颯HAYATE★我儘のべる

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参観日には戦闘服で離婚まで 1【~3完】



創立以来、初めてという参観日が英徳で実施されることになった。それも全校、全学年一斉に!

つまり幼稚舎から大学までということだ。

中学までならわかるのだが、高校生はもちろん大学生まで参観日が実施されるというのだ。

なぜそんなことになったのか・・・。それは今期英徳に就任した若き教師にあった。

その教師は普通の公立高校から異動で来た教師だったが、参観日というものが実施されたことがないことを知ると親にも授業風景を見てもらうべきだと熱弁をふるいだした。

この英徳は世間的に見れば金持ち学校。親父たちのおかげで学年に一人は特待生という学費免除された生徒がいるが、それでも英徳では異質な存在で周りからは庶民だと嘲られる傾向にある。

俺の親友である祥吾も特待生の一人で・・・世間で言う中流家庭というヤツに生まれ育っている。

ハッキリ言うと若き教師は中学生までの義務教育期間に参観日を設けようと発言したらしいのだが、その場にいた理事の一人がなぜか英徳学園全体で考えてしまったらしい。

その結果、学園中に「参観日のお知らせ」なる紙が配布されることになった。これも今までなかったことである。

「きたる○月□日、授業参観を実施いたします・・・か。まさか高校で授業参観があるとは思ってもみなかったな。」

祥吾がお知らせを手にため息をついた。俺だって参観日なんて幼稚園以来だった。

「そうだな。」

「来ようって親がいるのかな?この英徳にさ・・・」

「う~ん、普通なら来ないような気もするけど、なんと言っても初めてのことだからな、誰か来るかもしれないぜ?」

英徳に通う生徒の殆どが親の代から英徳という者が多い。つまり親自身も参観日など経験したことがないのだ。

それなら興味本位で来るかもしれない。

「英徳の参観日なんて、究極のファッションショーになるんだろうな?」

「ファッションショー?」

「参観日ってさ、いろんな親が集まるだろ?親の見得ってのもあってさ、持っている中で最高の服に最高の宝石をつけて学校に来るんだよ。」

「へえ・・・、でも参観日がどんなもんか知らない奴ばっかりだから、服なんて普段着なんじゃねぇの?」

「その普段着ってのが曲者だろ、英徳の場合はさ!」

「ああ・・・高級メーカーの服が普段着って奴らばっかりだからな。」

「そうだよ、お前のお袋さんみたいな人は珍しいんだよ。」

祥吾と友達になったとき、お袋の生い立ちを話した。それでも信じない祥吾を家に招待して、やっとお袋が庶民というか超貧乏育ちだと納得してもらったという経緯がある。

「お袋は道明寺財閥夫人って自覚が殆どないからな。」

「そうだね、鷹宮財閥令嬢って自覚もないよね?」

「まあな。あの人はどこに行っても庶民から抜け切れないな。その分、異常なまでに親父が金持ちのボンボン育ちだし、金遣い荒いから釣り合いが取れているんじゃねぇのかな?」

「―――そうかもな。」

最初の間はきっと俺の親父を思い出していたんだろう。あの道明寺財閥総帥にして、俺様男、天下の道明寺司を。

「―――お前んち、来るの?」

「どうだろ、お袋は張り切って来そうだよな。親父は・・・言わない限り来ないだろうし、お袋が来るって言わない限りは来ないだろうな。お前んちは?」

「俺んちは・・・どうだろうな。両親とも仕事があるし、でも英徳の授業風景を見るチャンスだし、来たいけど難しいってところかな?」

「そうか。」

「それにお袋は来るにしても着ていく服で悩むだろうな。」

「普段着でいいんじゃねぇの?」

「だから、この学校の普段着ってのが・・・な。両親が俺みたいに庶民だって蔑まれるのは見たくないし。」

「もし来るなら言えよ。お袋も行くように言っておくからさ。お袋と話しあって服を決めればいいじゃん。」

俺がそういうと祥吾は目を輝かせた。

「そうだな、天下の道明寺夫人が来ていく服をバカにはできないからな。」

「天下のって・・・」





数日後、祥吾からお袋さんが参観日に行くと聞かされ、俺はさっそくお袋に相談した。

参観日は行くと決めていたお袋は張り切っていた。

なんと言っても一人で小学校にいる高天から俺と椛の3人を一人で見ようと言うのだから!

親父はというと・・・知らせていない。ハッキリ言って参観日に興味ないだろうし、お袋も「どうせ忙しいから行けないわよ」と言って知らせる気はないようだ。

「じゃあ、明日はちょうど日曜日だし、用事がないなら家にお呼びしたら? みんなで話しあいましょうよ。」

みんなでって・・・話し合うのはお袋同士なんじゃねぇの?と思ったが、祥吾のお母さんも実際にお袋がどんな服を着て行くかわかれば安心できるだろう。

祥吾に電話すると、家族揃ってくるという話になった。なぜか父親も一緒に・・・。

「家族で来るってさ。つまりご両親と祥吾、それに妹だな。」

「そう、じゃあ・・・お茶とお菓子を買っておくわ。アンタもいなさいよ?椛はどうするかしら?祥吾くんが来るし、言えばいるかもしれないわね。」

椛は祥吾を気に入っている。いや、そういうレベルではないかもしれない。一方的に惚れている、つまり片思い。

祥吾は椛とも友人関係にあるが、鈍感なところがあって・・・椛の気持ちに気がついていないという感じ。

だが祥吾も恋愛感情としてはわからないが、椛に対して好きという気持ちは持っているようだ。

これから二人がどうなって行くのかは・・・椛次第かもしれない。祥吾は照れ屋だし、なかなか行動に移さないだろう。その点、椛は父親譲りの行動力。そして・・・強引だ。

「間違いなくいるだろ。椛に祥吾が来るって言っとくよ。」

「お願いね」

読みどおり椛は日曜日に出かけるつもりだったらしいがキャンセルし、家にいると断言した。





「こんにちは、おじゃまします」

祥吾が緊張している声で礼儀正しくお袋に挨拶している。

「すみません、揃っておじゃまして・・・」

恐縮した様子で挨拶をするのは祥吾のお母さんだ。

「いえ、いつも榊と椛がお世話になっています。」

「こちらこそ、祥吾がいつも・・・英徳では浮いた存在のようで榊くんとお友達になれて私どもも安心して・・・」

親どおしの社交辞令的挨拶にうんざりしながら、俺と祥吾は世間話の終了を待っていたが・・・なかなか終わりそうもないので椛が痺れを切らした。

「お母さん、お話がまだあるんだったら私たちは向こうでお茶でも飲んでいていいかな?」

「ああ!そうね、私たちも向こうの部屋へ行きましょう。」

俺たちはやっと座ることができた・・・。並べられたコーヒーやジュース。祥吾の妹と椛はケーキを食べ、俺たちはそこらにあるような安いスナック菓子を食べていた。

そういうスナック菓子が出ると思っていなかったらしく、祥吾は驚いていた。

「お前んちでも、こういうの食べるんだな?」

「・・・俺はけっこう、これ好きだぜ? よく食うよ。お客様には普通出さないけど、お前にならいいだろ?お上品なケーキやクッキーとかチョコがいいならあるぜ?」

「いや、甘いのは好きじゃないし。俺もこういうほうが遠慮なく食えるよ。」

「そうだろ?」

「―――それじゃ、私たちが遠慮しないで食べているみたいじゃない。」

横から口を挟んだのは当然、椛だ。ケーキを指差しながら、文句を言っている。

「別にお前らはケーキが好きなんだから遠慮なく食えばいいじゃん。俺らは甘いもんを食いたくないんだよ。そうなったらお菓子って少ないだろ。こういうスナック菓子が一番なんだよ。」

「ふん!おいしいのに・・・」

「おいしいとか、おいしくないって問題じゃないんだよ」

俺は椛がただ祥吾との会話に加わりたかっただけだとわかっていたが、そこでこの話を打ち切った。

母親たちは世間話に花を咲かせ、祥吾の父親は居心地悪そうにコーヒーを飲んでいる。椛と祥吾の妹は二人で何か話しながら2個目のケーキを食べていた。

「服を決めるんじゃねぇのか?」

俺が呆れたように言うと母親たちはキョトンとした顔をした。すっかり忘れていたようだ。

だが祥吾の母親とお袋が意気投合したのは良いことだ―――。

もともと超がつくほどの庶民育ちで、日本有数の財閥令嬢、財閥夫人となっても根本的な育ちは変えられないらしく、節約に余念がない母親なのだから意気投合は当然の結果だろう。





部屋を衣装室に移し、母親たちはあれやこれやと騒がしく相談している。

お袋の衣装は当然ながら高価な品もあるが、ほとんどが既製品の安い服だ。普段着るものに金をかける必要はないというのは信念で、よほどのことがない限り高級スーツなどは着ない。

子供の参観日となるとどうするのか・・・と思えば、それくらいで高級スーツなど勿体なくて着られないそうだ。

「これなんか、1万円以下のスーツなのよ!」

お袋は自慢げにスーツを広げて見せている。天下の道明寺夫人がスーツをいかに安く買ったかを自慢しているのだから祥吾は仰天していた。

「これが1万円以下?・・・どこに売っていたの?」

「ふふふ・・・フリーマーケットよ!人のお古って気持ち悪いかもしれないけど、素材のいいものが安く手に入るからとても有難いの。お古ってところが気にならないならフリマはお勧めよ。」

「―――フリーマーケットは行ったことがないわ!今度行かれるときは是非ご一緒させて。」

つくしは満面の笑みを浮かべ、大きく頷いた。

「もちろんよ!! フリマに付き合ってくれる人なんて優紀しかいないから嬉しいわ! 金持ちの人たちって気取って高級品ばかりじゃない? フリマなんて絶対に行かないのよ!」

それはそうだろう。人のお古を着る必要などないのが金持ちだ。お袋もその一員なのだが、自覚はないらしい。

「―――普通はフリマに行く財閥夫人なんていないっつうの。お袋がマレな存在なんだよ。」

つい俺が口を挟むとお袋が烈火のごとく反論してきた。

「何言っているの!?お金なんていつまであるかわからないのよ!? もしも破産したときに節約も知らないようでは生きていけないわよ!

そもそも子供服に高級品を着せる理由がわからないわ・・・すぐに成長するし、買い換える必要が出てくるのに!」

鷹野財閥が経営する紳士服店ホークロードから子供服部門を立ち上げ、デザインから販売までしている人のセリフとは思えない。

「そういうお袋が高級子供服を売ってるじゃん。信じられないセリフだな。」

呆れたように言うと、まさかの反論。

「だから余計に信じられないのよね。そもそも私は高い子供服なんて作るつもりも売るつもりも無かったのに、颯介兄さんがホークから売るならブランド品だって・・・

それなら大して売れないと思ったのに、まさか子供服にお金をかけたいって人があんなに大勢いるとは思ってもみなかったわよ!」

「今は少子化で一人っ子って家庭も多いです。そのせいで両親は子供にお金をかける傾向にあるようですね。」

「そうみたいね。でもいくら一人っ子でもそんな高級な服を着ていたら、泥だらけになって遊べないじゃない。だからね、私・・・今度はノーブランドで子供服を売りだそうと思っているの。これはまだ秘密よ?」

これは初耳だった。鷹野の叔父たちは了解しているのだろうか? 鷹野財閥がノーブランド品を売り出す?

それとも、もしかして道明寺財閥がノーブランド品を売り出すのだろうか? 親父ならお袋の言うことを聞くだろうしな。

「それは素敵だわ!」

「本当!!」

祥吾の母親と妹が目を輝かせて賛成した。祥吾も父親も軽く頷いているし賛成ということだろう。

俺もお袋の考えに賛成なんだが・・・どこで売り出すのか不安でもあった。だがそれは叔父たちと親父、お袋で決めればいいことなので黙っていた。

「成功するかわからないけど、子供服にお金をかけすぎってのも私は問題だと思うから・・・」

大賛成を受けて、お袋が恥ずかしそうに言った。この話はまだ決定事項ではないので、ここで打ち切りとなった。

「で、どうする?私はこのスーツを着ていこうと思うの。」

お袋がそう言って見せたのは淡い緑、新緑の色とでも言うんだろうか?少し若々しい感じのスーツだった。

「これも上下セットで9800円なの。元々も15000円の品で安いんだけど・・・それがバーゲンで9800円だったのよね。」

「まあ、とてもお買い得じゃないの! つくしさんって買い物上手なんですね」

祥吾の母親が感心したように言った。

「今でこそ、世間から見ればお金持ちになるんでしょうけど、私は生まれたときからずっと貧乏育ちだし、事実小さい頃から新聞配達もしていたし、18歳まではバイトを掛け持ちして家計を支えていたの。

そういうわけだから、お金の価値をよく知っているし・・・お金がないときの辛さも知っているから。それに簡単に育った環境から抜け出せるわけじゃない。」

お袋の生い立ちについてはすでに話していたから、祥吾もその家族も知っている。それを知っているのは道明寺家と鷹宮家、牧野家、F4と友人たち・・・それに祥吾たち家族だけだろう。

逆に言うと両親に関わりのない家族で知っているのは祥吾たちだけだと言ってもいい。

「それは良いことだと思うわよ。この不景気の世の中、先がどうなるかなんて誰にもわからないもの。節約の精神って大事よ。」

「―――ありがと。服は・・・私は絶対に約束を違えることはないから、絶対にこの服で行くわ。そんな他の人たちみたいにドレスアップする気はないから安心して。」

「ありがとう。私も安心して私なりのよそ行きを着ていくわ!」

そう言って二人で笑いあっていた。しかし、お袋たちはそれでいいとして・・・父親は?

「祥吾のとこはお父さんも行くのか?」

「うん・・・そのつもりらしくて親父もついてきたんだけど、男の方はな・・・」

「ああ、親父は絶対に安物なんて着ないしな。それに参観日なんて来るとも思えないんだが。」

「大丈夫よ!」

俺と祥吾がボソボソとしゃべっていると、お袋が突然太鼓判を押した。

なぜ男性の服を大丈夫と断言するんだろうか? もしかしたら、各学年の特待生の父親に参観日への参加を呼びかけるつもりか?

そもそも特待生の両親が絶対に来るとは言い切れない。祥吾のご両親のように着ていく服に悩んでやめてしまう人もいるに違いない。

だからこそ、お袋が最初に安い服で行くことには今後のために意味があるだろう。

「服なんて男性でも女性でも関係ないわよ。こういうときは道明寺財閥の名前がモノを言うから。私がこの服で行くんだから男性の服でも文句を付けられないわね。」

それもそうかもしれない。祥吾の母親がお袋をさほど変わらない安い服で行き、父親も同じような服で行く。

その時に父親の服を安物と物笑いにすれば、道明寺財閥夫人を笑ったも同然と言っていいだろう。

「それもそうだな。お袋がその節約服で行けばどう思っても貶すわけにはいかないな。」

俺はそういうとお袋に微笑みかけた。祥吾も父親も安心したように頷いている。

妹と椛は・・・なんの話をしているのか、まだお茶を飲みながら二人で話しこんでいた。

もしかしたら椛は外堀から埋めていくつもりかもしれない。祥吾攻略のためにまず妹と仲良くなるのかも。

まあ、椛が祥吾の妹を傷つけるような真似をするはずがないし、放っておけばいいだろう。

「決定ね! じゃあ、参観日当日にあなたの戦闘服を見せてもらうわ」

「・・・戦闘服?」

お袋の言葉に疑問を投げかけると、祥吾を含む全員に呆れた顔をされた。

「アンタ、何も知らないのね。参観日なんて親のファッションショーよ。戦いよ!子供なんて二の次よ。ハッキリ言って他家の生活水準を見て優越感に浸る人もいるくらいなんだから。

英徳ではそれが特に強いに決まっているじゃない。付き合う人をお金で選ぶ人が多いんだから。参観日は戦いなのよ。」

わかったような、わからないような・・・とにかく俺はこれ以上責められることのないよう、頷いた。

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