颯HAYATE★我儘のべる

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明けない夜はないから 2



何の情報もないままだった。

まだ探してはいたが、俺たちは殆ど諦めていた。

司も密かに探してはいるようだが・・・すでにあの女と結婚した身、捜索には限りがある。

俺たちはあの後、司の結婚式に出席した。

本当は欠席したかったが、一縷の望みをかけて出席したのだ。

牧野がどこかで見ていないだろうか・・・

よけい辛いだろうから、ありえないとは思っていたが俺たちもそれだけ必死だったのだ。

牧野はどこにもいなかった。

司とはパーティや仕事で会うくらいでプライベートで会うことはなくなっていた。

たまに会う司は冷徹で荒んでいた。

人間とは言えない。

世間がつけた名「氷鉄(ひょうてつ)の男」

まるで氷のように冷たく、鉄のように硬く感情がない。

仕事の上でも冷徹で敵の多い男になっていた。

道明寺財閥は盛り返し、今では結婚相手の実家も必要ないだろう。

だが、司は離婚する気はないようだ。

まだ跡継ぎはいない。

そのことに俺たちは少しホッとしている。

牧野の子は・・・無事に生まれていれば今4歳。

男か女かわからないが道明寺財閥の隠れた後継者だ。

道明寺楓は結婚して5年たっても子供のできない若夫婦に重圧を与える日々らしい。

牧野とのことを許し、司の幸せを考えていたら・・・

道明寺楓も今ではお祖母ちゃんと呼ばれ、夢を見ることができただろう。

道明寺英(すぐる)は、一時危険な状態だったが今では無理をしなければ大丈夫という健康体。

司と牧野の犠牲はいったい何だったのか・・・。

そして生まれた子も犠牲者だ。

牧野・・・いったいどこにいるんだ?



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俺はあの日、感情を捨てた。未練とともに・・・




俺と沙織の結婚は沙織が俺に白羽の矢を立てたことからはじまった。

愛情はお互いにない。

俺は金と道明寺の為、沙織は・・・レベルを下げずに生活する為と俺の顔で選んだらしい。

若宮財閥以上のクラスに嫁げば、自分が従わなくてはならなくなるが、

同レベル、もしくは落ちぶれたところなら自分の思いのままだと考えたらしい。

その沙織が選んだのが俺・・・。

若宮沙織は新興財閥のご令嬢というやつだった。

沙織の祖父が興した若宮工業はバブル期の勢いに乗って大企業となった。

祖父はもちろん、父親にも才覚があったのだろう

夢のバブル期が終了し、次々と同種の企業が倒産していくなか

若宮工業は業績を伸ばし、さらに手を広げていった。

今・・・若宮財閥の傘下企業は道明寺と変わらないだろう。

一時期は道明寺をもしのいでいた。

今、若宮家は沙織の父が社長として取り仕切っているが

将来は沙織の兄である経也(きょうや)が跡を継ぐことになる。

現在、経也は修行中だが典型的な三代目だ。

俺たちのような財閥、大企業によく言われることがある。

初代は天才(神)、二代目は凡人、三代目はバカ。

つまり会社を興し発展させた初代は天才だ。

二代目は初代の苦労を知っているが、初代ほどの才覚はない凡人。

三代目になると苦労知らずのお坊ちゃまで会社を潰すことが多い。

ようするに後継者を育てるための戒めのようなものだ。

経也はまさしくその三代目で・・・甘やかされたお坊ちゃまだ。

一応、大学をでて経済について学んでいるが机上の空論。

実践が伴わないうえに、その実践にでようともしない男。

そのくせにワンマンで他人の意見に耳を貸さない。

俺も・・・牧野に出会わなければ経也と同じような人間だっただろう。

だが、俺は牧野に出会った。




若宮財閥の求婚はタイミングが良かった。

沙織を知る少し前に親父がまた倒れた。

二度目ということもあって本当に命が危なかった。

公の場で倒れたこともあり、道明寺財閥総裁の危篤の噂はいち早く経済界に流出した。

一気に株価が暴落した。

まだ19歳だった俺に世間の評価は厳しく、道明寺が傾くのも早かった。

俺だけのことなら、もしくは昔の俺なら迷うことなく道明寺を捨てた。

だが、牧野にあって変わった俺は社員を見捨てることはできなかった。

俺は道明寺を救うために愛のない結婚をした・・・。

本当に愛した女を傷つけ、捨ててまで。

親友に言われ、彼女を忘れる覚悟ができたときに俺の心は死んだ。

牧野のいない世界に・・・何がある?

何をしても何を求めても俺の横に彼女はいない。

今の俺には飢えしかない。

仕事でどんなに成功しようと、喜びも達成感もない。

飢餓・・・・

牧野がいない。分かち合う相手がいない。

牧野、牧野、牧野・・・・!!!

求めても求めても手に入らないものを求めつづける飢えが募るばかりだ。

満たされない・・・




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「司さん、今日もお義母様から子供はまだかと聞かれましたわ」

ノックもなしに書斎に入るなり、俺の妻となった女が言う。

煩わしい・・・・

「だからなんだ?」

「一度・・・検査を受けていただきたいのです」

「なんだと!?俺に問題があるとでも言う気か?」

この女は知らない。俺が子供など望んでいないことを・・・

「・・・あなただけに検査を受けろと言っているわけではありませんが・・・

ですが、あれだけ外で遊んでいるあなたに未だに子供がいないとなると

原因はあなただと考える方が無難ではございませんこと?」

「検査なんか必要ない。子供などできるときにはできる」

「あら?結果が怖いんですの?でも道明寺には跡取りが必要ですわ」

「・・・俺を試しているつもりか?検査する気はない!跡取りなら姉ちゃんの子がいる、問題ない」

女の顔が屈辱で赤くなる。

「道明寺を継ぐのは私の子です!お義姉さまの子に継がせる気などありませんわ!」

「それを考えるのはお前じゃない、俺だ!俺に子ができない場合は仕方がない。

この件はこれ以上話し合う気はない。まだ仕事がある、消えろ!!」

女が怒りに手を握り締め、震えているのがわかる。

だが、コイツとの間に子供をつくる気はない。

コイツは知らないが・・・俺はオーストラリアで開発された男性用避妊薬を取り寄せて飲んでいる。

俺が妻であるこの女を抱くのは「義務」だ。

まったく抱かなかったら若宮財閥の助けは得られなかっただろう。

だが・・・俺の子を産むのは牧野だけだ。

牧野以外が産んだ俺の子など愛せるはずがない。

そんな子が産まれたら俺以上に不幸な子供になる。

だから牧野を得られないならば永遠に俺に子供はできない。

「・・・そんな口をきいていいんですの?私の実家の助けがなくなれば道明寺など潰れてしまいますわよ」

この女は現状が見えていないのか?

すでに道明寺に若宮の助けは必要ない。

もともと、しっかりとした土台があれば道明寺は傾くことはなかったのだ。

若宮財閥の金というより、沙織の父親が道明寺を救ったともいえる。

俺をサポートする世間に定評のある人物の存在が必要だっただけだ。

もちろん、多少の金は必要だったが・・・

それに、親父が持ち直した今・・・沙織の父、若宮智成の名も必要ない。

今では立て直すために必要だった金は若宮財閥にすべて返済した。

沙織の父親は「息子が親に金を返す必要はない」といったが

俺は有無を言わせずに金を突き返した。

はっきり言って・・・若宮にもう借りはない。

逆に若宮財閥の方が傾きかけている今、コイツと離婚しても何の問題もないだろう。

だが、俺は離婚しない。

それは誰でも同じだからだ。

離婚すればまた別の女と結婚することになる。

牧野じゃないなら誰だって同じことだ・・・

「出て行けといったのが聞こえなかったのか?」

女は真っ赤になりながら、踵をかえし足早に書斎をあとにした。

俺は大きな音をたてて閉まった扉をみつめながら、ため息をついた。

牧野・・・お前は今どこにいる?

生きて・・・いるんだよな?

俺を憎むのは当然だ。憎んで恨んでいて構わない。

この世のどこかで・・・生きているなら・・・

もしかしたら・・・すでに結婚して幸せに暮らしているのだろうか?

感情を捨てたつもりだったが、俺はその考えが悲しかった。

牧野が幸せならいい・・・

でも俺以外の男と結婚し、幸せに暮らしている牧野の姿を想像するのは・・・

俺はポケットからタバコをだし、火をつけた。

今日、何本目だ?いや・・・何箱目だろう・・・


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