颯HAYATE★我儘のべる

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榊: 社会勉強と結果




デジャブ・・・??

俺は今、目の前にいる人物から責められていた。

「君以外にありえないんだよ。」

これって・・・。




ここは本屋だ。俺、道明寺榊は2週間ほど前からこの書店でアルバイトをしている。

大財閥の御曹司である俺がなぜアルバイトをしているか、それは簡単に言うと野見山祥吾のせい。

夏休みに入り、俺は道明寺の所有する別荘へ誘ったのだが、祥吾はアルバイトを理由に断ってきた。

スケジュールを聞くと、夏休みの殆どがアルバイトにあてられている。つまり遊ぶ暇はない。

英徳には宿題はなく、生徒の自主性に任せているが、祥吾は奨学生だから成績を落とすわけにはいかない。(俺もだけど)

バイトのない日は勉強に充てているらしい。

「―――じゃあ、俺もアルバイトする。」

俺は初めてできた親友と夏休みを過ごしたかった。だから、俺もアルバイトをすることにしたんだ。

祥吾の働く書店がまだバイト募集をしているので、俺はさっそく面接に出かけることにした。

道明寺の名は目立つので、お袋の旧姓を利用して「牧野榊」と名乗ることにした。

履歴書には名前以外は正直に書いた。英徳は金持ちが通う学校というイメージがあるが、
奨学生だというと別に問題はなかった。

「金持ちなんだね」という感想が、「頭がいいんだね」という感想に変わるだけだ。

まさにその通りの対応をされて、俺はこの本屋でアルバイトをすることになった。

偽名には誰も気がつかなかった。それは俺にとって好都合だったわけだが、これでいいのか?

そしてバイト生活2週間目にして、俺はピンチを迎えていた。




「君以外にありえないんだよ。」

店長の責める言葉を聞きながら、俺は「前もこんなことがあったな~」なんて気楽なことを考えていた。

あの時、責められていたのは俺ではなく祥吾だったが。

それにしても、この店長は何を証拠に俺を犯人にしたいのだろう。よくわからない。

「どういう意味でしょうか?」

「君が事務所で昼休みをとった後に無くなったんだよ、昨日の売上金がね。」

おいおい、それだけで俺は犯人にされているのか?

「つまり、俺がその金を盗んだって言ってるんですか?」

「それしか考えられないだろう? 君が昼休みをとる前、俺は売上金の集計をしていた。

その時点では金はあったんだよ。そして君が昼休みをとったあとに俺がここに来ると金がない。

君以外にありえないだろう? 今なら警察沙汰にはしないよ、盗ったお金を返してくれればね。」

盗っていないのだから、返しようがない。

「―――店長、榊は泥棒をするようなヤツじゃない。」

今、ここには昼の部を終えた従業員が集まっていた。俺は今日、朝9時半から昼3時までのシフト。

ここにいるのは全員がそのシフトで働いた人物。店長、俺、祥吾、他の2人のアルバイト。

それとパートで働くおばさんが一人。

「あ、あの・・・私、娘を迎えに行かないと・・・」

おばさんは娘を保育園に預けて働いている。迎えに行く時間が決まっているのだろう、さっきから時間を気にしていた。

「―――わかっているけどね、君たちにも全く疑いがないわけじゃない。」

「俺以外にありえないって言ってるのと矛盾していませんか? 俺が犯人だと確信しているなら帰っても問題ないでしょ?

中村さん、娘さんが待っているんでしょ、帰っていいよ。ここは俺が残れば問題ないんだし。」

俺がそう言うと、店長は真っ赤になって怒鳴りだした。

「お前が勝手に決めるんじゃないっ!!! 泥棒のくせに偉そうにっ!」

証拠もないのに泥棒呼ばわりかよ。これでよく責任者として勤まるよな。俺は大きなため息をついた。

「なんだ、その態度は。泥棒呼ばわりが不服なのか?」

「当然でしょう?俺は盗んでいない。証拠もないのに泥棒呼ばわりは不愉快です。」

中村さんはオロオロとしている。俺は彼女がかわいそうになり、店長を諭した。

「店長、店長はどういう理由にしろ、俺を犯人だと確信しているわけでしょ。それなら俺以外はもう帰っていいんじゃないですか?

俺がここに残れば問題ないわけでしょ。彼らもこの後は予定があるでしょうし。」

「―――うるさい、お前が犯人として自供したときには証人が必要なんだよ。」

なんだ、それ。お前は警察か?それなら、本当の警察を呼んだらいいじゃないかと突っ込みたい。

だが、なぜか店長は警察を呼ぼうとはしなかった。

「俺が残りますよ。俺は榊が泥棒をするなんて思っていませんが、別に嘘をつくつもりはありませんし、不安なら会話を録音でもすればいい。」

祥吾の言葉に少し考えていたが、店長は渋々というように「お前らは帰っていい」とだけ言った。

そして俺と祥吾、店長が残る―――。



「さて人払いもしたことだ、正直に言ったらどうかな?」

環境は変わっても状況は変わらない。店長にとって、俺は容疑者ではなく犯人。

それにしても、本当にこの状況は似ている。祥吾のときとソックリだ。

この店長も坂崎にソックリ。ってことは救世主が現れない限り、俺って犯人!?

こうなると、椛にも登場してもらわないといけないな~、なんて店長の叱責を聞き流しながら呑気なことを考えていた。

「聞いているのかっ!」

また大声で怒鳴る。よほど注意していない限りは聞こえないだろうが、絶対に店内にも洩れていると思う。

よくこれで店長が務まるよなぁ。

「店長、証拠もなしに犯人扱いは納得できません。榊は人のものを盗むようなヤツじゃない。」

祥吾も俺の容疑を晴らそうと必死だけど、思い込みの激しい店長に何を言っても無駄かも。

「―――じゃ、君が犯人か?」

これには俺もブチキレた。

「何を根拠にそう言っているんだっ!? さっきから人が大人しくしていれば・・・」

つい傲慢な口調になったが、俺じゃないなら君が犯人、という店長の安易なセリフに我を忘れていた。

「大人しく?誰が大人しくしろと言った、さっさと白状すればいいんだ。」

「―――だいたい、いくら消えたんですか。それに俺を犯人扱いする根拠は?」

「昨日と今日の昼までの売上金300万だ。俺の後に事務所に出入りしたのはお前だけだ。

お前は奨学金で高校に通っているんだろ?それも英徳ともなれば学費も高いだろう。

いくら奨学金で安い学費になるとはいえ・・・魔がさしてもおかしくない。」

世間で言う奨学金は、学費の一部を援助するものが多い。それは将来、分割で返金してくものだ。

だが英徳は違う。成績さえ落とさなければ、学費は完全免除。返金の必要もなく、卒業後は出資者の経営する企業に就職できる。

それは世間にはあまり知られていないことで、誤解している者も多い。店長もその一人らしい。

それに奨学生=貧乏というイメージがこの店長にはあるようだ。

「学費の支払いには困っていません。それは祥吾も同じです。」

「学費の支払いに困るから奨学生になるんだよっ! 親が簡単に払えるなら奨学生にはなれないんだっ!」

俺は深いため息をついた。

「なんだ、その態度は」

俺が慌てもせず、罪も認めないせいか、店長の鼻息が荒くなっていく。

俺はしてもいない罪を認める気はないし。こんな小者を恐れるつもりもなかった。

「さっきから盗んでいないと言っている、信じないのは店長です。こうなったら関係のない第三者を入れたほうがいい。

警察を呼んでください。俺は何も困りませんから。いい加減、うんざりだ。」

「―――いいのか?警察を呼んで困るのは君だと思うがね。」

「困らないと言っているでしょう?俺はもちろん、祥吾だって困りません。」

俺が視線を向けると祥吾は小さく頷いた。警察を呼んでも構わないということだ。俺も頷き返し、また店長へと向き直った。

「よぉし、呼ぼうじゃないか。後悔するんじゃないぞ、せっかく温情を与えているのに。」

そう言いながら、ゆっくりと受話器に手を伸ばす。

「本当にいいんだな?」

「さっさと呼べ。」

俺は店長に呆れながら、やっぱり救世主は現れないか~なんて考えていた。

店長は俺をチラチラと見ながら、ボタンを押そうとしている。さっさとしろよ・・・。

祥吾を見ると彼も疲れたようにため息をついていた。俺たちは自然に眼が合って、二人揃ってまたため息をついた。






「―――何事だ」

突然、事務所のドアが開き、入ってきたのは・・・誰だ、コイツ。

「―――社長っ!!!」

あ~、コイツが社長なんだ、初めて見た。

「君、何をしているんだ。君の声が店内まで聞こえていたぞ!事務所であんな大声を出すものじゃない、お客様が動揺してしまうだろう。」

社長と呼ばれた男は店長を叱り、そして俺たちを見た。

「実は・・・申し訳ありません、売上金が盗まれまして。彼らを問いただしていたんですが、白状しないので警察を呼ぼうとしていたところなんです。」

「警察? 彼らが盗んだのは間違いないのか?」

「彼ら」つまり・・・いつのまにか店長は祥吾まで犯人にしていた。

「間違いありません、私が売上の集計をしている途中に事務所を少し空けたんですが、その際に出入りしたのは彼らだけです。」

彼らって・・・俺だけだろ!?

「―――それだけで犯人って言っているの?」

今度は誰だ? ドアのところから静かな、聞き覚えのある声がした。

俺が振り向くと、ドアにも垂れて立っていたのは・・・花沢類っ!!

「げ・・・」

「あ、花沢様、申し訳ありません。ちょっと問題が起きたようで・・・。」

「いいですよ、お待ちしてますから。」

「え? あ・・・では別に落ち着ける場所をご用意いたします。」

「いえ、彼が犯人扱いされているなら、私も関係ありますからね。」

「―――彼をご存知なんですか?」

「ええ、二人とも英徳の生徒ですよ。奨学生ですから、僕も彼らの学費を出資している一人です。」

類さんの答えに店長は少しホッとしたような気がした。おそらく花沢物産社長の知り合いを犯人扱いしたのが気になったのだろう。

だが、ただの奨学生としてのつながりなら問題ないと判断した・・・?

「ああ、そういうことですか。彼らは英徳の・・・」

今のところ、類さんは俺の名前を出していない。このまま道明寺の名前を出さずにいられるだろうか?

「本当に彼らが盗ったのか? キチンと隅々まで探したんだろうね。」

社長は一応、証拠もなしに疑うことはしないようだ。

「はい、探したんですが見つかりません。彼ら以外に部屋に入った人物はいませんし、絶対に彼らですよ。」

なぜ断言できるのだろう。

「―――君が目を離した隙に入るくらい簡単でしょ。売上金を出したままだったなら、盗るのは簡単だろうし。

彼らが犯人とは断言できないんじゃない? そうだね・・・カメラとかに写っていたなら疑いようもないけど。」

「どうなんだ?」

社長が店長に問いただす。 この事務所に防犯カメラはない。店内にはたくさんつけているだろうが事務所内には一つもない。

「―――事務所にはありません。しかし・・・」

「じゃあ、証拠はないんだね。ただ君が思っている君の後に事務所に入ったのが彼しかいないからという理由以外は、疑わしい点は全くないんだね?」

「―――それだけでも十分だと思います。彼らは英徳に通っているとはいえ、奨学生です。

周りのレベルに合わせるには、大変なお金が必要なのではないでしょうか?

花沢さんのような方にはわからない苦労が彼らにはあると思いますよ。」

まるで僻んでいるとしか言いようのない口調。彼は金がある者にはある者なりの苦労があるということを理解しないだろう。

「―――俺のような?・・・そうだね、俺にはレベルが違いすぎて榊の苦労はわからないかも。」

類さんはそう言ってチラリと俺を見た。

レベルが違うという意味を店長がどう受け取ったかは一目瞭然だった。

「そうでしょう、お金持ちと金のない者は交わることがないんです。」

わかってもらえたと思ったのか、店長は嬉しげに何度も頷いている。

類さんの言った意味を理解している祥吾は、呆れたように店長を見ていた。

「―――ま、それは置いておくとして、もう一人疑わしい人物がいるじゃないか。」

え?もう一人・・・?類さんの言った人物が誰なのか俺には全然わからなかった。





「―――え、誰?」

類さんは逆に唖然としたような顔で俺を見ると、小さく頭を振った。

「榊・・・お前もっと考えなよ。そういうとこは牧野に似ているよね。

司だったら、野性のカンで根拠もなく犯人を言い当てているよ、きっと。」

こんなことで両親と比べられても仕方ないんだけど、その通りで何も言い返せない。

「―――榊がお金を盗む必要がないのは当然だ。野見山くんだって盗むくらいなら友人から借りればいいしね。

親友が大財閥の御曹司なんだから、問題ないでしょ。」

「え? 親友が・・・?」

店長は唖然としているが、当然だろう? だって俺たちは英徳に通っているんだぞ、周り中が金持ちの子供だ。

当然、友達だって金持ちのご子息やご息女ってことになるだろうが。

こんな簡単なこともわからないのか、と俺は呆れてしまった。

「それはどうでもいいけど、本当にわからないの? 榊。」

「もう一人、疑わしい人・・・?」

俺の他にこの部屋に入ったヤツがいただろうか。俺の知る限りいないと思う。

―――店長以外は。






「お、俺がやったっていうのか!?」

店長は俺と祥吾の視線で、類さんの言わんとするところがわかったらしい。

怒りの口調で俺を責める。類さんを責めないところが嫌らしい感じだ。

「犯人とは言っていませんよ。あなたが榊を疑った理由を考えると、それに当てはまる人物がもう一人いると言っているだけです。」

類さんは淡々と説明している。社長はなるほど、と何回も頷いている。

きっと花沢物産の社長には逆らわないようにしているんだと思う。

「それは俺が犯人って言っているも同然だろうがっ!」

今までの丁寧さが嘘のような言葉使い。店長は自分が疑われることは考えていなかったのだろう。

「花沢さん・・・」

社長は店長の剣幕に驚いて、類さんに助けを求めている。

「いいえ。あなたが榊にしていることと同じことをしているだけです。

あなたが榊を犯人と言い切る根拠が、事務所の出入りだけなら・・・あなたも犯人になりうると言っているんですよ。」

相変わらず、表情すら変えずに説明する類さんは何となく怖い。

祥吾もただ黙って類さんの言葉を聞いている。すべてを類さんにゆだねたかのように黙っている。

「俺が盗むわけないだろう!?」

「それは、どういう理由で? きっとお金が欲しかったんでしょう。」

「俺は金を盗むほど困ってはいないっ!!」

「そうなんですか? それは僕には判断できませんから。でも・・・榊もお金に困っているとは思えませんが?」

「そ、それは・・・わからないけど・・・奨学生なら・・・」

店長はしどろもどろだ。たぶん、まだ俺を犯人だと思っているかもしれない、だがそれを実証する術がない。

「先ほども言ったとおり、英徳は学費を完全負担します。その上、返金の必要がない。英徳の奨学生は学力重視です。

スポーツ奨学生というのは存在しませんし、学力と努力で奨学生になるんですよ。

実際、成績は学年で常に5位以内に入らないと奨学生として学校に残ることはできません。

そうなると英徳の学費は高いですし、払えない奨学生もでてくるでしょうが・・・この制度が設立されて以来、そういう生徒は一人もいません。

榊も野見山くんも1年生のときから、成績は5位以内・・・というより二人で1、2位を争っていますよ。」

店長の顔色がどんどん悪くなっていく。このとき、俺はまさか・・・と思っていた。

だが、実際に追い詰められていく店長はしどろもどろになり、目は泳ぎ、興奮していく。

言い訳ばかりして、自分を正当化しようと必死だ。

俺は祥吾と視線を交わし、無言で頷きあった。お互いに店長が犯人なのだと確信していた。

だが、ここは類さんに任せるべきだろう。子供に追い詰められた大人は余計ムキになるものだ。







それにしても・・・店長もあくどいというか、なんというか。

高校生に罪を擦り付けて、自分が罪から逃れようとは。

あまりにもバカすぎて呆れるしかないぞ。

榊は心の中で激しい失望を感じていた。

初めて働くということを知った場所で、こんな男に出会うとは思っても見なかった。




「君、花沢さんの言うことは尤もだよ。この・・・誰だったかな?」

興奮気味の店長を宥めていた社長は、俺の方を見て、名前を尋ねてきた。

そりゃ、大手書店ともなれば各店に人事を任せているだろうから、一アルバイトの名前なんて知らないよな。

俺は妙に納得して答えようとして・・・気がついた。

俺って・・・道明寺じゃん。でもここでは「牧野榊」。

類さんは知らないよな・・・ここは「牧野」というべきか「道明寺」というべきか。

でも、ここは「牧野榊」で通すべきだよな。履歴書もそう書いたし。

「牧野・・・です。」

俺がそう答えて類さんをチラリと見ると、表情は変わらないが眉の端が上がるのが見えた。

そして俺は気がついたんだ。

類さんが来てからの俺と店長の会話に俺の名前は一度も出ていないってこと。

つまり・・・類さんは俺が偽名で働いていることは・・・気がついていなかった?

いや、気がついていたかもしれないが「牧野」という名を使っていたとは気がつかなかったらしい。

「牧野・・・ね」

類さんが聞こえるか聞こえないかの小さな声で呟く。

「ああ、牧野くんか。牧野くんの容疑が君のいう証拠だけなら、花沢さんの言うとおり君にもチャンスはあったことになる。

状況だけを見て、犯人扱いしてはいけない。いいね?」

最後は言い聞かせるように強く言った。社長としては類さんの不興を買いたくない一心なのだろうが。

「―――ですがっ!」

「榊と店長さんのロッカーや持ち物を調べてみませんか? お互いに疑心暗鬼のままっていうのも問題でしょう。

お互いに疑いを晴らすためにも、第三者が簡単に調べるのはいいことだと思いますよ。

盗まれたと発覚して、お互いが犯人なら持ち出す暇はありませんから手元にあるでしょう。

ないなら、他の人が犯人ということですよ。どうでしょうか?」

店長の反論にかぶせるように類さんが発言する。社長は名案とばかりに大きく頷き、了承する。

―――俺は了承してないけどな。

そう思ったが、これが一番いい方法だろう。仕方なく俺も調べることに同意したが、店長はというと・・・

真っ青になっているが、社長の「君もいいね」と強く念を押すような半分命令口調になす術がないらしい。






調べられて困るものは何もない。だからこそ俺は余裕だったのだが―――。

まず調べられたのは俺のロッカーと俺の荷物。

調べるのは第三者である社長と類さん。ロッカーと荷物をくまなく調べられる。

「・・・これは?」

俺の荷物を調べていた社長が手にしていたのは見覚えのない封筒。

「中を見てもいいかな?」

一応、俺に聞いてくる。ここで嫌だといえば、疑いは濃厚だ。当然、俺は「どうぞ」と答えた。

それでも見覚えのない封筒が荷物の中にあったということで不安はある。

「―――50万入っているね。」

俺はやはりという気持ちでため息をついた。社長は俺に厳しい目を向けていた。

「高校生が持ち歩くには高額だと思うが・・・これは何のお金かな?」

「さあ? 俺には身に覚えのないお金ですから。」

俺に罪をかぶせるための周到な罠だろうが、50万ってところがセコイよな・・・

そんなことを思いながら、俺は店長を盗み見た。

俺の荷物から先に調べられ、50万が見つかったことで多少の余裕ができたのだろうか?
顔色がさっきより少し良い気がする。

「身に覚えがない・・・君の荷物の中にあったんだよ?」

「そうですね。ですが俺は知らないお金ですよ。」

俺はそう答えるしかない。

「―――知らない、ねえ・・・」

社長も50万を見たことで、俺を疑い始めていた。だが類さんは無言で、まだゴソゴソを何かしていた。

「―――あ」

類さんが突然声をあげた。そんなに大きくもない声だが、静まり返ったロッカールームではすぐに気がつく。

「花沢さん、どうされました?」

さすがに早い反応の社長。―――米搗きバッタという言葉が俺の脳裏を掠める。

「これは何でしょう。」

類さんが差し出したのは俺の荷物に入っていたのと同じ茶封筒。だがこっちの方が分厚いが。

差し出されたものを社長が受け取り、中身を確認する。そして取り出したのは、お札だ。

そうだろうとは誰もが思っていたが、おそらく盗まれた売上金。

「やはり・・・牧野の荷物にあったんですね。もう、言い訳はできないよ。」

社長はそう言って、俺をキッと睨みつける。俺は唖然とするしかない。

「違いますよ、これは榊の荷物ではなく、彼の荷物から出てきたんです。」

そう言って、類さんが指差したのは店長だった。類さんは俺のロッカーを調べ終えた後、そのまま店長のロッカーを調べていたようだ。

社長が俺を責めている間も無言で探していたらしい。

「え・・・店長?」

「そうです。彼の荷物から出てきました。いくらありますか?」

類さんにそういわれて、社長が慌てて数え始める。

「・・・に、250万・・・」

つまり、俺の荷物にあった50万を差し引いた売上金ってことだ。店長は再度真っ青になり、口をパクパクとさせていた。

「これは何のお金?一度に持ち歩くには高額ですね?」

呆然としている社長に代わり、類さんが店長を問い詰める。

「―――こ、これは何かの・・・間違いで・・・」

「間違いでお金があなたの荷物に飛び込んだ?それも封筒に入って・・・」

「そ、そうとしか・・・」

クーラーが聞いている部屋で店長は汗をかいている。俺は心の中で「もう認めろよ」とつぶやいていた。

もう言い逃れできないが、店長はボソボソと何かつぶやいている。

「・・・花沢さん、みっともないところをお見せして申し訳ありません。どうも・・・犯人はこうなると、この店長のようです。

あとは私に任せてもらえませんか? キチンと調べ、後の始末を致します。」

自分がこの本屋の社長なのだから、それは当然だが、社長としては結局すべてを類さんが解決し、類さんがいなかったら俺を犯人にしていたという負い目がある。

「それはもちろんです。榊と野見山くんは帰っても?」

「はい。牧野くん、野見山くんも・・・申し訳なかったね。」

社長は俺と祥吾に頭を下げ、そして店長に向き直った。青ざめた店長は何も言わず項垂れていた。

「榊、帰るよ。野見山くんも荷物を持って・・・送るから。」

類さんの言葉に俺と祥吾は荷物をまとめた。そして帰ろうとしたとき・・・類さんが思い出したように立ち止まった。

「あ、そうだ・・・榊は今日でバイトを辞めますから。」

「―――ええっ!!!!???」

俺は類さんの言葉に一瞬キョトンとし、我に返った瞬間大声を上げた。

「なんでっ!!?」

「なんでって・・・もう働けないでしょ。それに偽名で働く人間を雇う会社もないよ。」

「・・・偽名?」

類さんの言葉に反応したのは黙って俺たちを見送ろうとしていた社長だった。

「・・・ああ、まだ榊の本名を言っていませんでしたね。彼は牧野榊じゃありません。
俺の親友の子供なんですよ。」

「―――花沢さんのご親友・・・?」

「ええ、道明寺司。俺の親友の息子です。コイツは道明寺榊って言うんですよ。」

類さんの言葉に社長は大きく目を見開いた。その後ろで店長までが目を見開いている。

「ど・・・道明寺財閥・・・?」

「ええ、道明寺財閥の長男です。ってことは後継者ですね。」

類さんはニコニコと暴露している。―――なんで今さら言うんだよっ!

「・・・店長さん、俺が言った榊とレベルが違うって言うのは、そういうことなんですよ。

道明寺財閥は巨大すぎて、花沢物産なんて太刀打ちできません。・・・レベルが違いすぎてね。

どうもあなたは違う意味に取られたようですが・・・。」

店長は俺を貧乏と思い込んでいた、だから類さんのような金持ちとは生活のレベルが違うと言っていたのだ。

「・・・そ、そんな・・・」

「だからですね、何度も言いましたけど・・・300万程度の金を盗む必要はないんですよ。

親に言えば、簡単に借りることができますからね。野見山くんも盗むくらいなら榊に借金を申し入れればいい。

盗む理由がまったくない二人をあなたは犯人にしようとしていたんです。」

社長も店長も言葉も出ないようだ。俺はと言えば・・・まさかここで暴露されるとは思わず戸惑っていた。

「もし仮に私たちが来なくても榊が警察に捕まった場合・・・偽名だということは調べられるし、本名もすぐにわかる。

そうなると疑いはすぐに晴れるでしょうね・・・あなたの計画は杜撰ですよ。」

ニコニコと店長を責めていく類さんはなぜか・・・楽しそうだった。

「―――類さん・・・もういいから・・・行こうよ。」

本名がバレた以上、やはり俺はここで働けない。みんなが俺の後ろに道明寺財閥を見るだろう。

そうなると俺にさまざまな理由で近づいてくる人間が多いのだ。

俺はため息をつき、社長に頭を下げた。

「数日間でしたが、いい勉強になりました。こんな形で辞めることになり申し訳ありません。」

「・・・い、いや・・・こちらこそ不愉快な思いをさせて・・・」

社長はショックが抜けきれないようだ。

「野見山くん、君もここで働くのは気持ちてきに難しいだろう? 君も辞めちゃえば?」

―――辞めちゃえばって何だよっ!? そんなに簡単なもんなのか?

俺は突っ込みたい気分満載なのだが、迷惑をかけた手前、何もいえなかった。

確かに俺のせいと言えば、俺のせいで祥吾もここにはいづらいかもしれない。

「ですが・・・今からバイトを探すのは」

「大丈夫。俺が手配するから。司でもあきらでも力になるよ。たぶん牧野も榊が迷惑をかけたみたいだし、探してくれると思うけど?」

類さんはそう言って俺をチラリと見る。げげ・・・お袋に言うのかよ。

「―――わかりました。」

祥吾はしばらく考えていたが、最後は頭を下げた。

ああ・・・俺のバイト生活もこれで終わりか・・・楽しかったのに。

「じゃ、そういうことで二人は退社で。お話はまた今度・・・時間をつくりましょう。」

そうだ、社長と類さんは何か仕事でここにいたのだろう。それを邪魔したわけだ。

「はい・・・わかりました。あ、あの・・・道明寺さん、今回のことは・・・」

社長は相変わらず力がない。魂が抜けたようなしゃべり方だ。なぜか店長だけでなく、社長まで真っ青だ。

―――そんなに道明寺の名がショックかよっ!

「別に何も・・・疑いが晴れたのでかまいません。あの状況じゃ、多少は疑われても仕方ないですから。」

俺はもう気にするなと社長に笑顔で答えた・・・が、社長はまだ青ざめていた。

「あ・・・ありがとうございます。」

こうなるのが嫌なんだよ。道明寺の名をだすと、大人までが俺への態度を変える。

たかだか高校生の俺に敬語でしゃべり、土下座でもするかの勢いだ。

俺はため息をつきながら、部屋を出て行く類さんと祥吾の後を追った。




類さんに家へと送ってもらいながら、俺は気になっていたことを聞いた。

「類さん、なんで最後に道明寺の名前を出したわけ?」

「―――榊の本名でしょ。」

「そうだけど・・・言う必要はなかったじゃん。」

「う~ん・・・探偵はね、最後に饒舌になるんだよ。知ってた?」

―――なんだ、それ。俺は首をかしげながら、類さんをうかがった。

「最近、コナン・ドイルを読み直したんだ。」

コナン・ドイル・・・。つまり「シャーロック・ホームズ」だよな。今さら何故?

「ホームズはね、調べているときはワトソンが質問しても答えないではぐらかすんだよ。

だけど解決すると・・・得意気にすべてを話すんだ。なんか楽しそうだったから、俺もやりたくなったんだよね。

あの場合、俺が解決したようなもんでしょ。だから俺がホームズで社長がワトソンでしょ。

ワトソンにこういうわけなんだよって話さないとね。」

―――なんだよ、それはっ!! 俺が心の中で突っ込みを入れていると隣から爆笑されてしまった。

黙って聞いていた祥吾が腹を抱えて大笑いしていた。

「つまり、類さんはホームズごっこをしたかったから俺たちを助けてくれたんですか?」

祥吾の言葉に類さんは大きく頷く。

「そうだよ。だって別に放っておいても本当なら解決するでしょ。でもおもしろそうだったから。」

マジかよ。俺に容疑がかかっているのに、「おもしろそう」なのかよ?

「―――まあ、いいじゃない。それより榊・・・お前、牧野や司に黙ってアルバイトしてたの?

牧野が榊は野見山くんの家で勉強だって言っていたけど。」

げげ。別に嘘をつく必要はなかったのだが、お袋に言えば親父の耳に入る。親父の耳に入れば、絶対に道明寺系でバイト先を探す。それを避けたかっただが。

それに元々、祥吾と一緒に働きたかっただけだしな。

「・・・これも勉強でしょ。社会勉強?」

「―――それは牧野に通用しても司には通用しない理由だよね?」

類さんがニッコリと微笑む。その通りなのだ、きっとお袋は「べつにいいんじゃない?」と言うだろう。

―――が、親父は絶対に怒るだろう。

「黙ってて・・・もらえます?」

「俺が?・・・なんで?」

楽しんでいる・・・。どうして、親父の友達はこんなに意地悪なヤツが多いんだっ!!!

仕方がない、俺は親父の拗ねた説教を聞く覚悟をした。



―――後日、俺はお袋の協力を得て、親父を説き伏せ・・・新しいアルバイトを始めた。

祥吾と一緒になぜか俺は・・・花沢物産ビルのレストランにいた。

そこは社員食堂のようなもので、俺は道明寺榊として本名でウエイターをしているのだが・・・誰も気がつかない。

それは類さんが「今日からバイトに入る榊と野見山くん」と簡潔に紹介したからだ。

つまり、人は俺を榊という苗字だと思っているようだ。

―――これでいいのか?と類さんに問いたいが、まあ・・・いいのだろう。

俺は楽しくアルバイト生活をしている。

FIN


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