「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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颯HAYATE★我儘のべる
椛:結婚したいの
その日、椛が結婚を宣言した。
当然だが・・・親父の機嫌は超最悪だった。
俺が20歳なら椛も20歳。(双子だから当然だ)
俺だって早すぎると思うし、相手も20歳の若者で大学生となれば誰もが反対するだろう。
親父が怒鳴るのも当たり前だと思う。
あ、一応・・・妹の名誉のために言っておくが「できちゃった結婚」ではない。
それなのになぜ、結婚を急ぐのか――――。
「なんだと!!!」
「だから、祥吾と結婚するから。」
「―――ああ、お前が30歳になったらな。」
親父は冗談だと思ったらしく、笑って答えた。だがそれも一瞬だった。椛は真剣なのだから。
「ふざけないでよね。30なんて10年もあるじゃない。待てても1年よ!」
その答えに疑いを持つのは当然だと思う。親父も例外ではなく・・・
「い、一年って・・・まさか、お前・・・ガキが?」
「はああ?デきるわけないでしょ!!! 私たちまだヤッてないのにぃ!!」
――ヤッてないって、お前は本当に女なのか? 俺は問いただしたくなったが、ここは黙っていた。
親父が興奮している横でお袋は無言、それはそれで怖いのだが。
「そ、そうか・・・良かった。いや、良くねぇ!!!いや、しかし・・・お前はまだ処女なんだよな?」
「―――そうね、私は別にいつでもOKなんだけど、祥吾が煩いのよね。
というか、私の気持ちを疑ってるフシがあるのよねぇ。一時的な感情だと思ってるっていうかね・・・。
私のこの一途な思いを認めさせるためにも絶対に祥吾と結婚するから。」
気持ちを認めさせる・・・って祥吾の気持ちはどうでもいいのか?
俺は呆れて肩を竦めた。俺の頭の中に「似たもの同志」という言葉が浮かんだ。
親父と椛はまさに似たもの同志だ。同じ人間が言い合いをしても解決の糸口はない。これは堂々巡り。
俺はお袋をチラリと見た。まだ小学生の高天と楸はこの場にはいない。
だが、俺の考えに間違いがなければ・・・ドアの外にいるに違いない。―――それはどうでもいいのだが。
「ねえ」
何も言わなかったお袋がやっと口を開いた。これで口論は収まるだろうという安堵と、これをどう解決するのかという好奇心が俺にはあった。
「―――別にいいんじゃない?」
おおっと、これは意外な答えです! お袋は二人の結婚を認めるようです。
「なんだと!!! 椛はまだ20歳だぞ!?」
お袋の答えに対する親父の意見も正しい。そう言うだろうと予測できた。
「―――だから?」
「まだ大学生だぞ!!」
「―――だから?」
「相手は金もないんだぞ!!」
「―――彼なら、卒業したら稼ぐでしょ。英徳で奨学生になれるほどの男なんだから。」
「椛はまだ20歳だ! 子供だ!! 結婚なんて許さない!!!」
親父が顔を真っ赤にして叫ぶと、お袋はただ黙って冷たい視線を親父に向けた。
「日本では16歳で結婚できるけど?」
「16歳で結婚なんて許せるか! 20歳だろうがダメだ! に、妊娠とかしたら・・・」
その言葉にお袋は親父を見据え、切り札を出した。
「私が榊と椛を妊娠したのは20歳前だったわねぇ。そして妊娠がわかった日のことは忘れられない思い出よ。」
お袋がそう言うと親父の顔が真っ青になった。気持ちはわかる・・・普段ならお袋もそのことは絶対に言わない。
親父が後悔しているのがわかっているからだ。だが、あえて椛のために当時のことを親父に思い出させたのだ。
「そ、それは・・・」
「椛は20歳になっていて、祥吾くんのおかげでまだバージンでいられるのよね。
正真正銘のバージンロードを歩けるのよね、胸をはって。できちゃった婚でははいんだから、素晴らしいことよね。」
「―――で、でも・・・」
「司、椛はアンタにそっくり。顔も性格もね。確か、アンタが私に初めてプロポーズしたのは高校生の時だったわよね。
そして駆け落ち計画も練った気がするわ。椛が祥吾くんと駆け落ちしてもいいの?
反対していると、そうなるのは目に見えている気がするけど。
駆け落ちされるくらいなら、私たちの目の届く範囲で結婚生活を送ってもらったほうが良くない?」
「そ、それは・・・確かに。でも、椛が結婚して・・・お前は寂しくねぇのかよ。」
親父―――椛は消えてなくなるわけじゃねぇ。結婚して野見山姓になるだけのことだろ。
「祥吾くんは榊の親友でしょ、椛と結婚すれば絶対に道明寺に就職よね。彼の性格からすれば、ライバル社に就職なんてできないわね。
そうすれば、榊にとって将来強力な片腕ができるんじゃないかな。
寂しがる必要はないでしょ、椛はまだ親のすねかじりであることは間違いないんだし・・・そうねぇ・・・」
何が「そうねぇ」なのだろう。俺は椛を見ながら、お袋の次の言葉を待った。
「こうしましょう。野見山くんは道明寺に養子に入り、とりあえずはここに住む。
それが結婚の条件ってことで!!」
「えええ!!!」
異を唱える叫びをあげたのは当然、椛だった。それをお袋はキット睨みつけ、言ったのだ。
「―――文句があるの? この条件が飲めないなら結婚は許しません。
祥吾くんも椛も親の脛かじりの分際で結婚しようなんて厚かましい! 稼ぎもないのに結婚して、どうやって生活するの?
これだから苦労知らずのお嬢様は困るのよね。」
―――苦労知らずに育てたのはアンタたちだ・・・と俺は心の中で突っ込んだ。
椛は唖然として母親を見つめていた。
「働くっていうのは大変なことなのよ。自分たちの力だけで生活するのは厳しいものなの!
アンタたちが気楽に大学に通えるのも、考えなしに結婚するなんて言えるのも、お父さんがしっかり働いてお金を稼ぐからよ!!!
就職もせずに結婚するなんて言うなら、親の言うことを聞くのは当然です!!!」
お袋の怒りの波は俺にまで押し寄せていた―――完全なるトバッチリ。
ここで、俺は疑問が生じた。だから・・・初めて口を挟んでみた。
「―――なあ、そもそも祥吾はなんて言ってるんだよ。アイツも結婚する気になっているのか?」
返答はない。まさか―――聞いてないとか?
「えっと・・・椛? お前、祥吾にプロポーズされたから言ってるんだよな?」
返答はない。これはマジで・・・
「―――プロポーズしたのよ!!!私が!!!」
!!!逆プロポーズ!!! まあ、今どきは女の方からプロポーズなんて結構あることなんだろうけど。
「で、祥吾の返事は?」
「・・・」
ここで黙るなよ。俺は不安になった。お袋も顔をしかめている。親父は・・・どうでもいい、まだ呆然としているようだし、役に立ちそうもない。
「椛?」
「―――まだ聞いてない。だって、結婚しない?って言ったけど何も言わないんだもん。
でも、彼だって私と結婚したいと思ってるわよ。それに、私は彼以外と結婚する気はないし。」
椛がそう言うとお袋は笑った。
「椛・・・アンタ本当に司にそっくりね!!!」
「―――なによ。」
椛は不服そうな顔をしていた。
「あのなぁ、結婚宣言は相手の返事を聞いてからにしろよ。祥吾がお前と真剣に付き合っているのは知ってる。
だけど結婚は別だろ。いつかはしたいと思っていても、まだ考えていないんじゃないか?」
「―――そうかもしれないけど・・・彼、モテるのよ!! ぼやぼやしてると横から奪われるじゃない。」
「―――お前から奪えるような女がいるのか?それにお前、祥吾を信用してないの?」
俺がそういうと、椛は悔しそうな顔をして項垂れた。
「信用してないわけじゃないけど・・・」
「ああ、つまり嫉妬したわけだ。そして、手っ取り早く自分のものにしちゃおうとしたわけだな。」
俺は納得した。お袋も納得したらしい、笑いが止まらないようだ。親父は・・・多少、我に返ったか?
「あ、あんたってば、本当に外見だけじゃなく中身まで司みたい・・・」
「俺の娘が俺に似ていて何が悪い!!」
お、親父が元に戻った。 だが・・・論点が違うだろ。
「それにしても・・・椛、結婚は祥吾くんの返事待ちね。それにそんな理由なら結婚は許すわけにはいかない。
もっとじっくり考えなさい。でも・・・祥吾くんの返事は気になるわね。」
お袋の言葉に椛は渋々頷いた。親父は・・・ことの真相がわかって、少しホッとしたようだ。
親父も嬉しくはないが、祥吾との交際は認めているのだ。ただ突然の結婚宣言にうろたえただけのこと。
「結婚しない? この間の返事を聞かせて。」
「―――えっと、マジなんだよな。一瞬冗談かと思ってたんだけど・・・俺は椛が好きだし、いつかは結婚したいと思ってる。
だけど、俺はまだ大学生だし、親父さんに認められるようなことを何もしていない。
俺んちは道明寺家と違って地位や財産もないし、せめて男としては認められたいんだ。
だから・・・せめて大学を卒業し、就職してから結婚したいんだけど・・・・」
祥吾の答えは俺が考えていた通りだった。
アイツは頭もいいし、行動力もある。きっと将来は道明寺にこの人ありと言われる男になるだろう。
俺もアイツがそばにいてくれれば心強いしな!!!
だが・・・椛は祥吾以上に行動力がある。あまり待たせると・・・きっと「できちゃった結婚」を計画するに違いない。
それは間違いないだろう。きっと・・・数年後、祥吾は椛の尻に敷かれて結婚生活を送っているに違いない。
だが、それは祥吾にとって幸せなことであるのは間違いないだろう。
FIN
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