麻衣ちゃん家の事情?

麻衣ちゃん家の事情?

お暇な方だけ読んでね♪



目が覚めたら、ミルク色の霧に囲まれてた。ねっとりと絡みつく、気持ち悪い霧だった。咄嗟にあたしは「霧に捕まる!」って走り出した。何がイヤだったのか分からないけど、この霧に捕まるとろくな事になりそうになかったから。必死になって走ったら、やっと、光が見えて来た。思い切って、光に飛び込んだ。
息を継ぎながら、後ろを見ると、霧が後ろで渦を巻いている。なんとなくゾッとした。

「真っ青な顔してどしたん?」イキナリ声を掛けられて、ビクッとして顔を上げたら、八歳くらいの男の子と、その弟だろうか、五歳位の男の子が目を丸くしてあたしを見てた。いつの間に来たんだろう?今飛び込んだ時には見えなかったような気がしたけど。
「霧が…」と呟いた時
「どうしたの?」
白いエプロンをした、四十歳位のおばさんが、声を掛けてきた。このおばさんもいつの間に来たんだろう?
「あっ、か~ちゃん」
「あら?顔色悪いわね~まあ、こっちに来なさい」
子供二人に手招きしながら、おばさんはあたしの手を引いた。
「とにかく家で休んだら?」
と、おばさんについて行ったら、普通の一戸建ての家が見えた。とりあえず休ませて貰おうと、中に入って、椅子に座ってると、おばさんが熱いお茶を淹れてくれた。

「か~ちゃん、僕、船の方に行ってくるよ」と、八歳位の男の子が走って行った。その後を、弟らしき男の子が追って行く。
お茶を飲みながら、なんとなく落ち着いてきたので、おばさんに
「ここって何処なんでしょう」
「何処ってね~ここは、○○の港よ。分からないで来たの?そおいや、船が出るって聞いてないな~まあ、毅と、義夫が見に行ってるから、休んでなさいよ」
○○の港って…家の市の港の名前だ。こんな感じだったかな?あんまり来た事無いから自信ないけど、ここまで古い施設じゃなかった気がするな…
頭の中で考えを反芻しながら、なんとなく聞いてみた。
「ここ、おばさんと子供さん二人で住んでるの?」
「お陰さまで旦那は元気なのよ」
「??」
さっきからなんか訳の分からない事ばっかり。目が覚めたらイキナリ霧に囲まれてるし…慌てて走って出た所は知ってるんだか知らないんだか、分かんない所だし。頭痛いなあ~
こめかみをもみもみしてると、さっき走って行った、毅君と、義夫君兄弟が帰ってきた。
「かーちゃん、船は出ないってさ」
くるっと振り向いて、あたしの方を見た。
「あたしは、氏家聡子ってゆうの。こっちは毅と義夫。八歳と六歳の兄弟よ
あんたは?」
「南条優子。26歳です」
「優子さんか…」
聡子おばさんは人の良さそうな笑みを浮かべて、エプロンで手を拭いた。
「どうなってるかは、もう少し待たないと、あたしにも分からないから、とりあえず、今日は泊まって行きなさい。毅、義夫。おかーちゃんは今から、優子さんが泊まる所を作るから、船でも見せてあげてなさい」
「うん。こっちだよ」
毅君が走り出した。義夫君があたしの手を握った。つられて、あたしも走る

「見えた?」
息を呑んだ。想像してたより大きな船。あの港にこんな大きな船を見た事、無いな…なんで、こんな大きい船が…
「この船何処行きなの?」
「さあ…」
毅君は困ったように笑った。甲板の方から声が聞こえるので「誰か乗ってるの?」と聞くと「乗らないと動かないでしょ?」と、義夫君がくりくりした目で言った。
「毅君、義夫君。さっきも言ったけど船は出ないよ」
見上げると若い女の人が(あたしと同じ位)甲板からこっちを見下ろしていた。あたしに気付くとにっこり笑って
「貴方が迷子さんね。こんにちは。私は、近藤真理。貴方は?」
「優子です。南条優子」
「優子さんね。とにかく今日は船は出ないから、聡子おばちゃん家で泊まるといいわ。船が出るようになったら、迎えに行くからね」
そう言った後、ぼそりと「出ないほうがいいんだけどね」と呟いた。

とにかく何処に行くにしてもあの霧の抜けるしかないのが分かったし、船も出ない限り、聡子おばさんに泊めてもらって考えるしかない。不思議と、親に連絡しないといけないなとか心配してるなとかは思わなかった。

「あら、いらっしゃい」
聡子おばさんの家で、ご飯を食べてお風呂に入って、一晩ゆっくりと寝て、のんびりとお茶を飲んでると、35~6歳の女の人が入って来た。毅君がいぶかしげな顔をして、あたしとその女の人を見比べてる。
「迎えに来たよ。優子さん」
「あんた誰?」
義夫君が聡子おばさんの後に隠れて、その女の人をしみじみと見てる。
「あたしは、ユーコ。南条優子さんを迎えに来たのよ」
にこにことユーコさんは笑った。聡子おばさんは、驚いた風も無く
「やっぱりねえ~船が出ないってゆうから、どうなる事かと思ったけど。毅義夫。真里さんに、優子さんは迎えが来たよって言っといで」
「えっ?」
「いいから。そお言えば分かるから」
「うん」
毅君と義夫君は船の方に向かって駆けて行った。
「帰ろうね。優子さん」
いきなりぐっ!と手を握られて、慌てて、びっくりして手を払いのけた。聡子おばさんに助けを求めたら、笑ってるだけ。
「聡子おばさん!」
「もしも、○○港に行く事があって、80歳位のおっちゃんがうろうろしてたら、聡子と毅と義夫は、あんたが元気なのを喜んでた。って言っといて。それで分かるから」
「おばさん!」
「大丈夫。よかったね」
聡子おばさんは、にこにこと笑って、手を振った。ユーコさんは頷いた。そして、あたしの手を再び握った。ふと顔を上げると、とにかく笑ってた。霧の方へ向かって歩いていく。あたしは急に恐ろしくなって、その場で立ち止まり、イヤイヤをした。
「この先はイヤ。霧があるの。霧がイヤなの」
「あたしがいるから大丈夫よ。絶対抜けれるから」
「イヤ」
「ここに居てもダメなの!早くしないと、霧から逃げられなくなるよ!あたしの手を掴んで!あたしを信じて!!」
怒鳴られて、また手をぐっ!と引かれる。恐る恐る歩みだす。一歩一歩。霧が絡み付いてきて、息も出来なくなる。
「我慢して!」
泣きそう。吐きそうだし。聡子おばさんの優しい顔が思い出されて、今、入った道に帰ろうとすると、ユーコさんが有無を言わさず手を引いて、ぐいぐいあたしを連れて行く。行きたくない。そっちはイヤ。霧が濃くなっていくし。抵抗するんだけど、ユーコさんは許してくれない。その内、意識が遠のいてきた。
「優子おねえちゃん!聞こえる!!」
遠のきかけた意識がしっかりとしてくる。毅君と義夫君の声だ。
「真里さんが、良かったねって!今度は顔が分らないくらいしわしわになってから来いって」
「あと、百合子って人によろしくって」
毅君と義男君が一生懸命叫んでる。百合子…おばあちゃんの名前だ。そう答えようとしたんだけど、喉に何かが張り付いてるみたいで声が出ない。
「もしも○○港に行く事があって、80歳位のおっちゃんがうろうろしてたら、か~ちゃんはバラの花より、もっと小さい花の方が好きだって言っておいて。いつも無理して高い花を買わなくてもいいって。気にしてるから。」
足が自然に向こうに向かって走ろうとしてる。「だめ!!」ユーコさんがあたしを羽交い絞めにした。また意識がぼ~っとしてくる。

「もう少しだよ!しっかりして!」
ぶん殴られた。あたしは切れた。
「なんであたしがこんな目に遭わなきゃならないのよう!!」
「うるさい!!そんだけ喚く元気があるんなら、しっかりと歩きなさい!時間が無いのよ!馬鹿」
もう一発はたかれた。怒りが湧いてきて、目の前が真っ赤になった。あたしはユーコさんを突き飛ばし、ずんずん進んでいった。もちろん進行方向へ。逃げたなんて言われたくないもん。霧が濃くなって息も絶え絶えだったけどユーコさんにあざ笑われるのがイヤだった。
その内、ふっ…と目の前が、明るくなって、霧がさ~っと晴れた。
「あれ?」
「抜けたね」
ニコニコ笑いながらユーコさんが後から付いて来た。
「あたしって変わってないんだわ」って訳の分からない事を呟きながら。
「最後の仕上げをしないと」
「えっ?」
ユーコさんはいきなりあたしの背中を思いっきり押した。油断してたから、つんのめってすっ転んだ。鼻を擦りむいたかも…ひりひりした鼻をさすりながら、振り返ると、ユーコさんの体が無くなり掛けていた。
「ユーコさん!!体が~~~」
「何、喚いてるの」
首だけふわりと浮いている。なのに顔はニコニコしてる。ぎぃあああああ~スプラッタ~~~
「あたしは大丈夫。また会えるから。だってあたしは…」

「優子!優子!」
ぼ~ぅっとした意識の中で、目を開いた。妙に天井が白い。声のする方に、目を向けるとお母さんがあたしの手を握ってる。
「優子お!!」
ぽたぽたとお母さんの涙が落ちる。弱弱しく笑って見せた。
「今、先生呼ぶからね!待っててね」
バタバタと走っていく。一体何が起こったんだろう?あたし何してるの?
慌てて走ってきたお母さんと白衣の人。お医者さんと看護士さん。脈を取って、あたしに「気分はどうですか?」って聞いてきた。
喉がからから。なにか喋ろうと思うんだけど、声が出なかった。
「貴方は今朝、事故に遭われたんですよ。今まで意識が無かったんです。」
ぼんやりと今朝の事を思い出す。あたしの目線がゆらゆらと動くのを見て
「お母さんもう大丈夫ですよ。良かったですね」
「有難うございます」
水を貰って落ち着いた。
「あたし、事故に遭ったんだね」
「そうよ!今まで意識が無くて、もうダメかと…良かった。」
お母さんがまたさめざめと泣いた。記憶が混乱してる。あの、霧の中の記憶はなんだったんだろ?そう思うと、ふと、真里さんの言葉を思い出した。
「ねえ、お母さん」
「なに?」
「○○港って知ってる?」
一瞬お母さんが息を呑んだ。
「知ってるけど…」
戸惑いがちに答える。
「じゃあ、おばあちゃんにさ真里さんって名前の友達居るか知ってる?25,6歳の」
あからさまにお母さんの顔色が変わった。
「真里!今、真里って言ったわね!!」
お母さんはもう理性が飛んでしまった感じになった。寝てるあたしの肩をがしっ!と掴む。わけも分らずにあたしは頷く。まだ記憶が混乱してるので、お母さんの狼狽振りにあたしは何がなにやら分らなくなった。
「まさか、あんた…でも分るはずが…」
一人でぶつぶつと呟く。あたしは言い訳がましく
「真里さんに会ったんだよ。あたし。○○港で船に乗ってる人なの。別れ際に真里さんが『百合子によろしく』って言ったんだって」
「会えるわけ無いじゃない!何言ってんの!縁起でもない」
お母さんはここが病室だと忘れてるみたいに大声で叫ぶ。あまりのお母さんの豹変にあたしは聞いちゃいけない事を聞いてしまったのだと思った。
「もういいよ。記憶が混乱してヘンな事言っちゃってゴメンネ」
溜息をついてその場は納めた。お母さんの泣きそうな顔が目に焼きついた。

事故から3ヶ月。思ったよりキズが深かったあたしはやっと退院できた。長い間入院していたお陰で、すっかり体の調子は良かった。
「お母さん。どうしても気になるから、○○港に行きたいの」
お母さんは予期していたのか驚きもせず「お母さんも行くわ」と言った。

○○港に着いて、お母さんはすたすたと歩いていく。そして「あんたが行きたい所はここだと思うわよ」と駐車場の隅にひっそりと建っている石碑の前に立った。
なんとなく予測はしていたけどやっぱりそうだった。石碑には
”慰霊碑”と彫ってあった。
「あの時はあんたがホントに危なかった時だったから、お母さんもパニックになっちゃって、何も話せなかったけど、真里さんって言うのは、お母さんのホントのお母さんなのよ」
「えっ??」
「この○○港で船に乗ってたの。40年以上前にね、この港に大きな飛行機が落ちて、爆発したの。たくさん犠牲者が出たわ。切符売りの家族とか、船の整備していた人とか…その中に真里母さんも居たのよ。」
「おばあちゃんは?ホントのおばあちゃんじゃないの?」
お母さんは頷いた。
「真里母さん一人でお母さんを育ててくれてたから、死んじゃった後、親戚の家に引き取られる事になったの。それが百合子母さんの所。話す必要もないと思って黙ってたけど、優子がこの港で真里母さんに会ったって言ったら百合子母さんがホントの事話すべきだって」
優しい百合子おばあちゃんの顔が浮かんだ。
「真里さん…あたしのおばあちゃんだったんだ…だから、今度来る時は、顔が分らないくらいしわしわになってから来いって言ったんだ」
涙が溢れてきた。あたしが事故で危ない時、居てもたってもいられなくなって、きっと助けに来てくれたんだ。
横でお母さんも泣いていた。
「真里母さん、百合子が来たよ。これはあたしの娘の優子だよ。もう知ってるよね。優子にはなにも言ってなかったから一度もこられなくて御免ね。」
百合子??不思議そうに見てるあたしを見てお母さんが笑った。
「真里母さんが言った百合子ってね、多分お母さんの事よ。真里母さんユリの花が大好きだったの。だから娘のあたしに『百合子』ってつけたのよ。」
「でも…」
「今は百合子じゃないもんね。引き取られる時、百合子母さんと偶然同じ名前だったから、おかあさんが名前を変えたのよ。一緒の名前じゃ紛らわしいって。真里母さんは百合子母さんの事そんなに知らないもの」
そうなんだ…真里さんの中では、おかあさんはずっと『百合子』なんだ。
「真里母さん、優子を守ってくれて有難う。お陰でここに二人で来る事が出来たよ」
優しくお母さんがあたしの頭を撫でながら言った。あたしも頷いた。

「あんた達もどなたか肉親を亡くしたのかい?」
二人でぼんやりと碑を眺めていると声をかけられた。振り向くと80歳前後のおじいさんがバラの花束を持って立っていた。あたしは思わずあっ…と呟いて「もしかして氏家さん?」と聞いた。




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