小説 こにゃん日記

小説 こにゃん日記

act.14『ごろごろだよ』



 『山野さんどうぞ。』
熊がまた、ガラス戸のところから顔を覗かせていた。
ママはそわそわと、おいらを抱きかかえて、熊の横のドアを開けた。
おいらは目をぱちくりさせた。
そこは、さっきおいら達がいた部屋と、あまり変わらないくらいの狭い部屋だった。
部屋の真ん中には、大きな長細い台がでんと置いてあった。
部屋の壁には棚があり、小瓶やはさみのような物や、なんだかよくわからないものが、たくさんごちゃごちゃと並んでいた。
その横には小さな冷蔵庫。
横にはパイプ机が置いてあって、その上にもごちゃごちゃと、いろんな本や雑誌や紙を束ねたもの、ちびた鉛筆、蓋のないボールペン、ゴルフボール、テッシュ、齧りかけのチョコなんかがおいてあった。
熊はギイギイ音をさせて、座っていた椅子をぐるりと廻しながら聞いた。

 『どうしました?』
 『あの・・・この猫拾ったんですが、具合が悪いらしくって下痢をしてるんです。』
ママはおいらを、セーターの中から出して台の上にそっと置いた。
 『ふむ・・・それでどうするね?』
熊は、おいらの腹を持ち上げるような仕草をしながらママに聞いた。
 『あの・・・治療していただきたいんですが。』
 『治療してそれでどうするね?』
 『は?あの?』
 『飼う気もないのに、治療しても仕方ないだろう?』
ママはびっくりしたみたいだ。
 熊がママを苛めてる・・・そう思って、おいらは熊に爪を立てた。
 『痛いッ!』
熊の手に、おいらの鋭い爪の一撃!
熊の手の甲から、たらりと血が流れた。
 やった!ママを守ったぞ!
それなのにママってば、おいらをさっと腕に捕まえると、熊に向かってぺこぺこと頭を下げ始めた。
 『すみませんッ!すみませんッ!』
熊はサッサと傷口に何かを塗りつけて、ばんそこうを貼り付けた。
それから、じろりとママを見た。
 『あんた。自分のことしか考えてないね。』
ママは、その言葉に思わず涙を浮かべていた。
 『本当にすみません。』
 『それでこの猫どうするの?』
ママは、熊の目を見ながら確かにこういった。
 『この子の飼い主を探します。飼い主がいないようでしたら、私が飼います。』

熊はもう一度ママを見ると、ふんっといった。
 『じゃ。見ようか。』
熊はおいらの前足を、ママに押さえつけるように言うと、
おいらのお腹を揉んだり、黒いチューブの付いた銀色の丸いものを、おいらの胸に押し当てたりした。
それから、失礼にもおいらのお尻に、何か細い棒のようなものを突っ込んだんだ。
おいらは暴れようとしたけど、しっかり押さえられていたので、にーにー抗議の声を上げられるだけだった。
 『ふむ。熱があるな。それに目やに。鼻水。腹も壊してるっと・・・風邪だな。』
 『あの・・・肺炎とかそういうことは?なんだか時々ゼロゼロ言っているみたいなんですが。』
おいらはぽかんとした。
熊はあきれたようにママを見て鼻で笑った。
 『あんた。今まで猫と接したこともないのかね。それは喉を鳴らしてるんだよ。喜んでいるんだ。』
ママはとたんに真っ赤になった。
 『ハア、触ったのは初めてで・・・そうですか、喉を鳴らしていたんですか。』
熊は、机に向かってごそごそと何か探し始めた。
 『あった、あった。これに飼い方が載っているから、これを読んでおいたほうがいい。』
そういって薄い小冊子を差し出した。

それから熊は、おいらを飼うのに気をつけることをたくさん言った。
おいらは生後約2ヶ月だということ。
離乳食で大丈夫な事。
ミルクは猫専用のを買うか、牛乳だったら、低脂肪乳をいったん沸かしてから人肌にして飲ませること。
葱とあわびはご法度なこと。
ママは一生懸命聞いていた。
 『ま、たいていの事はそれに書いてある。』
熊は他にもおいらの飲み薬やら目薬なんかを出してきた。
ママは丁寧にお礼を言うと、おいらを抱いて病院を出た。
家に帰る道々、ママはおいらに言った。
 『怖い先生だったね。でもいろいろ教えてくれて助かったよ。』
 『に~。』

ママは、それからたくさん猫の飼い方の本を、図書館で借りてきたけど、それはまたこんどの話。


act.15 『みんなで踊ろう』  に続く






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