
 本当は戦争だから、なんて理由で来るつもりじゃなかったんだけどな・・・)


「・・おぅ、隊長さんはもう入ってたのかよ」
「シルバか、お前が愛機のチェックが遅いだけだー」
「はっ、ぬかせ」


カナトと口喧嘩をしながらもシルバは制服を脱ぎ終わり、カナトが使用している所から二つ隣のシャワーに入る。


「ふぃー、やっぱ戦った後のシャワーと飯は最高だぜー」
「散々此処の飯に文句言いながら、結局綺麗に完食してたもんな?」
「食える時に食っておかねぇと戦えねぇからな」
「はははっ・・・・・」


カナトの口が突然閉じられ、それまでと一変して重々しい空気が立ち込める。


「・・・何だ?黙りこくって、気持ち悪いぞ」
「・・・この戦争、シルバは何時終わると思う?」
「はぁ?何だよ、いきなり」
「俺は死んだ両親の様な被害者を一人でも出さない為にザフトに入った・・つもりだ。
 なのに今は地球にもプラントにも被害が増えるだけ・・・俺は、俺達は、本当に守りたい者の為に戦えているのかな・・・」
「・・さぁな、俺は俺がナチュラルの奴等をぶっ潰す、それしか分かんねぇよ」

「・・・はぁー、単純な考えだけで気楽なお前が羨ましいよ」
「誰が単純な考えだゴラッ!てめぇの方が色々考え過ぎなんだよ!」
「俺は隊長だからな?・・・でもまぁ、そうかもな・・・ありがと、少し楽になった」
「・・・はんっ」

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[3/3 AM1:36 アフリカ砂漠]

新たな補給を済ませたカナト達は本来の到着地であるカーペンタリアへ向かう為、
ヴァルファウ大型輸送機でアフリカ砂漠を横断している真っ只中にいた。


「ったく、マジで砂山しかねー場所だな」
「それだけ地球の環境汚染が拡がってるって事だろ」
「これもナチュラルのせい、ってか?」


窓から覗ける下の暗闇の砂漠は戦争の爪痕をまざまざと残しており、
破壊されたMSや連合の戦車等の残骸だけがまるで数々の墓標の様に残されていた。


「現地の情報だと主力である″砂漠の虎″が連合のMSに倒されてから、
 連合の手が伸びて南アフリカ統一機構はがたがた、
 その混乱に乗じて地元の盗賊集団の動きが活発化している様で・・・」
「その話は俺も聞いたな、何でも深夜に砂漠を渡る補給部隊を襲う黒いバクゥの盗賊、
 確か名前は″闇夜の狼″、だったか・・・?」

「丁度良い、もし出くわしたら俺の新型で退治してやるよ!」
「まだ全部の塗装が仕上がってないツギハギでか?
 相手はいいけど、折角シンがチューンしたばかりのMS、壊すなよ?」
「そーだそーだ」
「んだとコラ!?」
「それにしても砂漠の虎、アンドリュー・バルトフェルドを倒しただなんて、
 連合の新型MS・・・一体どんな奴なんだろうな・・・」
「・・・って、俺の話を無視するんじゃ・・」


シルバの怒声を遮り、突然操縦席内にエネミーコールが鳴り響く。
カナトとシルバは即座に反応してコクピットへ乗り込んだ。


「おっと、早速壊されんのかなー・・・」
『誰が壊すか!』

『数3、機種特定・・・TMF/A-802、バクゥのカスタム機です、もう一機は不明!』
「地上ではバクゥの方が有利だな・・・シン、機体の調整は大丈夫なんだろうな?」
『オレを誰だと思ってんの!もち完璧っ!』
「レベッカは一旦上昇して上空で待機、当てられるなよ!」
『了解!』
「OK、行くぞシルバ、オープンコンバットだ!」
『俺に指図するなッ!!』


「カナト・ガーウィン、クルード発進するッ!」
「シルバ・シャム、ディン・クリムゾン、出撃るぜッ!」



ヴァルヴァウの後部ハッチからクルードは砂漠の大地に着地する。
続いて出撃するシルバ機は愛機である紅いジンではなく、
ボディは紅い塗装は施してはあるものの、所々に下地が残されたディンであった。


『・・あぁもう、うざってぇな畜生!』
「機体が重い・・これが地球の1Gって奴か」


MS同士での戦闘や有重力下での実戦経験が無い訳ではない。
しかし1G下の戦闘は疎か、地球には初めて降り立ったばかり。
更に、敵は地上戦用MSのバクゥとなってはアドバンテージは一方的に敵側に傾いていた。


「くそっ、深夜に黒い敵機がここまでやりにくい相手かよ・・・!」


暗視モニター越しから見えるモノは一面の暗い砂漠のみ。
レーダーには確実に反応はしているが、有視界では全く視認は出来ない。


「でも砂漠の夜は意外と寒いからな、サーモグラフィで・・真っ赤ぁ!?」
「どうやら周辺に高熱を張るのがあるみたいだな、その辺りの対策もしっかりしてる・・・!」


二人はグリップを握った両手を汗ばみながらも周囲を警戒し、全身に緊張感が走る。
その静寂を破り、クルードの背後の砂山から一機のバクゥが飛び掛かる。


「見た事ない機体だな、兄貴への手土産にしてやらァ!!」
「・・ッ!」


バクゥの背部から放たれたロケットアンカーをクルードは後方に跳んで回避する。
それと同時にビームライフルを撃つが、バクゥは既に回避行動に移っており、閃光は砂の地面に逸れる。


「くそっ、外した!周囲の熱で軌道がズレたのか!?」
「だったら俺がァァ!」


ディンは左手に構えたショットガンを数発撃つ。
しかし無限軌道走行による素早い動きで避けるバクゥには掠りもしなかった。


「ちょこまか動きやがってぇ!」
『シルバ機、背後にもう一機!』
「!?」


ディンの背後を狙っていたもう一機のバクゥをクルードが右足で蹴り飛ばす。


『ぬぐゥ!?くそッ!』
「させるか!」


バクゥは体制を立て直そうと四肢を広げる一瞬の合間に、クルードのビームライフルが放たれる。
緑の閃光がバクゥの右ウイングエンジンを貫通する。
エンジンの爆発の反動にバクゥは空中でバランスを崩す。


「ぐわぁ!?」
「今度こそ一機ィ!」
『シルバ機の真下、もう一機います!』


シルバが引き金を引く瞬間、一つの黒い影が飛び掛かり、ディンの銃を叩き落とす。
カナトはすかさず着地のタイミングを狙ってビームライフルを向けた。
だが黒い影は更に速い反応速度で、クルードにビームサーベルを咥えて飛び掛かる。
クルードは慌てて身を翻し、刃は寸前の所で脇腹の間を通り過ぎる。

クルードが振り向き、その先に立つ黒い影の正体はバクゥに酷似した漆黒の獣型MSだった。
だがその全身はバクゥより一回り程大きく、背部には大型のブースター、
頭部にはブレードアンテナとまるで骨を咥える様に両刃型ビームサーベルを装備していた。


「何だアイツ、この高さまで跳んだ!?バクゥじゃねぇのか!?」
「だとすれば・・・まさか、ラゴウのカスタム機か!?」

「俺のフェンリルの攻撃を避けるたぁ面白いMSだな、またザフトの新型か?
 てめぇらはあのツギハギトンボを墜とせ!アイツは俺が相手してやる!!」
『『あいさー兄貴ィ!』』

「あれがリーダー機・・・まさか量産され始めたばかりの機体なんて・・・」
『うだうだ言ってんな!来るぞ!!』
「・・ッ!」


両脇のバクゥ二機がディンへ、中央のフェンリルがクルードへと迫る。


「覚えておきな軍人さん!俺の名はレイト・ヴァニッシュ、地上最強の盗賊の頭よ!」
「くッ・・・!」


フェンリルのビームサーベルが前面へ向き、クルードに向かって一直線に突撃する。
両ウイングエンジンと背部大型ブースターの爆発的加速で突っ込んで来るが、
カナトは完全に見切り、サイドステップで回避する。


「速度はクルード並だが、やっぱり動きが単調だな、そう何度も喰らってたまるか!」
「へぇ、さっきのはまぐれじゃなかったらしいな!」


フェンリルは旋回し、再びクルードに迫り来る。
クルードはビームライフルのサイドグリップを握り、狙いを定めた。
撃ち込んだビームの軌道は回避不能の直撃コースを画く。
だがフェンリルは直前に背部ブースターを直角に転換させ、強引に真横へ回避する。


「今のを避けた!?」
「ぐぅっ・・・直線だけがこいつの動きだと思っちゃあ困るぜ!」
「機体にもパイロットにも相当な負荷の筈なのに・・・無茶苦茶な奴だな!」


更に強引な方向転換でクルードに飛び掛かる。
咄嗟に回避するが、フェンリルの膨脛に接触した左肩の装甲がまるで無数の刃で斬り裂かれた様に破壊される。


「装甲にも刃が・・・!?」
「今のは取って置きだったんだが・・・まぁいいや、次で決めてやろうじゃねーか!!」


一方、二機のバクゥとシルバのディンは互いの攻撃を悉く回避し続けていた。


「くぉんのぉ・・・一発も当たりゃしねぇなんて有り得ねぇだろうが!!」
『そりゃあこっちの台詞だー!』
『ツギハギトンボの癖にィ!』
「てめぇらまでツギハギ言うんじゃねぇぇぇ!!」


敵パイロットの一言に激情したシルバは所構わずミサイルランチャーを撃ち込む。



「次で決めて俺の物にしてやるぜ、純白さんよォ!!」
「くそっ、何か攻略法が有る筈・・」

「「?!」」


向かい合う二機の間に突然爆発が生じる。
シルバのディンが外したミサイルの一発がこちらまで飛び込んでいたのだ。
爆風で巻き上がる砂の粉塵は二人の視界を遮り、互いに姿を見失った。


『あぁん?これで隠れたつもりか・・・甘ぇ、これで終わりだァ!!』


フェンリルは躊躇なく砂煙の中に飛び込み、前面に向いたビームサーベルが粉塵の中の一点を貫く。


「っし!手応えあ・・!?」


ビームサーベルの先端が貫いていたのはクルード本体ではなく、ビームライフルだった。
ライフルは直ぐさま爆発し、至近距離での衝撃でフェンリルのセンサーにノイズが走る。
レイトが怯む間もなく、クルードが振り下ろした重斬刀の刃はフェンリルの首を斬り落とした。


「なっ!?くそっ・・・引き上げだ!」
「トドメだッ!!」


右手に握ったシュベルトラングを逆袈裟に斬り上げ、胴体を真っ二つに両断する。

レイトは寸前に飛び出し、引き上げる部下のバクゥの背中に飛び乗る。
二機のバクゥはチャフスモークを放ちながら砂漠の向こうへ逃走して行った。


『敵機パイロットの脱出を確認、追撃しますか?』
「いや、後始末は地元の部隊に任せて、俺達はカーペンタリアに急ごう」
『あぁ!?これで終わりかよ!?』
「敵機の一つも墜とせなかったお前が言うか?」
『うっ・・・あっ、逆転出来たのは俺の助けがあったからだろうがよ!?』
「レベッカ、俺達の回収を頼む」
『了解しました、お二人ともご無事で』
『だから俺の話を無視すんじゃねぇぇぇ!!』



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