小説 こにゃん日記

小説 こにゃん日記

act.24『にゃ~ん』



おいらが嫌いな事。
それはお腹が空く事だ。

桃が、がさごそ音を立てると、突撃~っ!
おいらは桃の持っていた袋に顔を突っ込んでぱくっ。
おやつのポテトチップスだった。
 う~んしょっぱいよ~。
パパがキコキコ音を立てると、おねだりスリスリ。
パパはおいらに缶詰の中身を分けてくれた。
お酒のおつまみの燻製たまごだった。
 むしゃむしゃ・・・なかなか珍味だな。

この間はママが、なんだかお鼻がひくひくしちゃうくらい、すッごく面白い匂いの物をお皿に入れて持ってきた。
 おいらにかな?おいらにかな?
おいらワクワクしながら、おとなしくお座りして待ってたんだ。
でも、遊びに来ていたママのお友達が、いただきますってそのお皿を持ち上げた。
 それおいらんだよ!
おいらはその人の持っていたお皿に、ぴょんと飛び乗った。
ママのお友達は、お皿を持ったまま口を開けて固まっていた。
おいらその隙に、ぺろっとお皿の中身をなめちゃった。
 うひゃ~~~ッ!!
おいらはぞくぞくってして、あわてて飛びのいたよ。
だって、だって、舌がひりひりする、眼もしぱしぱするものだったんだ。
 『こにゃんッ!!』
おいらはにーにーママに慰めてもらいに行った。
 ママ~辛いよ~ッ!
それなのにママはおいらの事をぺシッてぶつんだよ。
おいらは驚いてちっちをおもらしちゃうところだった。
ママはぷんぷん怒った顔をしていた。
おいらはママの手が届かない、食器戸棚に飛び乗ると、そこからこっそりママたちの様子を見てた。

ママはお友達にごめんなさいをして、代わりのご飯を持ってくるところだった。
 おいらには何もなし。ひどいよ。
 『ふふっ。怒られちゃったね。駄目だぞ。』
おいらがママに気を取られていたら、後ろからママのお友達がおいらを覗いていた。
 怒られるッ!おいらはぎゅっと眼をつぶって耳を伏せた。
おいらの頭に手がのせられた。
 おいらをぶつの?
おいらは体を伏せて、そのままじりじり後退しようとした。
そしたらふわふわって、おいらの頭にのせられた手はそっとおいらをなでたんだ。
それからあごをすすすって降りてきたと思ったら、喉をこちょこちょ。
おいら、ぎゅっとつぶってた眼を、こっそりそうっと開いて薄目で見たんだ。
おいらの目の前いっぱいに顔があっておいらびっくりさ。
ママのお友達は、椅子に乗って戸棚の上のおいらを見てたんだ。
おいらはその人に、そっと抱き上げられちゃった。
おいらね。実をいうと人見知りが激しいんだ。
ママとパパと桃は平気なんだけど、人間ってちょっと怖い。
でも、その人はなんだか安心するにおいがした。
 『うちにもね。猫がいっぱいいるんだよ。こにゃんより小さい猫もいるよ。』
おいらを膝に乗っけてなでながら、その人はにっこり言った。
その人はママより、おいらのなで方をよく知ってるみたいだった。
耳の後ろをこちょこちょ。首の周りをぎゅっと握るように掴んだり揉んだり。
いつのまにかおいら、お腹まで出してあちこちなでなでしてもらっちゃった。

 『ごめんね。しつけが悪くって、はいどうぞ。』
ママが持ってきたご飯はカレーって言うんだって。
おいら心配だったよ。
だってカレーって辛いし、舌がびゃ~ってなっちゃうんだよ。
でもその人は、美味しい美味しいって・・・変なの。
それからママには内緒でこっそりと、おいらにサラダに乗っていたサーモンって言うお魚くれたんだよ。
 おいらすごく嬉しくなって、うにゃ~んって鳴いたんだ。
ママがおいらを驚いたように見たので、おいらビクッとした。
 『こにゃん。初めてニャンて鳴けたね。』
ママはもう怒ってないみたいだった。
 『昨日までにーにーとしか鳴けなかったのよ。』
 あれ?おいら今ニャンて言ったの?
おいらは試しにもう一度、にゃ~んって鳴いてみた。
 ほんとだ!おいらちゃんと鳴けるよ。大人の猫みたい。
おいらはいつのまにか、ほんの少し大きくなっていたんだ。

 おいらは大きくなったら、誰よりも強くなるんだ。
 ママもパパも桃も守れるくらい。
 おいらはもう赤ちゃんじゃないぞ。
 おいらは少し賢くなった。
 おまたそうじも、ちゃんと転がらずできるし。
 カーテン登りもお手の物さ。
 それからね。
 もう、ご飯を盗み食いしたりしないよ。
 ほんとだよ。
 だっておいら、お兄ちゃん猫なんだもん。

おいらはその晩、小さい小さい猫と一緒に遊んであげる夢を見た。
並んで走るおいらとちび猫は、おそろいのしましまシッポだったよ。


act.25『おいらと銀の鈴』  に続く






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