小説 こにゃん日記

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act.4『桃のママ』



桃が逃げていった先には、葉を落とした大きいばかりのいちょうの木があって、
その木の下には、この小さな公園でひとつだけのベンチがあった。
そこには大きい女の人がいて、
いきなり飛び込んできた、どろんこだらけの桃を抱きあげた。
それが桃のママだった。
うしろからおいらを追いかけてきた子供たちは、
桃のママを見て、ちょっと決まり悪げに立ち止まった。
 『この猫。あなたたちの猫?』
ママが声をかけると、子供たちは順番に首を振った。
ママは桃を下ろすと、おいらの背中を優しくなでた。
 『ずいぶん痩せているわね。それにずいぶん泥だらけ。』
おいらはもう逃げる気力もなかったから、そのまま手のひらに包まれて持ち上げられても、弱々しくもごもごしただけだった。
手のひらの思わぬ温かさに、喉のおくが自然にごろごろという音を立てた。
 『迷子かしら?』
困ったようなママの言葉に、一人の子が、
 『おとといもその猫見たよ。』といった。
 『捨て猫だよきっと。』

そう、おいらは誰かに捨てられたんだ。



act.5『おいらは空を飛んだんだ』 に続く





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