小説 こにゃん日記

小説 こにゃん日記

act.35『悪い猫』



おいらがうろうろと公園を歩いている間。
トラ猫は目をつぶって、ベンチの上に寝そべっていた。
もしかして寝ちゃったのかな?
そう思って、おいらがこっそり公園を抜け出そうとすると、まるでそれがわかったかのようにトラ猫の眼が開く。
おいらはなんでもないよと言う顔をして、こそこそと、ベンチのそばに引き返した。
おいらは眼を細めて、公園の入り口を見つめた。
だあれもこない。
おいらのひげがだらりと垂れた。

『こにゃん。こっちいらっしゃい。』
トラ猫に呼ばれて、おいらはベンチの上にひらりと飛び乗った。
『夜になると、肌寒いわねえ。』
トラ猫はそういいながら、おいらを前足でクルンとひっくり返すようにして、自分のほうへ引き寄せた。
あったかい・・・。
おいらの鼻の中に、ふわふわの胸毛が入ってきて、おいらはくちょんとくしゃみした。
トラ猫のしっぱがおいらにクルンと巻きついた。
トラ猫は、ほわほわして、懐かしいような、しっぽの辺りがさわさわするような、それでもって、なんだか泣きたくなるような匂いがした。
『私にもね。子供がいたのよ。』
トラ猫はぽつんと言った。
えっ?トラ猫もママ猫だったんだ。

『でも、もういない・・・。』
『どうして?どうしてママと離れ離れにならなくっちゃいけなかったの?悪い子だから?』
おいらも悪い子だから捨てられたんだろうか?
おいらが泣きそうな顔をしていると、トラ猫は温かい舌でおいらの眼をぬぐった。
『子供たちはみんな良い子だったから、やさしい人に貰われていったの。
今でも時々子供たちの元気な写真が届いて、ご主人様が私にも見せてくれるわ。』
そういいながら、トラ猫は笑って見せたけど、なんだか寂しそうだったから、おいらは思わずトラ猫にしがみついた。
『こにゃんは優しい子ね。』
トラ猫はそう言ったけど、おいらはきっと悪い子なんだ。
だから、いらない子だから捨てられちゃったんだ。

おいらとトラ猫は静かに抱き合っていた。
『こにゃんは、今、幸せ?』
トラ猫が、しょんぼりしたおいらを覗き込んで聞いた。
幸せ?おいら幸せなのかなあ?
『おいらね。ママと、パパと、桃と暮らしてるの。
ママはね、おいらをダッコしてくれて、美味しいご飯をくれるの。
パパはね、おいらをこちょこちょって、すぐくすぐるんだよ。
それでね。桃はね、おいらを蹴っ飛ばしたりして、でもねおいらも引っかいたりして、喧嘩するの。』
おいらが一生懸命説明すると、トラ猫は微笑んだ。
『そうなの。こにゃんは幸せなのね。』
ママもパパも桃も大好きだよ。
トラ猫も、忍者猫も、みんなみんなおいらに優しくしてくれる。
おいら幸せなんだ。
『でも、おいらママ猫も欲しいんだよう。』
おいらは、とうとうにゃーにゃー泣き出してしまった。
おいら男の子だけど、もうちっちゃな赤ちゃんじゃないけど、だけど、やっぱりママ猫がいるんだよう。
トラ猫はゴロゴロとおいらの鼻や、目や、顔中を舌でぬぐっていた。


act.36『会いに行こう』  に続く



© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: