小説 こにゃん日記

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act.33『長い長いおいらたち』



土管の上の黒猫はなんだかかっこよかった。
公園のあちこちにいる猫の耳が、ぴんと黒猫の方を向いているみたい。
『この中に自分の子供と生き別れになってる雌猫はいるか!?』
黒猫は声を張り上げた。
黒猫の言葉にのっそり立ち上がった影や、にゃう!と鳴いた影。
おいらしっぽの先がプルプルした。
黒猫はおいらに、
『ちび!こっちに来い!』と怒鳴った。
おいらが土管の前まで来ると、黒猫はぐるりとあたりを見渡して言った。
『こいつは母ちゃんを探してるんだ。見覚えのある奴はいないか?』
そうしたらおいらいつのまにか、雌猫たちにもみくちゃにされていたんだ。
たくさんのママ猫が、おいらの匂いをふんふん嗅いだり、おいらのしっぽの先まで丁寧に調べてまわった。
ころんってころがされて、おなかの匂いを嗅がれて、おいらくすぐったくって、ジタバタしちゃった。
おいらなんだか幸せだった。
おいらと同じしましまの猫もいて、鼻の頭を舐められた時はドキドキだった。
でもしばらくすると、1匹、また1匹と、みんなおいらから離れていっちゃった。
『うちの子と柄が違うわ。』
『私の子はもっと小さいよ。』
『女の子じゃないんだね。』
そんな声が上がった。
『いないか・・・。』黒猫は気を落ち着かせるように、前足でくるんと顔をぬぐった。
こんなにいっぱい猫がいるのに、おいらのママはここにはいないの?

『その子迷子なのかい?』
スマートなシャムネコがひげを舐め舐め聞いてきた。
『飼い主はいるんだよね?』
おいらの首輪を見てあごをしゃくった。
『おいら人間のママとパパと桃と暮らしてるの。』
おいらはみんなに、どうやっておいらが拾われたかお話して、ママを探してるんだって説明をした。
『うちに帰した方がいいよ。母猫探しは諦めてさ。』
しっぽの短い三毛猫が言った。
そうだ、そうだという声があちこちで上がった。
おいら思わず泣きべそをかきそうになっていた。
『こにゃんお前、どこで拾われたんだ?』
みんなの声を遮るように、忍者猫が聞いてくれたんで、おいら涙をぐっと飲み込んだ。
『すごく大きなイチョウの樹のある公園なの・・・ブランコとぐるぐる回るのがあるんだ。』
おいらはがんばって思い出そうとした。
『車でこの町内に来たのかい?』
もじゃもじゃのおばあさん猫が聞いた。
『違う。おいらママの自転車に乗ってきたんだ。』
『だったら、そうは遠くないな。』
忍者猫は首をひねった。
『え~と。え~とね。ママが言ってた。緑の原っぱ公園だって。』
おいらはにくきゅうから爪がはみ出ちゃうくらい、ぎゅうって足を踏ん張った。
『緑ヶ丘公園じゃないのか?!』
そう言ったのは、まるで鬘でもかぶってるみたいな黒いブチを頭に乗っけた白猫だった。
『そうだ。あそこには大きなイチョウの樹がある!』
黒猫が土管の上で飛び上がった。
『行ってみよう!』
黒猫がそういうと、あちこちで寝そべったり、座ったりしていた猫たちが一斉に立ち上がった。
みんな付いてきてくれるの?
おいらのママを探してくれるの?
灰色猫がひゃひゃっといやな笑い方をしたけど、それからめんどくさそうに目を閉じた猫もいたけど、たくさんの猫たちが、おいらについて来てくれたんだ。

おいら達は月の光の下を一列に並んで、公園に向った。
一番先頭が黒猫でその次がおいら。
おいらの後ろには忍者猫としま姉さんもいる。
おいらが振り返るとトラ猫さんがうなずいてくれた。
お月様はまんまるでちょうどおいらの真上にある。
おいら達の影が歩道に落ちて、なんだか長い長い不思議な生き物みたいに見えたんだ。


act.34『月猫』  に続く





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