小説 こにゃん日記

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星を統べるもの6


『うがあ!』
俺は、空に向かって吼えた。
『ついてくんな!空とぶな!』

学生服を着た俺の上に、天使のような双子がふよふよ浮かんでいる。
朝日を受けて金の髪が、後光のように輝いている。
どこかのばあちゃんが道端で、俺たちを見てなぜか念仏を唱え始めた。
口をぱかっと開けたまま固まっているサラリーマン。
必死になって目をそらしながら、足を速めるジョギング中のおやじ。
携帯で写真を撮ろうとするOL。
恋愛相談をしようと殺気立った女子高生たち。
この出来事は、今日の株価に影響があるかと心配する、ランドセル姿の小学生。
どこからか電波を受信しだす前世の戦士。
騒ぎを聞きつけ駆けつけたおまわりが、双子を見たとたん、キャー嘘マジで?と身もだえ始めた。
ポチはワンワン。タマはニャンニャン。
あ~うるさい。俺は低血圧なんだよ。

学校にようやく着いた俺は、今日一日分の気力をすでに絞りつくした気分だった。
まるでモーゼのように、生徒たちの群れを分けながら俺が校内に入っていくと、生徒指導の武田が腕の筋肉をモリモリ振り回しながら走ってきた。
『おい!関係者以外は校内立ち入り禁止だ!』
問題はそこかよ。
『私たち家族です。』
にっこりとミーアが微笑んだ。
『お前の弟妹か。』
『俺とは縁も縁もないただのエイリアンです!』
俺がきっぱりと告げると、武田はさっと、ジャージの胸元に手をやった。
な、なんだ?武器でも出そうっての?
武田が出したのは小さな黒皮の手帳だった。
『え~と。校則によるとエイリアンの立ち入りは・・・。』
うなり続ける武田を置き去りにして、俺は教室に入った。双子付で。

とたんにワッと女子に取り囲まれる。
『うわ~可愛い。』
『天使みた~い。』
正体は悪魔だ。
『ねっねっ!高遠君。これどうしたの?』
『・・・拾った。』
『いや~ん。私も欲しい。』
いつでも譲るぞ。
女の子たちは、双子の頭を撫でたり、抱きしめたりと夢中だ。
これが、犬か猫だったら微笑ましいのだが。
見た目だけで言えば、天使のような子供たちを抱いた女子高生の図は、まあ微笑ましいといえるのだろうけど。
『ね?エイリアンてほんと?』
さっき武田に俺が言った言葉が、もう伝わっているのか?
『石田を伸しちゃったってほんと?』
うわぁ~女の情報網ってどうなっているんだ?
各国のスパイは、女子高生を使うべきじゃないのか?
『岸本先輩と石田が高遠君に交際を迫ったって。』
『え?私が聞いたのは、石田と岸本先輩が由紀君を賭けて争ったって。』
『石田が由紀君を、もてあそんでやるって叫んでたそうだけど。』
前言撤回。こいつらにかかったら、即、国交断絶だ。

『何時まで騒いでるの!チャイムはとっくに鳴ったわよ!』
担任の桃井が、むっちりとしたタイトスカートの腰を振り振り、教室に現れた。
白いブラウスからこぼれそうな胸がぶるんとゆれる。
『ふうん。これが噂のエイリアンちゃんたちね。』
ケロヨンを胸の谷間に抱き込むと、
『将来が楽しみだわぁ。』
真っ赤な唇が、今にも舌なめずりしそうだ。
『今から私好みの美少年に育てて・・・。』
『私たちを育てるのは、お父様よ!』
桃井と、ミーアの視線がバチバチとぶつかった。
『先生!』
ドアの近くにの席に座っていた一人の男子が声を上げる。
『もう1時間目の授業始まりますが。』
おどおどと、ドアの影から数学の吉住が覗いている。
『あら。失礼。』
おほほほ~と笑いながら、桃井は窒息寸前のケロヨンを離して、教室を出て行った。
今日の朝のHLはこれでおしまいというわけだ。

『そ、それでは授業を・・・。』
吉住は、チョークを黒板につけたとたん、ばきばきと折った。
『し、失礼。』
ますますあせって、額の汗を手の甲で拭く。
『せぇんせえ~質問していいですかぁ~。』
足を投げ出し机の上で組んだ、がたいのいい男子が、わざとらしい丁寧語で質問する。
『教室にぃ生徒でもない者がぁ、勝手に入っていいんですかぁ?』
吉住は、どうやら聞こえないふりを決め込んだらしい。
とたんに質問した奴の声がドスを帯びた。
『よぉ!質問してんだよ!!』
びくんと脅かされた兎のように、飛び上がった吉住は、いきなり俺にチョークを向けた。
『た、高遠君。か、関係のないものは、即刻、教室を追い出しなさいっ!』
双子の瞳がきらりと煌めいた。



『星を統べるもの』7 に続く






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