小説 こにゃん日記

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星を統べるもの7


とっさに叫んだ俺に、吉住はびくんと首を引っ込めた。
間一髪。
光と熱が、吉住の頭の上で炸裂した。
はらはらと灰になった髪が舞い落ちる。
『ワ、ワ、ワ・・・。』
瞬時に中剃りをいれられたキンパチヘアは、断髪された時代劇の侍のようだ。
アワアワと、白目をむきかけている顔は、恐怖と無念で引きつっている。
『『チッ!はずしたか(わ)。』』
両手を重ね合った双子のハモル声が残念そうだ。
『やめろって言ってるだろ!』
俺はミーアを右手で、ケロヨンを左手で左右掴んで引き離した。
『備品を壊すんじゃない。黒板が窪んじゃったじゃないか!』
黒板の中央が見事にへこんで、プスプスと焼けるにおいがする。
『『はあ~い。』』
双子はしょぼんと俯いた。
『何を騒いでいるんだ。』
ばたばたガラガラと、教室のドアが開けられる。
それから先は・・・思い出したくもない。

放心状態だったクラスメイトは騒ぎ出すし、誰かが押したのか非常サイレンが鳴り響く。
地震だ。火事だ。ゴジラの襲撃だ。
教師も生徒も阿鼻叫喚。
屋上での騒ぎが噂になっているようだったので(かなり現実と違っていたとしても)これほどの騒ぎになるとは俺も思わなかった。
外では、何を勘違いしたのか、年配の警官が
『故郷のおふくろさんも泣いているぞ。』
と、スピーカで双子の説得を試みている。
バックには夕焼け小焼けの歌を合唱する警官たち。まだ朝だっての。
『そういや。お前たちの親って・・・。』
『僕たちのママンは、サターン星の軍曹だよ。』
『父は専業主夫よ。』
双子たちは、学食からの出前のカツ丼を食べながら、元気よく答えた。
まだ昼には早いんだけどな。
教室には、俺たちだけ・・・のはずが、なぜか数人が残っている。
『何で逃げないの?』
聞いてみたところが、
『けっ!めんどくせ~。』
というのは、まだしもとして。
『面白そうだから。』
というのはどんなものだろう?
『あっそ。』
おかげで俺たちは、すっかり人質を取った立てこもり犯だ。
しかも未知との遭遇だ。
自衛隊とかアメリカ国防省とかやってきたらどうしよう?

『なあお父様。学校って勉強するところじゃないのか?』
カツ丼を食べ終わったケロヨンが、キョロキョロと辺りを見渡した。どうやら退屈になったらしい。
『そうだけど、お前らが教師を追い出したんだろうが?』
一人は黒板の前に残っているけど、まだ白目剥いたまんまだし。
『そうだ。校内を案内してあげようか?』
恐れる様子もなく、相沢が双子の頭に手を置いた。
『ほんと!?』
双子がぴょんと相沢に抱きついた。
いっぺんに抱きつかれてふらつきながらも、相沢は嬉しそうだ。
『ただし、さっきみたいな乱暴は駄目よ。大人しくしているんなら。』
『『はぁい。』』
『駄目だ。』
冗談じゃない。信用できるものか。
『え~どうしてぇ?』
お前ら。今の状態を解っていないだろう?
『そんなことしている場合か!俺たちは犯罪者になっちまったんだぞ!』
『黒板を壊しちゃったから?』
『ケイローン。屋上もよ。』
『違う!・・・いやそうなんだけど、違うんだ!!』

『早い話が、お前らがエイリアンだからだよ。』
まだ机に足を投げ出したままだった男子が、つまらなそうに言う。
『地球人は差別意識の塊だからな。人種差別どころか、同じ日本人同じ学校の生徒だって、ちょっとばかし他と違うだけで嫌われるんだよ。ましてエイリアン?はっ。』
双子が相沢のスカートを握り締めながら、不安そうに俺を見上げた。
『地球人はエイリアンに慣れていないだけだよ。・・・その・・・食わず嫌いみたいなものだ。』
双子の顔がぱあっと明るくなった。
『俺、俺っ!好き嫌いないぞ!』
『ケイローンはね。』
『俺、小さい頃カバヤキが苦手だったけど、今は大好物だぞ!ヒポポカバの丸ごと一頭だって食える!』
カバヤキって・・・。
『要するに、私たちがエイリアンだってことがまずいのね。』
ミーアが考える顔になった。
それから、ケロヨンの耳たぶに細い指を伸ばす。
カチッ!
かすかな音がした。
ミーアは、自分の耳たぶのイヤリングもカチカチと回し始めた。



『星を統べるもの』8 に続く






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