小説 こにゃん日記

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人魚姫(act.10)



   『人魚姫』act.10

覚えているのは、互いの荒い息が、凍えそうなほど白かった事。
苦しさと、熱と、背徳の快感と、侵食されていく恐怖。
義姉の突然の行為に、最初は抵抗していた私だったが、思春期の肉体は悲しいほど、欲望に忠実だった。
あっけなく義姉に欲望を解き放たれ、気がつくと私は、うめきながら、義姉の中に自身の熱を放出していた。
熱を分かち合いながらも、それよりも強く、相手から奪うことだけを目的とした行為。
私たちは、お互いの体をむさぼる事で、相手の中にある『兄』や『夫』を奪おうとしていた。

それは一夜限りの事だったが、たとえまがい物であろうとも、『家族』いう関係を、根本から断ち切った出来事だった。
私たちはそれからも、兄の前では『家族』を演じ、だが互いに対しては、もはや憎しみを隠そうとは思わなかった。
それは妙な同士意識さえ生み出していた。

そしてまだ浅い春。
義姉が妊娠したことが解った。
その時の私の動揺は、今思い返してみるとこっけいなほどだ。
まぶしいほどの笑みを浮かべた兄と、兄に寄り添う幸せそうな新妻の姿。
とても悩みをひとりで抱える事ができず、私は義姉に激しく詰問した。
お腹の子は、私の子ではないかと。

『貴方やっぱり子供ね。』
義姉は鼻でせせら笑った。
『私は医者の娘よ。自分の安全日ぐらい解ってるわよ。
万が一にも、貴方の子供なんて生みたくないの。』
私は、ほっとしながらも、それでも兄の幸せそうな顔を見るたび、今まで感じていた義姉に対する嫉妬とはまた別に、兄に対する怒りまで浮かんできて心みだされた。
決して、体の関係を持ったから、義姉に愛情を持ったわけでも、所有欲に駆られたわけでもない。
兄に対する罪の意識におののきながらも、何も気づかず、ひとりで『幸せな家庭』を信じている幸福な兄が、どうしようもなく私をいらだたせたのだった。

そしてすぐ、私は高校に進学し、兄のそばから離れていった。
兄はマメに手紙を書いてくれた。
休みには、顔を見せるようにと、繰り返し電話もかけてきた。
だが私は、手紙や電話では連絡をとっていたが、ほとんど家には帰らなかった。
せり出していく義姉の腹など、兄との愛の結晶など見たくもなかった。
そうして、寮の周りを囲むかえでが、燃えるように赤く色づく頃。
私が15の秋、美祐が生まれたのだった。

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