小説 こにゃん日記

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act.3『劇的シーン?』



劇的シーンという奴かもしれないが、
実をいうと、そんときの桃の顔は覚えていない。
おいらの頭は、桃の持っている白い茶碗でいっぱいだった。
おいらのしっぽがぴんと立ち上がり、まるで武者震いみたいにブルブル震えた。
おいらは声も出さずに鳴きながら(実をいうと声が出なかったんだ)警戒心も忘れて茶碗に飛びついた。
一人前の猫ならみっともないが、おいらはちびの半人前だったし、何より恐ろしいほど空腹だったんだ。
においを嗅いだが、おいらの鼻は熱く乾ききっていた。
そのくせ、ひっきりなしに鼻水がたれて、おいらはべろべろと舐め上げなきゃならなかった。
それでもすぐその茶碗の中身が、ただの泥と苦いどんぐりだけだってのがわかった。
おいらがどんなに悲しかったかわかるかい?
おいらは、わずかな水分を求めてちょっと泥を舐めた。
熱い舌が、驚くほどひんやりした泥に触れた。
 『駄目っ!おなか痛い痛いだよ。』
おいらは、いきなり舐めてた茶碗を取り上げられた。
おいらは必死ですがったけど、
その時桃は立ち上がって、手に持った茶碗を、頭のてっぺんのうんと高いところへ持ち上げ、爪先立ちでおいらから逃げ出した。

 『おかあぁさぁん!』
桃が駆け出したのに、惹かれるようにおいらも追いかけた。
 『あっ!猫だ!』
 『猫だ!猫だ!』
周りの人間の子供たちが、おいらに気づいて追いかけてきた。
桃を先頭に、おいらと人間の子供たちが、グルグル公園を駆け回った。
まるでさっきの鳥かごみたいに。
おいらの頭もグルグルして、もう何がなんだかわからなかった。



act.4『桃のママ』 に続く






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